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閑話 ご延長ありがとうございます。お支払いは現金でお願いします。

いつもお読み下さり、ありがとうございます。


昨日はどうしても筆が進まず、書き上げられませんでした……


楽しみにして下さっている読者の皆様、どうかこれからも応援よろしくお願いいたします!


m(*_ _)m


 

 〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃(ウィール・クレイドル)】 〜


 《Aランク冒険者ダージル視点》



 俺はダージル。

 ただのダージルだ。


 Aランク冒険者のみで構成されたパーティー、【火竜の逆鱗】のリーダーを務めている。


 俺達は現在、色々と有って知り合った魔族の男、マナカが創造した、迷宮の中に在る都市に滞在している。


 目的は勿論、そのマナカが創った迷宮を攻略すること。


 結果は……三度攻略に挑み、三度とも途中で撤退している。


 一度目なんかは、俺が瀕死の重傷を負って、危うくパーティー全滅の危機に陥っていたところだった。


 そんな危機的状況を、迷宮の主本人であるマナカに、救い出された始末だ。


 そして現在は、近く四度目の挑戦に向かうための、打ち合わせ中だ。


「やっぱり、警戒すべきは環境の変化だよな。岩場をやっと突破したと思ったら次は砂漠で、更に今度は海だぜ?船の上じゃ安定して魔法で狙えないし、弓矢も同様。さらには、盾役の戦士は船酔いときたもんだ。どーするよ?」


