第一話 いつの間にか、来てた。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
トラブルにより1日遅れとなりましたが、本日より新章開幕でございます。
物語としては中盤の折り返し地点。
これから先、どういった展開が待っているのか?
どうぞ、お楽しみください!
m(*_ _)m
〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 迎賓館 応接間 〜
う〜む、どうしてこうなった?
いやまあ、ある意味当然の流れかもしれないけどさぁ。
はい。
俺の目の前では現在、ユーフェミア王国国王であるフューレンス・ラインハルト・ユーフェミアと、北の大陸の亡国、魔王国オラトリアの王女であるセリーヌ・リエルメン・オラトリアによる、舌戦が繰り広げられていた。
「いやはや、今は亡き魔族の国より亡命なされたのが、まさかよりにもよって、我が王国とは。何とも怪訝に思うほどの巡り合わせよ。神々の戯れの奇にして妙なる事この上なきと、この日ほど感じたことも無いものよのう。」
「まことにでございますね。そも我等にとって、このドラゴニス大陸は全くの未知の領域でありますれば。そこでこうして、一大強国の主である御身とお目通り叶いし偶さかは、まさに天の采配と申しても良い事柄でしょう。」
いや、お二人さんよ。
表面上は穏やかに話してても、副音声がダダ漏れ過ぎるんですけど……
片や神経と髪の毛を減らしながらも、国内の統治と仮想敵国への牽制と、山積した問題に生き埋めにされそうになっている、療養に訪れた筈の王様。
『永き世に渡って我等が国土を侵犯せんとした魔族が、たとえ亡命と言えどよくもこの地に居座っているものだ。まったく、神々の気まぐれにも困ったものだ。一体、何を目論んでいるのやら。』
そう、だいぶ後退が進んだと見受けられる額を光らせ、言外に語る王様。
片や前世で非業の死を遂げ、魔王の娘として転生してきたはいいものの、僅か8歳にして治める国を追われ、父親である魔王を国諸共失った悲劇の王女。
『そのような事は我が国とは無関係です。そもそも南の大陸の存在など、私の国では魔王たるお父様しか知る者は居なかったのですからね。私達の縁は全くの偶然です。言い掛かりはやめてください。』
姿変えの術具によって、見た目には18,9歳程の姿で棘を刺し返す、元現役JDの知識力を遺憾無く発揮するロリ王女。
やめてよう……!
俺の精神力がゴリゴリ削れてくよう……!!
まったくもう。
「あー、セリーヌ?君は一応俺の客人なんだから、少し控え目にしてくれないかな?
それから王様?勘違いしないでほしいけど、ユーフェミア王国に割譲したのは、現状では【幸福の揺籃】の在る階層だけだよ。
俺が、個人的に自分の支配領域に保護しているんだから、そこを啄くのはお門違いだよ。
俺の迷宮の所在地は、飽くまでも王国の領土外なんだから。」
多少強引にでもこの空気はなんとかしないと、話し合いも何もあったんもんじゃないよ。
「……ごめんなさい、マナカさん。顔を潰してしまうところでした……」
「う、うむ……すまぬ、つい感情的になってしまった。」
まあ王国からしてみれば、魔王国の魔族も、北から攻め入って来る魔族も同じようなもんだろうし。
逆にセリーヌにしてみれば、命からがら逃げ延びた先で、あらぬ嫌疑を、個人ではなく国に掛けられれば、腹も立つのは無理もない。
だからってなぁ。
いきなりトップ同士がギスギスしてちゃあ、何も変わらないし、先へも進めやしないと思うんだ。
拠り所となる魔王国が既に無く、帰る場所の無い魔族達にも。
そして魔族とは因縁浅からぬ、ユーフェミア王国にとっても。
なんとか双方にとって害が無く、それでいて利益の有る今後の展望という物を、この場で見い出せたら、と。
そう思って、この会談の場を整えたのだ。
「セリーヌ王女……いや、オラトリア国王代理殿と呼ぶべきか。謝罪する。確かに国外の魔族に関しては、貴姉らの国の問題とは言えぬ。申し訳なかった。」
「ユーフェミア国王陛下。陛下の謝罪を受け入れます。私も失礼を致しましたこと、お詫び致します。」
うんうん。
歩み寄りは大事ですよね。
さて、図らずも場は温まったみたいだし、そろそろ始めようか。
「それじゃあセリーヌから、今後の望みって奴を、話してくれないかな?」
「分かりました。」
セリーヌは居住まいを正して、俺の顔と、王様の顔をしっかりと見据えてから、その望みを語り出した。
「先ず、今は亡き魔王国オラトリアよりの避難民の保護を、最優先として行いたいです。マナカさん達のご協力で、分散した避難民達の居る4つの迷宮は、既に特定してあります。」
そう。
S級ダンジョンを攻略してひと山越えてから3ヶ月。
何も俺だって、王様が家族を連れて俺のダンジョンに来るまで、のんべんだらりと過ごしていた訳では、決してないのだよ。
冒険者ギルドや情報屋のゴンツォ達から齎される情報を基にして、アネモネの固有スキルの【叡智】とも照合し、オラトリアの陥落に合わせて活性化したダンジョンを探り、特定したのだ。
