第四話 メンバー交代です。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
前話ではまるで大団円みたいでしたが、まだまだ続きますよ。
お楽しみください。
〜 ダンジョン【死王の墳墓】 〜
ふんふふふーん♪
ダメだな。
この間のことを思い出すと、ついつい浮かれてしまう。
そのせいかは判らないが、撃ち出した【風の円月刃】も普段より増量中。
軌道も軽やかに軽快かつ軽妙に飛び回り、相対する屍鬼達の首を、次々に撥ね飛ばしていた。
うん、明らかに気分が魔法に伝播しているね。
でもそれも無理ないじゃん。
この間の俺の誕生日パーティー。
そもそも誕生日を祝われるなんて、今世は勿論、前世でも誕生日の日に飲みに行って、スナックのママにおめでとうって言ってもらって、ビールを1杯無料で飲ませてもらうくらいだったんだから。
彼女?
居たね、そんな娘も。
勿論お互いに祝ってはいたけど、何年前の話だよって感じだ。
現在彼女が居なければ、例外なくボッチな世界。
それが地球の、日本という国なのさ。
それはさておき、ただでさえサプライズで度肝を抜かれた誕生日パーティーだったというのに、更に。
今まで俺と関わりを持った、多くの人が参加してくれて、そのみんなが、俺に言葉を掛けてくれたんだ。
自信を持てって。
笑っていろって。
嬉しいに決まってるだろ。
そんなこんなで嬉しくて浮かれた俺は、そんなこんなで計画通りに魔族達を救けるべく、そんなこんなでダンジョン【死王の墳墓】に来ていた。
所在地は、人間至上主義を掲げる宗教組織【メイデナ教】が支配する、宗教国家【神皇国ドロメオ】と、民主制を布いている【ツヴェイト共和国】の国境付近。
一応両国の緩衝地帯に位置していて、冒険者は兎も角として、国の軍や騎士は迂闊には活動出来ない土地だ。
そんなある意味緊張感漂う場所に在るこのダンジョンだが、案の定魔物の氾濫の兆候ありって事で、高ランク冒険者以外に入場規制が布かれていた。
実はそれスタンピードじゃないんすよ、と言ったところで信じてもらえる訳もないし、魔族が云々を説明すればややこしくなること請け合い。
なので俺は、冒険者ギルドの本部長であるゲルドさんから贈られた、【ギルドの秘匿部隊】の証明証を最寄りのギルド支部の支部長に提出して、入場させてもらったという訳だ。
お、最後のグールも倒れたな。
「頭……ちぃっと張り切り過ぎじゃあねえですか?あっしらの出番が有りやせんよ。」
「マスター、未だ30階層です。魔力を温存するべきでは?」
同行者達から苦言が呈される。
今回はいつもと違って、アネモネとイチについて来てもらった。
冒険者として大手を振って活動する訳じゃないからね。
偶には外に一緒に行こうって誘ったら、来てくれたんだよ。
「んーまあ、この程度なら全然かな。ダンジョン内だと魔力の吸収効率も良いし、すぐ回復するからね。でも、出番を奪ったのはごめんよ。」
そうは言ったが、流石にちょっと浮かれ過ぎだな。
仮にも此処は他所のダンジョンなんだし、ちゃんと気を引き締めないとね。
「まあそう仰らずに、頭は休んでてくだせぇ。こっからは、あっしが前を張りやすんで。」
そう?