 一度目の攻略の際に撤退に追い込まれた岩場エリア。


 魔物は巨人系と罠のように隠れ潜むスライム各種、そして岩に擬態したロックゴーレム達。

 深くなると、更に石化能力を持つコカトリスやバジリスクが追加され、その吐息と、その視線で行く手を阻んできた。


 一度目の時は、索敵範囲外からのバジリスクの石化の魔眼による攻撃で、俺が真っ先にやられちまったんだよな。


 二度目の時には、バッチリ石化対策をして挑んだ。

 石化治療薬は勿論、感覚を鋭敏にして索敵範囲を広げることのできる術具なども、用意した。


 区切りである25階層でいきなりワイバーンに襲われたのには驚いたが、冷静に戦えば、対処は充分可能だった。


 そして階層主との戦い。


 複数種類の魔物が、徒党を組んでいやがった。


 ボスはメデューサで、お供にコカトリス、バジリスク、ワイバーンって編成だった。


 遮蔽物の無い開けた広場での戦いだったから、兎に角状態異常攻撃が鬱陶しかったな。


 まあ、治療薬を飲んだり遠距離からしつこく攻撃したり、あとは剣の腹や砂埃で視界を遮ったりと、相手の状態異常攻撃をひたすら妨害してやって、なんとか倒した。


 そして降りたら……砂漠だった。


 砂漠は、兎に角昼夜の温度差が極端で、ちゃんとした装備を整えなければ死に直結する。


 このエリアを越えるには準備が圧倒的に足りていなかったため、転移装置を使い登録して、ここで撤退した。




 三度目の挑戦だ。


 今度は砂漠での活動に合わせた装備を整え、26階層から始まる砂の海へと足を踏み入れた。


 魔物の種類は、主に砂漠に生息するスネーク系やスコーピオン系、それと砂の中を巣とするワーム系が居た。


 何処までも広大な砂の海を歩き続け、斥候のミュゼの感知能力を頼りに、魔力の濃い方角を目指す。


 砂漠では、砂に潜っている魔物もそうだが、熱と光による蜃気楼での幻惑が、最も性質(タチ)が悪い。


 目に頼って蜃気楼を追ってしまえば、無駄に時間と体力を消費しちまうからな。


 あとは突発的に発生する流砂も厄介だ。


 ただでさえ踏ん張りの効かない砂の上で、流砂に巻き込まれればひとたまりもない。


 開けた視界とは裏腹に、俺達は慎重に進まざるをえなかった。


 運良くオアシスに辿り着けても、油断は出来なかった。

 なにしろ俺達は、マナカ(アイツ)の性格の悪さを充分に知ってしまっていたからな。


 案の定オアシスも安全ではなく、小型の毒を持った蠍や蛇の魔物が、忍び寄って来た。


 念の為見張りを立てて、交代での休憩にしといて良かったぜ。


 あと最悪だったのは、サンドローカストの大群だ。


 空を真っ黒に塗り潰して、襲いかかって来た。


『いやあああああああああっっ!!??』


『むりっ!むりいいいいいいいいっ!!!』


 俺も叫びたかったが、シェリーとミュゼが半狂乱で騒ぎ出したもんだから、逆に冷静になっちまったな。


 なんとか、ブライアンと一緒にパーティーを護りつつ詠唱させた、ロイドの火魔法の範囲攻撃で大量に焼き払い、追い払った。


『あの性悪男、絶対許さないわ!!』


 この迷宮で1日に一度はこのセリフを聴くのも、既にお馴染みになったな。


 マナカ、お前相当恨まれてるぞ。


 そんな感じで砂漠を進み、流砂を避け、砂嵐をやり過ごし、砂から飛び出して来る魔物を蹴散らして、夜は火を起こして暖を取り休みながら進むこと4日ほど。


 階層も進み、29階層の終点なのか、巨大な三角形の建造物に辿り着いた。


 感じる魔力は、明らかにこの建造物の奥から噴き出している。


 俺達は、警戒しながらもそこに足を踏み入れ、次の階層へと移動した。


 30階層の試練はどうやら、この建造物の内部の探索であるらしかった。


 29階層までの砂漠と違い、身体は楽だったな。


 ただ、遺跡や墳墓にも似た造りの内部は、悪意ある罠に満ち、魔物も種類が豊富で、アンデッドまで混ざりだした。


 常に気を張っているせいか、俺達全員が感知能力に目覚めたってのは、素直に喜んで良いのか悪いのか……


 なんなんだよ、転がる巨大な丸岩とか、急に閉じ込められて水攻めとか。

 脇道や水を抜く仕掛けを見抜けなかったら、呆気なく死んじまうとこだったぜ。


 あとは、時折徘徊しているデカい半獣半人の黒い魔物達。


 アレは強過ぎる。倒せねぇ。逃げるしかねぇ。


 確認しただけでも、頭が猫の奴と、犬の奴、それと鷹の奴が居たな。

 マナカ(アイツ)のことだから、まだ居るかもしれねぇ。


 そしてやっとの思いで最奥に着いたと思ったら、階層主との戦いだった。


 相手はスフィンクスという、巨大な魔獣。

 それが、大量のマミーを引き連れて、待ち構えていた。


 戦って数分、斥候のミュゼが真っ先に異変に気付いた。


『リーダー!マミーが減ってない!倒した傍から湧いてきてる!!』


 巫山戯んなと。


 俺達は同時に理解した。

 親玉(スフィンクス)を倒さなければ終わらない、ってな。


 俺とブライアンにコリーの守護を重ね掛けしてもらい、突貫してスフィンクスまでの血路を開く。