「……その迷宮の名、尋ねても?」
そりゃあ王様も気になるだろう。
仮に活性化した迷宮が国内に在れば、また避難した魔族達が問題を起こせば。
また国内情勢は一気に混乱するし、下手をすれば国民が巻き込まれかねないからね。
「構いません。我等は、其処に居るであろう同胞を、救い出したいだけですから。ただ、私はこの大陸の国に明るくありません。すみませんが、マナカさん、お伝えくださいますか?」
「勿論いいとも。」
セリーヌから説明を引き継ぐ。
安心して良いよ、王様。
ユーフェミア王国内には、活性化したダンジョンはひとつも無いからさ。
「対象の迷宮は4つ。セリーヌ達を保護したS級迷宮の核に遺された遺言に在った迷宮の名称とも、完全に一致したよ。」
大陸の西端、エルフ達の各氏族が寄り添い治める、神秘の森【ノクトフェルム連邦】内に存在する、脅威度不明のダンジョン【神霊樹の祠】。
大陸最大の勢力の宗教組織【メイデナ教会】が実質支配している、【神皇国ドロメオ】と、民主制を布いている【ツヴェイト共和国】の国境付近に在る、A級ダンジョン【死王の墳墓】。
ユーフェミア王国から隣国の【ラジリオ商業連合】を挟んだ、ドラゴニス帝国領内に在る、A級ダンジョン【愚者の塔】。
そして、惑わしの森が切れる場所。
大陸の北端、魔族の支配領域と言われている【魔界】に在るとされる、脅威度不明のダンジョン【龍の巣】。
……まさか、こんな近所に在るなんてね。
【龍の巣】に関しては、連日森の深部に鍛練に出掛けていたイチが齎した情報により、特定できた。
森の深部から、魔物達が徐々に南下して来ている。
そしてそれを追い立てるように、竜種の魔物が増えてきていた、と。
アネモネが世界のアーカイブにアクセスした情報に拠ると、大陸の北端である魔界は、千五百年ほどの昔に自らを【竜王】と名乗り、大陸全土に侵攻した、伝説の魔物が産まれた土地だということだ。
いくらなんでも出来過ぎだよな。
そこで、我が家の戦力総出で森の深部へと赴き調査した結果、ダンジョンの存在を確信したのだ。
そして、大陸の何処にも【龍の巣】なんてダンジョンが無いことが判明した以上、消去法でそこしかあるまい、となったわけだ。
「……なるほど。何れも厄介な場所に在るものだな。順序はどう考えておる?」
「最優先は、神皇国ドロメオの近くの【死王の墳墓】です。伺ったところ、彼の国は人間族以外を厳しく排斥しているそうですからね。時点がノクトフェルム連邦の【神霊樹の祠】で、3位に【龍の巣】、最後にドラゴニス帝国の【愚者の塔】ですね。」
王様達が来るより前。
入念に、時間を掛けて調査を行った結果、我が家の面々みんなで話し合って決めた順番だ。
「ふむ。して、その順序の根拠は?」
「最優先は申し上げた通りですね。同胞達の身の安全が、何より優先されます。ノクトフェルムに関しても、根拠はドロメオです。過激な思想の宗教国家と国境を接している限り、エルフの国がいつまでも安堵されているとは、思えないからです。
そして【龍の巣】を攻略することは、大陸の北端に新たな可能性が生まれることを意味しています。陛下の国に度々侵攻する魔族達の実態も、それによって明らかになるでしょう。
帝国を最後としたのは、冒険者ギルドの権威が最も発揮できる土地だからです。マナカさんのご協力により、【愚者の塔】への介入は、ギルド本部の権限で抑制できるそうですから。」
ここに来て、ゲルド本部長と交わした約束が、功を奏してきたわけだな。
本部長は、先のS級ダンジョンの魔物の氾濫鎮圧の報酬として、似たような兆候を示した迷宮の対処を、俺に譲ってくれることを約束してくれた。
その権利をここで行使した、ということだ。
あれから時間も経っているし、もうひとつの約束である【ギルドの秘匿部隊】たる証明証も、ギルド支部経由で俺の下に届いている。
これでいつでも、大手を振って【愚者の塔】は攻略できることとなったのだ。
「なるほど、良く解った。そして察するに、同胞を集わせた後は、それらの安住の地が必要となろうな。考えは有るのだな?」
いいね。
流石は王様。
既にその案には予測が着いているだろうし、それによって得られる利益も計算し始めているみたいだな。
「【龍の巣】の攻略並びに、魔界の魔族達の実態を暴いた暁には、その北の地を、我等魔族に安堵していただきたい、と考えております。そしてその上で、貴国とは交易を結びたい、とも。
さすれば、貴国の抱える北への脅威は無くなり、周辺諸国との折衝に、より力を割くことが可能になるかと。
マナカさんの調査によれば、惑わしの森の深部以北には、希少な鉱石の鉱床が眠っている可能性が高い、とのことです。
鉄鉱石は勿論のこと、より希少な魔銀鉱石等も、優先的に取引が可能になるでしょう。」
俺は別に、セリーヌに対して肩入れし過ぎとは思っていない。
あの時に交わした、『ダンジョンの支配権を譲って貰う代わりに、彼女の助けになる』という約束の範疇だ。
そりゃあ、曲がり形にも同郷だし、散々大変な目に遭ってきた彼女の力になりたいと思うのは、別に変じゃないだろう?