そういうことなら、お願いしようかな。
このダンジョンは、A級の深層迷宮に分類されている。
出現する魔物は不死者系がほとんどで、火魔法か僧侶系の神聖魔法が使えないと、なかなか厳しいダンジョンだ。
しかしそこは我が家クオリティ。
「シィッ!!」
イチが魔力を纏わせた太刀で細切れにし。
「【火炎嵐流】。」
アネモネが火炎で焼き払う。
まあ、弱点属性の魔法が使えなくても、倒す方法はあるんだよね。
例えば、骸骨の類いなら、粉砕されれば行動不能になるし、ゾンビや屍鬼なら頭部を破壊されれば倒れる。
魔力を武器や拳に纏わせれば霊体系や、死霊系の魔物にも効くし、再生能力のある吸血鬼でも再生が追い付かないほどに攻め続ければ、いずれ魔力が尽きて倒れる。
弱点属性は、言ってしまえば効率が良いってだけだ。
やりようはいくらでもある。
「歯応えの無ぇ。頭、次はどうしやしょう?」
太刀を鞘に納めて、イチが訊ねてくる。
「スタンピードじゃないって判ってるからね。余計な戦闘はせずに、どんどん先へ進もうか。」
ギルドが魔物の氾濫として警戒している今回の現象は、実はそうではないのだ。
セリーヌ達と出逢った、S級ダンジョン【終焉の逆塔】と同じように、ダンジョンコアが防衛を強化しているだけ。
このダンジョン【死王の墳墓】を以前支配していたダンジョンマスターであり、北の大陸の魔族の国の王である魔王、クシュリナスの命令によるものだ。
そんな訳で、S級ダンジョンの時と違って、無理に魔物を虱潰しにする必要は無い。
ダンジョンコアを支配して、安定させればそれで一件落着だ。
「承知しました、マスター。それではこれより、速度重視で最短距離を進みます。」
この安心感よ。
流石はアネモネさん。
俺の先生だ。
このダンジョンについて判明しているのは、アンデッドが出ることと、深層以上――50階層以上の深さだということ。
たとえ聖職者や火が得意な魔法使いを集めたとしても、それだけ深ければ魔力も尽きるし、物資も心許無いだろう。
故に、未だ踏破者は出ていないとのことだ。
まあ、俺達は例外だな。
近距離特化だけど魔力が扱えるイチ。
それだけでなく、彼に渡した魔白金製の刀【黄泉祓ひ水月】も、遺憾無くその威力を発揮している。
近・中・遠距離どのレンジでも対応可能な、オールラウンダーのアネモネ。
AGIも高く、緩慢な動きのアンデッドでは髪を掠ることすらできない。
そして、同じくオールレンジで戦える俺。
オマケに、魔力に満ちたダンジョン内だから使った傍から回復するし、魔力切れの心配はほぼ無いと言える。
仮に長期の攻略になっても、物資は無限収納に売るほど入っているし、不安要素は何も無い。
ただ駆け抜けるのと同じ要領で、魔物と遭遇する傍から斬り伏せ、焼き払い、押し通る。
そこに力みも戸惑いも無く、ただひたすらに、ダンジョンの最深部を目指して走って行った。
さて、57階層まで到達していた俺達は、キャンプを片付け、再び墳墓の通路を進む。
このダンジョンに足を踏み入れてから、凡そ丸1日ってところか。
S級ダンジョンの時と違い、余計な戦闘は避けて来ているから、進行も早いね。
ダンジョンの様相は、最初から一貫して遺跡型だ。
まあ、墳墓って名が付くくらいだもんね。
「マスター、そろそろ最深部に近付いてきているのでは?」
松明の明かりしか無い薄暗い通路に、ピンヒールの靴音を響かせながら、アネモネが訊いてきた。
「へえ。どうしてそう思うんだ?」
まともなダンジョンアタックは初めてな筈のアネモネが、何故そう思ったのか気になり、質問に質問を返す。
「単純な推測です。55階層を越えた辺りから、急激に魔物のレベルが上がっています。それに、殺傷力の有る罠の仕掛け方も、より悪辣なものになっていますから。マスターの罠ほどではありませんが。」
うん、それ正解だと思うよ。
っていうか、ちょっと待たれよ。
俺の罠ほどじゃないって、どういう意味さ?
俺の仕掛ける罠って、そんなに酷いの!?
「あっしも同意見ですね。明らかに、あっしらへの殺意が増してきておりやす。まあ、殺意を匂わせない頭の悪逆非道な罠に比べりゃあ、児戯みたいなモンですがね。」
イチまで!?
「ええ〜……俺の罠って、そんなに酷いの……?」
思わず口に出して、訊いてしまった。
「肯定します、マスター。」
「そんだけ有効な罠ってことでさぁ。」
そして2人に揃って即答されてしまった。
マジで?
そんな酷い?
いや確かに、【火竜の逆鱗】のシェリーやミュゼなんかにはしょっちゅう文句言われてたけどさ。
性格悪いだの、根性曲がってるだの言いたい放題言われてたけどさ!
仲間からもそう思われてたなんて……俺、ショック。
「マスター。落ち込む前に、敵ですよ。」
「まあ大丈夫でしょうが、気を付けてくだせぇ。」
うう、フォローも無しかよ……
おのれ……!