 ミュゼがスフィンクスを撹乱し、コリーの結界で護られたシェリーとロイドが集中して火力を浴びせる。


 シェリーの矢が急所を抉り、ロイドの魔法がマミーごと炎に包む。


 後衛達を襲うマミー達は、コリーが【浄化の聖光(ターンアンデッド)】で退けた。

 湧き直しのマミーは初期の配置に戻っていたのが、唯一の救いか。


 ポーションも魔力回復薬も湯水のように使い、ひたすらスフィンクスの体力を削り続けた。


 脚へのダメージで転倒したスフィンクスの眉間にブライアンの拳が刺さり、それがトドメになった。


 スフィンクスは魔石と宝箱に変わり、周囲に湧き続けていたマミー達も、一斉に靄へと変わった。


 隠されていた階段と転移部屋が現れて、俺達は次の階層を覗いてから、絶望しながら撤退したんだ。




「なんなのよ海って!?ご丁寧に、船着き場に立派な船まで用意しちゃってさあ!?」


「海の中は魔物だらけだろうし、船上での戦いは避けられないな。魔物避けの術具は何とか揃えられたが、絶対じゃないしな。」


「大物が来たら、一撃で海の藻屑じゃないですか?」


「いや、だから時間を掛けて、転移石を人数分揃えたんじゃねぇか。船をやられても逃げられるようによ。」


 そう。

 俺達は、海エリア攻略のために、かなりの時間と金を費やして準備していた。


 都市にギルド支部が開業したのは有難かったな。

 おかげでギルド口座から金を引き出して、資金にできた。


 マナカの野郎、ギルド支部の近くに、迷宮探索用の道具屋まで創っていやがった。

 店員は、最早見慣れた人狼(ワーウルフ)人猫(ワーキャット)、それに街の住人だった。


 人狼や人猫の店員が居る、ということは此処はマナカの店だってことだ。

 アイツの懐に金が入るってのは釈然としねぇが、背に腹は代えられねえ。


 何より値段も相場通りだし、品質も上々。

 回復薬の類いは、一通り揃えられた。


 あと、海エリアのマップも売っていたな。


 攻略の糸口が欲しかった俺達は、そのマップも購入(1枚金貨5枚もしたぞ!)して、今みんなで確認しているところだ。


「大小色んな島が存在するんだよな。そのどれかに、次の階層への入口があるっぽい。」


「ハズレの島には何が有るんでしょうかね?」


「さてな。魔物の集落か、島自体が罠か、はたまた安全地帯なのか……」


 このマップ……というより海図か。

 海図には、数々の島の位置関係は示されているものの、そこに何が有るのかは記されていない。


 自分達で確かめて、正解を見付けろってことだろう。


「ほんっと、よくもここまで性格悪い迷宮を思い付くわよね。」


「だから、マナカさんは王国相手に生き残れたんだろうさ。ブライアンは船酔い、なんとかなんないのかい?」


「(フルフル)」


 ダメか。


 ミュゼの質問に、ブライアンが肩を落としている。


 戦士であり盾役のブライアンが、船酔いでまともに戦えないってのが、正直一番痛えな。


 しかも広大な海エリアだ。


 島で適宜休むと言っても、何日もそれを繰り返してたらいずれ精神もすり減るだろう。


「そうすると……()()を試すしか無いでしょうね……」


 僧侶のコリーが取り出したのは、海エリアの海図が売られていた横に、目立つ様にゴテゴテした立て札と共に並べられていた、小瓶に入った丸薬。


 その立て札には。


『長い船旅や、乗り物での移動のお供に!超☆強☆力☆酔い止め薬!!二日酔いにも効果バツグン!?用法用量を守って、正しくお使いください。※眠くなる成分は含まれておりません。』


 と書かれていた。


 ホントかよ……と、訝しみはしたものの、もしコレでブライアンの船酔いが止められるなら、金貨1枚もそう大した出費とは言わないだろう。

 一瓶20粒入りだし。


「一度迷宮に入って、試してみたらどうかしら?それか、漁業地区に行って船を出してもらうか……」


「海と川とじゃあ、全然違うだろ?海で試さなきゃ、意味ねえだろ。」


「そうさねぇ。明日いっぺん迷宮に行ってみて、薬を試す。効くようなら、岸の見える付近で1,2戦やってみて感触を掴んで、後日本格的に攻略……って感じでいいんじゃない?」


「それが良さそうだな。ブライアンもそれで良いか?」


「(コクコク……!)」


 いや、喋れっての。


 何はともあれ、翌日俺達は最低限の準備をして、迷宮の海エリア入口へと戻った。




 結果としては、酔い止め薬は効果バツグンだった。


 効き目が出るまでに掛かったのは、600数えるくらいの時間か。

 先に飲んでから乗り込めば、ブライアンも船上で、充分に活躍できた。


 効果時間は、凡そ一刻ってとこか。


 これは人それぞれだろうな。

 船酔いにも人によって程度の違いはあるだろうし。


 そして、最初に話し合っていた通り、今日は無理をせず、船着場へと船を戻して、迷宮を出た。


 はあ……


 これで都合、四度目の撤退か。


 信じられるか?

 これでまだ、30階層なんだぜ?


