第六話 その魂の、行方。
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〜 ダンジョン【死王の墳墓】 〜
ダンジョンマスターを倒した後、ヤツが持っていた王笏を拾い上げて、コアを支配した。
ヤツ――エルダーリッチキングは、どうやら隠し部屋の中に避難民を押し込めていたようだった。
俺達は隠し部屋を開放して、魔族達に対面すべく、足を踏み入れた。
《止まれ!な、何者だ!?》
感知スキルに多くの反応が返ってきた辺りで、俺達を誰何する声が響いた。
見てみると、5人の魔族の青年(のように見える)達が、槍を手に持って、こちらを睨んでいた。
《警戒は尤もだけど、怖がらなくていいよ。俺はセリーヌ王女の友達だ。君達は【魔法都市オラトリア】から避難してきた国民だろう?王女は無事、俺が保護した。君達も彼女の下へ行こう。》
北大陸の言葉なのか、魔族の言葉なのかは分からないが、南のドラゴニス大陸では使われていない言語で、俺は彼らに呼び掛ける。
《セリーヌ王女様の!?ほ、本当なのか!?》
《おい、騙されるな!コイツもあのリッチの仲間だろ!!》
《そ、そうだ!それに姫様の友達だと!?お前みたいな胡散臭い奴が、そんな訳ないだろう!?》
《そうだそうだ!!》
う、胡散臭い!?
いや、俺もそう言って自己紹介とかしたことあるけど、それは緊張を和らげるためだったし、そもそも他人に面と向かって言われるの辛い!!
想定を超えた辛辣な言葉に、大ダメージを受ける。
ヤバい……ここ最近で2番目くらいのショックだよ……
1番?
そんなの決まってるじゃん。
家族によそよそしくされたことだよ!
まあ、それは演技で、誤解だったけどさ。
「マスター、彼らはなんと?」
後ろに控えていたアネモネが、訊ねてくる。
「うん、どうも疑われてるみたいだね。ねえアネモネ、俺ってそんなに胡散臭いかな……?」
「……そうですか。ならば、ダンジョンコアの通信で、セリーヌ王女殿下本人に説得して頂くのが、効率的ではないでしょうか?」
簡単に伝えた俺に、アネモネが打開策を提案してくる。
尚、俺の切実な疑問はスルーされた。
コア通信ね。
確かにそれが一番手っ取り早いな。
俺は未だに言い合っている魔族達に向かって、声を上げる。
《いきなり知らない魔族の男が何を言っても、信じてもらえないのは解るよ。どうだろう?今から皆を、セリーヌ王女と会わせてあげるよ。だから、避難してきたみんなを集めてくれないかな?勿論、俺達に武器を向けたままで構わない。》
ここまで譲歩すればどうだろう?
信じないまでも、試してみるか?くらいにならないかな。
《お、おい。姫様に会わせるって言ってるぞ?》
《どうせ偽物じゃないのか?》
《でもよう、あいつらずっと無抵抗だぜ?》
《俺らの方が大勢居るし、大丈夫じゃないか?それにあの男、俺達のことも姫様のことも知ってるみたいだぞ?》
よしよし。
そのままこっちに傾いてくれよ。
それから暫し話し合いは続き、なんとか俺の提案は受け入れられた。
魔族達は、もう少し奥に行った所にまとまって居るようだ。
そこまで俺達は、囲まれて槍を向けられながら進んだ。
「コイツら……頭がどんだけコイツらのために骨を折ったと思ってやがる……!」
「落ち着いて、イチ。彼らは状況が何も分からなくて、怯えているんだから。警戒は当然だよ。」
その対応に腹を立てるイチを宥めていたが、すぐに魔族達の集まる前へと着いた。
《みんな!今からこの男が、セリーヌ姫様に会わせてくれるらしい!男達はコイツが妙なことをしないように、前に集まってくれ!》
女子供は後ろへと下げられ、老若問わず男達が、壁になるように俺達の前に並んだ。
《魔王国オラトリアの皆さん。俺は、ダンジョンマスター……迷宮の主をしている、マナカ・リクゴウといいます。
皆さんは、祖国であった魔王クシュリナス殿が治める国を襲った戦火から、この南のドラゴニス大陸へと転移によって避難させられました。
此処はその大陸に数多く存在する迷宮のひとつ、【死王の墳墓】の最奥、57階層です。
ちなみに、この迷宮は既に俺の支配下に在ります。
皆さんが危害を加えられることは、万に一つも有りませんので、どうか安心してください。
俺は、魔王国オラトリアの唯一最後の王族、セリーヌ・リエルメン・オラトリア王女殿下の願いによって、貴方達を彼女共々保護するためにやって来ました。
今から、セリーヌ王女殿下から皆さんにお話ししてもらいますので、少々お待ちください。》
大まかに事情と経緯を説明し、俺は王笏――に偽装されたダンジョンコア――を、床に突き立て魔力を注ぐ。
《おい!妙なことをするなっ!!》
当然ながら、魔族の男達から制止の声が上がるが、俺の前にイチが立ちはだかった。
「頭は、テメェらのためにやってくだすってるんだ。邪魔するんじゃあ、ねえよ。」
おいおいイチさんや。
一応彼ら一般市民だから。
そんな人らがお前の【威圧】スキルをマトモに受けたら……あぁ〜、遅かったか。
腰を抜かしたりガタガタ震えて怯えちゃったりしてるよ。
一応加減はしてくれているのか、気絶しちゃったり恐慌状態になっちゃった人は居ないみたいだけど。
まあいいな。
どっちみちこうしなきゃ話は進まないんだし。
後で謝ろう。
そうしよう。
『はいはーい!お兄ちゃん、どうしたのー?』
マナエが通信に応えてくれた。
「マナエ。悪いんだけど、セリーヌを通信に出してくれ。魔族達を保護するために、警戒を解くよう彼女に説得してもらいたいんだ。」
『あーなるほど!了解だよー♪急ぎみたいだから転移使うね!』
あ、おいマナエ!