感知スキルが拾った反応に、向き直る。
ふむ、これはなかなか……エグイな?
現れたのは、通路いっぱいにその腐肉の身体を広げ、迫って来る肉塊。
鑑定した結果は……腐肉喰らい。
生者も死者も構わずに喰らい、自身のその腐った血肉に取り込み、肥え続ける魔物だな。
「モロスイーターだって。注意すべきは強酸の毒液と、腐った身体に纏わり付いた毒の粘液、それと体液も強酸性みたいだな。あとは、単純な質量も脅威だな。」
「そりゃまた、厄介な相手でやすねぇ。」
いや、嬉しそうにしてるじゃん。
「イチ、できるだけ細かく刻んでください。あとは私が、良い焼き加減に仕上げます。」
アネモネさんもお料理する気満々だった!?
絶対食わないからね!?
「あー、念のため2人とも結界張るよ。」
俺は強酸や毒から2人を護るために、動きを邪魔しないタイプの結界、【防護戦闘服】を施す。
人体にとって有害な物質の侵入を阻み、呼吸は妨げない。
更に防熱、防寒もバッチリの優れ物な結界だ。
うん。
コレが有れば、チェル〇ブイリだって余裕で歩けるはず。
と、そんなくだらないことを考えてたら、さっさとイチが斬り掛かっていた。
躊躇無ぇなおい。
「シイィィィッ!!」
鋭い呼気と共に銀閃が舞い、バラバラになった腐肉片がイチを避けるように飛び散る。
うげっ。
切り離されてもビチビチ動いてるんですけど。
通路を塞ぐ腐肉を斬り払いながら突き進むイチ。
相変わらず凄い剣技だな。
そんなイチを悠然と歩いて追い、床に散らばる細切れの腐肉を焼き払うアネモネ。
うん、こっちは容赦無ぇな。
そのままどんどん先へ進んで行ってしまうので、仕方なく俺も、後を追った。
チンッと、澄んだ音を響かせて、太刀が納刀される。
「お疲れ様、イチ。大丈夫か?」
モロスイーターに塞がれた通路は、実に50メートル以上の長さだった。
その通路いっぱいに詰め込まれた腐肉の塊を、端から端まで細切れにしてのけたイチ。
しかしそんなイチだが。
「柔くてデカいだけで、特に面白味の無い奴でしたぜ。まあ、頭の結界が無けりゃあ、酸の1滴でも掛かったかもしれやせんがね。」
うん、化け物である。
今手合わせしても、俺勝てるかなぁ……?
「焼却処分も完了しました、マスター。」
肉片を最後の一欠片まで焼き尽くしたアネモネも、特に疲れた様子はない。
ははは。
俺の家族はみんな頼りになり過ぎるな。
「アネモネもお疲れ様。それでなんだけど……どうやら終点みたいだよ。」
俺は、目の前に聳え立つ扉に顔を向ける。
モロスイーターを突破した先は、突き当たりだったのだ。
うん、これ普通の冒険者じゃ突破は無理だろ。
魔法使いじゃあ魔力切れ起こすだろうし、イチみたいに斬り裂いて進むにも強酸の毒液や体液が有る。
しかもアレ、【再生】スキル持ちなんだよね。
切り離されても動いていたのは、それが原因だな。
放っとくとウゾウゾ集まって、また元通りだ。
そんな厄介な魔物に護られた扉。
どう考えても最深部か、その守護者が居る部屋だろう。
「承知しました。マスター、休憩が必要ですか?」
肉片を満遍なく焼いて回った一番の功労者であるアネモネが、そんなことを言ってくる。
「いや、俺ほとんど戦ってないし。寧ろ、アネモネやイチは大丈夫なの?」
休むなら君達でしょうが。
しかし、そんな俺に返ってきた返事は。
「問題ありません。」
「なんてこたぁ無ぇですぜ。」
まったく、本当に頼りになる仲間だよね。
鑑定してみても、2人とも大して消耗していなかったので、そのまま先へ進むことに決めた。
さて、待つのは鬼か、邪か蛇か……ってね。
メイド総長と若頭が出撃しました。
はい。
マナカさんより無双感バリバリであります(笑)
「扉の先には何が!?」
「イチさん抱いて!」
「流石アネモネ先生!」
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m(*_ _)m