 Aランクパーティー【火竜の逆鱗】の名が泣くぜ、まったく。




「ああーーーーっ!!??」


 宿屋に戻った俺達は、早速今回の海上戦の反省をしようと、1階の食堂に集まっていた。


 そして昼飯を頼み、いざ飯と反省会って時に、シェリーがいきなり大声を上げた。


「なにさ、いきなり大声出して。どうしたのさシェリー?」


 頭の狼の耳を押さえつつ、シェリーに訊ねるミュゼ。

 俺や他のメンツも、何事かと彼女を見る。


「こうしん……」


「は?なに?」


 顔を真っ青にして手にカードを持っていて、その手は、震えている。


「滞在カードの更新!!私達してないわよね!?もう3ヶ月も過ぎちゃってる!!」


「「「「な、なにいいいいいいいいっ!!??」」」」


「(…………っ!?)」


 いや、だからブライアンは喋れ!!って、そんなこと言ってる場合じゃねえ!!


「しかも、冒険者証の方も、無依頼猶予期間ギリギリよ!?迷宮行ってる場合じゃないわよ!!??」


 くそっ!?

 確かにシェリーの言う通りに、大事件だ。


 俺達は慌てて飯を食い終えて、全員で役所に走った。




 〜 政庁舎 観光課 〜



「よかった……!皆さん、ご無事だったのですね!?滞在期限が過ぎているのに一向にいらっしゃらないので、何かあったのかと思いましたよ!」


 受付のカウンターには、俺が退院した時に更新の手続きをしてくれた若い男が、安心したような顔をしている。


「すまねぇ。迷宮に夢中になってて、すっかり忘れちまってた。確か、罰則金が掛かるんだよな?幾らだ?」


「はい。少々お待ちくださいね。」


 確か日毎に幾らかずつ取られた筈だったな。


 退院した時に聴いた話を、朧気ながらも思い出す。


 そして、1週間を超え1ヶ月を超えと、高くなっていった気がする……


「お待たせ致しました。ええー、メンバー6名様全員の方が、3ヶ月の不法滞在となります。申し訳ありませんが、皆さん合わせて、金貨180枚と、小金貨6枚、それと銀貨30枚の罰則金をお支払いいただきます。」


 くっ!高えっ!?