イキナリ行ったら驚かせ――――
『きゃああっ!?ママ、マナエさん!?い、いきなりどうして、どうやって!?』
『ああ!ごめーんセリーヌちゃん!お着替え中だった!?お兄ちゃんごめん!ちょっと……ううん5分だけ待ってね!このパスに繋ぎ直すから!!』
『セリーヌ殿下、御髪が――――』
ブツンっと、コア通信が切れた。
……………………
《……あー、すまない。どうやら着替え中だったみたいだ。ちょっとだけ待ってて欲しい。あ、安心してくれ!今取り次いでいたのは俺の妹で、同じ女の子だから何も問題は……!》
うん。
最初から映像を繋いでなくて、本っ当に良かったよ!
……避難民達の視線が痛いよお!!
俺達を警戒したままの男達だけでなく、彼らに護られている女性達からも、冷たい視線を投げ掛けられる。
ワザとじゃないから!
ホントだよ!?
《おい!マナカとかいうの!!》
ん?
彼は、此処に来た時に真っ先に俺達を止めてきた青年だね。
《なにかな?あ、誓って言うけど、今のは本当にワザとじゃないんだけど……》
《そんな事はどうでも……良くはないが!それよりも、セリーヌ様のことをお前、何て言った!?唯一最後の王族って言ったのか!?》
あちゃー。
ホントなら今頃、その辺もセリーヌに話してもらってた筈だったのになぁ……
でも、ここではぐらかしたりしたら余計に拗れちゃうよなぁ。
《確かに、そう言ったよ。本当なら、セリーヌ王女が伝える事柄だったけど、仕方ないよね。どうか、心を強く持って聴いて欲しい。
俺も詳しくは、観て来た訳じゃないから語れないけど……君達の祖国である魔王国オラトリアは、勇者率いるアーセレムス大帝国の軍によって、陥落したよ。
そして亡くなる前に魔王クシュリナス殿は、貴方達と同じように、セリーヌ王女をこの大陸へと転移させた。
俺は、此処とは違う別の迷宮で、セリーヌ王女と護衛の近衛兵4人を保護したんだ。》
集団から悲鳴のような声が上がる。
しかしそれよりも大きかったのは、俺への敵意と怒り。
《デタラメを言うなっ!!魔王様が!魔王国オラトリアが、帝国なんかに負ける筈がないだろうっ!?》
《そうだ!そんな嘘に騙されると思うなよ!!》
《どうせお前も、帝国の差し金なんだろうがっ!!》
それも無理もない。
見ず知らずの場所にいきなり飛ばされたと思ったら閉じ込められて、そしていきなり現れた見ず知らずの男に、自分の国の滅亡を報されたんじゃあ、信じろって方が無理な相談だ。
あーもう!
こうなるからセリーヌに任せたかったのになぁ……!
マナエさん、お願い早くしてえっ!!
でも、5分と言われた以上は、そのくらいは掛かるのだろう。
特に女性の身支度は時間が掛かる、ってのは常識だし。
しかし、内心ベソをかいていた俺の思考を、突如起こった爆発が呼び戻した。
慌てて確認すると、爆発したのは部屋の天井だった。
そしてそれを起こしたのは、天井に向けて手を掲げている、アネモネだった。
《少し黙ってください。マスターには、貴方達を害するつもりはございません。貴方達の警戒心を和らげようと、先程から必死になっていらっしゃるではありませんか。
貴方達に嘘を言って、マスターに一体、何の得が有ると言うのですか。それに間もなく、セリーヌ殿下のお声が頂けます。それまで大人しくしていてください。》
そう魔族達と同じ言語で告げると、アネモネは俺の後ろに戻り、いつも通りの澄ました顔で控えたのだった。
「ア、アネモネ……?」
思わず声を掛けてしまった。
アネモネさんってば、もしかしなくても、怒ってらっしゃる……?