ただ、俺の仲間……家族達は、俺の我儘に振り回されている形になってしまっている。
だから、この3ヶ月間。
俺は家族達ともしっかりと向き合い、一人一人と話を重ねてきた。
今現在となっては、俺自身が抱えるモノもだいぶ大きくなってしまっている。
それについては後悔は無いけれど、その犠牲になるのが、最も身近な家族だという事実は、受け入れ難い。
だから、俺は家族の一人一人と、一緒に過ごす時間を作った。
それについては、長い俺の魔族生で忘れることの無いよう、日記にでも認めることにしようか。
「つまりオラトリア国王代理殿は、北の大地を開発し、魔族の国を興したいと、そう申すのだな?
確かに、鉄鉱石や希少な鉱石が安定して得られるのであれば、我が国にとっても喜ばしいことだ。しかし、ならば我等がその利権をと考えることも、また当然であろう?
我が国の属国となり、庇護下に入ると申すのであれば、まだ解る。しかし貴姉は、そうは考えてはいないように思えるのだが。」
俺が考え事をしている間に、何やら物騒な話になってきていた。
まあ、王様の言うことも尤もだな。
目の前に特大の利権がぶら下がっているんだ。
それを態々、亡命してきた魔族達にくれてやる義理も無いもんな。
「勿論、ご不満の点に充てる担保は有ります。いえ、寧ろその担保を、これから創っていくのです。
我等の故郷の大陸では、種族柄もあって魔法の技術が発達しています。また、その魔導と、人の持つ知恵を組み合わせた【魔導科学】が、発展しているのです。
今回の避難民の中には、そういった知識を豊富に持つ者も含まれています。
我等が興す国をお認めくださるのであれば、その知識と技術の粋を、お伝えしましょう。」
遂に手持ちのカードを切ったセリーヌ。
彼女が言ったように北の大陸では、全土で魔導科学なる分野の研究、発展が続けられていたらしい。
その技術者や研究者による、技術交流。
そして、魔族特有の優れた魔法技術の教示。
それらは王国にとっても有益であることは、間違いないだろう。
今までは、迷宮産の術具を解析、模倣するくらいしか、そういった技術は無かったようだしね。
技術交流を行えば、より王国を発展させ、富ませることが可能になる話だ。
うん、上手くできた話だと思う。
セリーヌは、北の大地に魔族達の安住の地を創り、鉱脈の利権と技術提供による取り引きの公平性を保つことができる。
そして王国は、北からの脅威が無くなり、国力に余裕が持てるようになる。
また、現在は隣国の【スミエニス大公国】のみに頼っている金属鉱石等の供給も、魔族の国と分散し関税を調整することで、より安定して得る事ができるようになる。
そして何より、新たな技術の教導を受けることにより、より国を発展させることができる。
それらの取り纏めを王が主導で行えば、後に大使なりの代理を寄越すことになっても、王家の権威は、より増すことになる。
「随分と我等に利の大きい取り引きであるな。まだ何か、申していない事があるのであろう?」
王様からの言及。
そりゃあね、本当に今の条件なら、王国ばかりがボロ儲けだ。
「はい。実はもう一件。いずれ興すこととなる我等の国を。貴国と、迷宮の主マナカ殿の結ぶ同盟の一端に、その名を加えていただきたいのです。」
昨日は更新できず、申し訳ありませんでした。
先日ご報告しました、以前投稿部分の本文消失ですが、昨日の内に無事改稿を行うことができました。(第104部分 第六話 頑張ったらご褒美です。 2020.12.15改稿済)
以前とは少し変化していますが、話の本筋は変わっていませんので、宜しければもう一度、お目通ししていただけますと、嬉しいです。
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テケリ・リ