 だが、手続きを忘れてたのは俺達だ。

 文句を言うのは、筋が違うだろう。


「ロイド、ギルドに行って、口座から金貨200枚を引き出して来てくれ。勿論、パーティー口座だぞ?」


「あいよ、待ってな。」


「ああ。ついでに後で全員で来るって、フィーア嬢ちゃんに伝えておいてくれ。」


 りょうかーい、とロイドは走って庁舎を出て行った。


「やれやれ、高く付いちまったな。」


 その後ろ姿を見送りながら、思わず言葉が漏れた。


「すみません、規則でして……」


 その言葉に反応して、受付の男性が申し訳なさそうにする。


 俺は慌てて。


「いや、悪いのは俺らだ。すまないな、気にしないでくれ。」


 と、手を振って慌てて謝る。


「それより、このまま滞在期間の延長を頼みたい。今度は、最長の3ヶ月で頼みたいんだが?」


 まだまだ迷宮の攻略には、時間が掛かりそうだからな。

 余裕を持って、最長で頼んでおいた方が良いだろう。


「では、先にそちらの手続きを進めておきましょうか。


 今回の罰則の対象になった期間も併せ、長期の滞在となりますので、延長処理の前に一度審査を受けていただきます。

 審査と言っても、面接官の簡単な質問にお答えいただくだけですので、ご安心ください。


 今呼んで来ますので、こちらの申請用紙への記入を、お願いしますね。」


 そう言って、カウンターの上に申請用紙を人数分と、ペンを2本置いて、受付の男性は奥へと行ってしまった。


 滞在理由なぁ。

 勿論、迷宮の攻略のために決まってる。

 期間は3ヶ月……と。


「お待たせしました。それでは皆さん、用紙をお持ちいだき、あちらの談話ブースへどうぞ。」


 戻って来た男性に連れられて、以前シェリーがお茶を飲んで待っていた、ソファやテーブルが並べられた区画へと移動する。


 そこの一席に、真っ直ぐな黒い髪を伸ばした女が、佇んでいた。


 黒髪は腰まで届くほどに長く、両の瞳は閉じられていて、なんと額にもうひとつ瞳が在る。

 そしてその三つ目の瞳だけが開かれ、俺達を観ていた。


「Aランク冒険者パーティー【火竜の逆鱗】の皆様、初めまして。ワタシは、都市安全対策課の【()査部】の部長を務めております、【(さとり)】のアマコと申します。皆様には、普段より我等が主がお世話になっておりますこと、厚く御礼申し上げます。どうぞ、よしなに。」


 なるほど。

 このアマコという三つ目の姉ちゃんも、マナカの配下の魔物ってことか。


 目が三つということ以外は、人間と変わりない外見の彼女に促され、全員で着席する。


「それでは、これからワタシがする質問にお答えください。用紙の内容と重複する部分も在りますが、予めご了承ください。」


 俺達が頷いたのを見回して確認すると、アマコが質問を開始する。


「ダージル様に質問します。当都市での滞在の延長を希望される、目的は何でしょうか?」


「マナカの迷宮を攻略するためだ。1ヶ月やそこらでは、とても足りない。」


 変に勘繰られるのは嫌いだから、正直に素早く答える。


「では次です。ダージル様が、何者にも負けない強大な力を所持していたとします。それを、ダージル様ならどうなさいますか?」


 なんだ、その質問は?


 訝しみながらも、少しだけ考えて、口を開く。


「……自分の力であれば、大切なモノを護るために揮いたいな。武器や何らかの物であるなら、完全に掌握するために鍛練がしたい。」


 こんな質問で、何が判るんだ?