「マスター。差し出口を挟み、申し訳ありませんでした。どうしても、マスターが悪し様に言われる事に耐えきれませんでした。罰は、如何様にでも。」
いや、罰なんか与えないけどさ。
俺のために怒ってくれたんだし。
ただ、アネモネがここまで他人に剥き出しの感情を向けるなんて、想像もしていなかったから、ビックリなんだけど。
それに、魔族の言葉を?
「ああ、魔族達の用いる言語は、【叡智】のスキルを用いて、たった今学習しました。意思疎通のためにマスターやセリーヌ殿下のお手を煩わせるのも、申し訳ございませんので。」
マジかよ。
この短時間で言語習得とか。
アネモネさん、マジパネェっす。
「そ、そうか…………お?ダンジョンコアが?」
やっとか!
やっとマナエから通信が来たよ!
俺は即座に通信を繋いだ。
『お兄ちゃん、お待たせー!映像はこっちで繋ぐね。セリーヌちゃん、いいよー♪』
マナエの声と同時に、床に突き立てられた王笏の先端から、映像が宙へと投影される。
その映像には、姿変えの術具によって成長した姿へとその身を変えた、セリーヌが映っていた。
映像の中のセリーヌは、一度息を吐いてから、ゆっくりと語り始めた。
『《我が魔王国オラトリアの民達よ。再び貴方達と会えたことを、私は大変嬉しく思います。》』
その儚くも、気丈に王女たらんと民達を見詰める視線に触れ、魔族達は1人、また1人と、頭を垂れて膝を着いていった。
『《頭を上げなさい、オラトリアの民達よ。私は、貴方達に残酷な事実を伝えねばなりません。》』
王女の言葉によって、顔を上げ始める魔族達だったが、その顔はどれも動揺が浮かんでいた。
中には、既に涙を流し、嗚咽を噛み殺している人も居る。
『《我等が祖国、魔王国オラトリアは、勇者とアーセレムス大帝国の手によって、滅亡しました。そしてその際、我が父、クシュリナス・ディロイ・オラトリア魔王陛下は、命を落としました。
クシュリナス陛下は、王都の民を4つの施設に誘導し、海を渡った南に在るとされていたドラゴニス大陸に点在する迷宮へと、転移させました。
私も近衛の者4人と共に、城の地下に在った魔法陣によって、この大陸の迷宮へと避難させられました。
其処で、今貴方達の目の前に居るお方、公爵級悪魔にしてアークデーモンロードの、マナカ・リクゴウ様に救っていただいたのです。》』
嗚咽する者、戸惑う者、そして俺の正体を聞かされて驚愕を浮かべる者など、十人十色の反応を示す魔族達。
そんな彼らを一度見回してから、セリーヌは言葉を続ける。
『《陛下の崩御はマナカ殿のご助力によって判明し、またその根拠も示されました。
そして、私はそれを真実と受け入れました。
我等が祖国は、滅びたのです。
しかし、貴方達民は、まだ生きています。
最後の王族たる私も、こうして命を残しています。
悲嘆に暮れるのも仕方ないでしょう。
絶望に呑み込まれそうになるのも、無理はありません。
ですがその前に、我等に降り注いだ暗闇や不幸に膝を屈する前に、私の下へ集ってください。
そこに居られるマナカ殿が、この大陸で最も安全な場所を用意して下さっています。
私も現在、其処に身を寄せています。
集いましょう、オラトリアの民達よ。
共に支え、共に立ち、共に歩くために。
どうかこのような遠方からではなく、目の前で、直接触れ合って、貴方達の無事な姿を私に見せてください。
私は、マナカ殿を信頼しています。
どうか貴方達も、そのお方を信じ、その導きに従ってください。》』
悲しみに満ちた泣き声が、この広い部屋に拡がる。
それは響き、伝播し、連鎖し、一体となる。
『《貴方達が彼の導きに従い此処に来てくれるのを、私は今から迎えに行きます。
すぐに、会えます。
待っていますよ、私の愛した国の、愛おしい民達よ。》』
最後にもう一度、全員を見回してから、セリーヌの映った映像は消えていった。
後に残ったのは、咽び泣く魔族達と、それを見守る俺達だけ。
彼女は乗り越えた。
次は、あんた達の番だよ。
全員に届くよう、俺は声を上げる。
《皆さん。王家の誇り高い血は未だ途切れていません。
魔王国オラトリアの高潔な魂は、彼女に、そして貴方達に、しっかりと受け継がれている筈です。
行きましょう。
貴方達を愛してくれている、最後の王の下へ。》
顔を上げろ。
立ち上がれ。
地に足を着けて、前へと踏み出せ。
その一歩で、新しい明日を手繰り寄せろ。
俺は、1人、また1人と立ち上がり始めた彼らを見守りながら、ダンジョンメニューを操作した。
ダンジョン【死王の墳墓】攻略、完了です。
如何でしたでしょうか?
「アネモネェ……」
「セリーヌ素敵!」
「魔族さん達泣かないで!」
そう思いましたら、ページ下部の☆から評価をお願いします!
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