「……ありがとうございます。ダージル様への質問はこれで終わりです。続いて、シェリー様への質問です――――」


 その後は、仲間達一人々々へと質問が続き、冒険者ギルドから戻って来たロイドも加わって、審査とやらは終了した。


「皆さん、お疲れ様でした。審査結果は、先程のカウンターでお伝えします。お名前をお呼びしますので、そうしたらいらしてください。」


 俺達が書いた申請用紙を受け取り、受付の男性とアマコは、役員のスペースへと戻って行く。


 呼ばれるのを待つ間に、俺はロイドへと確認する。


「ロイド。パーティー資金の残高、あとどのくらいだった?」


「あー、今回下ろした金貨200枚を除いて、残り金貨150枚くらいだった。」


 だいぶ減ったな……


 ただ暮らすだけなら暫くは大丈夫だが、冒険資金としては心許無い。

 迷宮攻略で消耗品を買い足し買い足ししているのが、モロに効いているな。


 少しの間は、冒険者ギルドの依頼でも熟して、金を稼ぐか。

 魔石の換金もしないといけないな。


「ダージル、宿屋暮らしも、そろそろ考え直さない?このまま長期滞在するなら、賃貸の物件を借りた方が頭割りで安く付くわよ?」


「っていうか、もういっそ住民登録しちまおうよ、リーダー。此処に拠点を移して、他所へは遠征って形で出掛ければ良いじゃないのさ。」


「俺も賛成。別に登録した地元に拘る必要も無えだろ?どうせ家も家族も無い、根無し草なんだしよぉ。」


 シェリー、ミュゼ、ロイドが、この街に根付くことを提案してくる。

 3人とも、此処を随分と気に入ったみたいだもんな。


「コリー、ブライアン。お前らも、同意見か?」


 残る2人にも、確認してみる。


「そうですね。教会も立派な物が在りますし、私は異論ありません。」


「(コクコク。)」


 そうか……


 でもなぁ、マナカ(アイツ)にカッコつけて攻略を宣言しちまった以上、そう易々と移住を決めるってのもなぁ……


「……分かった。今度海エリアに挑戦してみて、失敗、若しくは越えてもまだ先が長そうなら、改めて話し合おう。それで良いか?」


 仲間達を見回すと、みんな頷いて、同意してくれた。


 さあ、これで後には退けなくなった。

 意地でも踏破してやるからな。


 俺達は、まだまだ強くなれる。

 この迷宮に来てからも、日々強くなっているのを、実感している。


 此処を攻略出来るほど強くなって、そしていずれは、Sランクの頂きに、みんなで昇り詰めてみせる。


「【火竜の逆鱗】の皆さん、お待たせしました!こちらへどうぞ。」


 決意を新たにしたところで、受付に呼ばれた。


 みんなでさっきの男性の元へ行き、先ずは惜しみながらも、金貨180枚以上の大金を、罰則金として支払う。


「……はい、確かに頂戴いたしました!これから、皆さんの滞在の延長が認められましたので、カードの更新をいたします。3ヶ月延長の更新手数料として、おひとり様小金貨1枚ずつ頂戴いたします。」


 ……少なくない金が、湯水のように支払われ、消えていく。


 マジで、本腰入れて稼がねぇと不味いな。


 俺は全員分の更新手数料を支払い、滞在カードと冒険者証を差し出す。


 仲間達も全員提出し、滞在カードの更新を、滞りは有ったが、無事済ませた。


「……はい。これで全ての手続きが完了しました。次は期限を超えないよう、お気を付けくださいね。また何か有りましたら、お気軽にいらしてください。」


「ああ、世話になったな。また頼む。」


 俺達は、更新された滞在カードを受け取って、役所を後にした。


 この後は冒険者ギルドに寄って、身入りの良い依頼が無いかを相談するつもりだ。


「いやぁ〜、更新料に比べて、罰則金の高いこと高いこと!」


「そうねぇ。パーティー資金の半分以上も持ってかれるとは、思わなかったわね。」


「それだけ、都市の治安維持に気を遣っているのでしょう。要は違反せずにいさえすればいいのです。」


 本当にそうだよな……


 仲間達の会話に耳を傾けて、反省する。


「リーダーである俺が気付けなくて、すまなかった。今後は気を引き締める。」


 歩く足を止めて、みんなに謝罪する。


 しかし、そんな俺に返されたのは、苦笑だった。


「何言ってんのさ、リーダー。アタイら全員ド忘れしてたんだ。みんなの責任だよ。」


「そうそう。それにそこまで言うなら、ダージル個人の金で払ってもらいたいもんだぜ。」


「ロイド、アンタねぇ……兎に角、気にすることないわよ。パーティーの問題は、私達みんなの問題なんだから。」


「その通りですよ、ダージル。」


「(コクコク。)」


 お前ら……


 とりあえずロイドは後で殴るとして、みんな俺に、気にするなと言ってくれた。


 俺には勿体ないくらい、良い仲間達だよな。


「よし。ギルドに寄ったら、どっか飲みに行くか。さっきの支払いの残りの金も有るし、気合いを入れるために、今日はガッツリ行こう。」


 明日からまた、たんまり稼いでやる。

 そして、この迷宮もきっと攻略してやる。


「おお!話せるじゃねえか、ダージル!」


「流石リーダー!アタイ、【狐の尻尾亭】がいいな!」


「私はこの前見付けた、【Bar 鬼の角】が気になるわね!」


「マナカさんが言うには、二次会というものが在るそうです。つまり、どっちも行けば良いのでは?」


「「「そ・れ・だ!!」」」


「(コックンコックン!!)」


 ちょっ!お前ら……!


 いや、まあ良いけどよ……

 減るのはパーティー資金だし、それはまたみんなで稼げば良いんだ。


 よし、今日はガッツリ飲むか!!




ダージルさん達のやらかし回でした。


あとひとつ閑話をお届けする予定ですが、他に気になるキャラが居れば、もうひとつくらいは書こうかなー、と思っています。


感想にてお寄せくださいませ。



評価、感想、ブクマを、いつでもお待ちしております。


これからもよろしくお願いします!


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[良い点] 【火竜の逆鱗】の振る舞い 以前に主人公は彼らを助けた。 もしかしたらそれは甘えさせてしまうかも、と思いました。 ですが、節度を保ち、「冒険者という仕事」と「交友という私的関係」を明確に…
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