閑話 噛み噛み受付嬢が存在感を得るまで。
間章に入りました!
そして、今回は、キャラ紹介を除いて111話目です!
ゾロ目です!!
という訳で、閑話ラッシュスタートです!
〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃】 ギルド支部 〜
《フィーア視点》
わたしはフィーアといいます。
以前は、冒険者ギルド・ユーフェミア王国ブリンクス支部に務めて居たのですが、ご縁が有って、このウィール・クレイドルに出来た支部に、異動して来ました。
ご縁というのは、この都市の創造主、マナカさんのことです。
あの日。
マナカさんが見た目を偽ってブリンクス支部に訪れた日のことを、わたしは一生忘れることはないと思います。
最初は、地元で鳴らした若い子が、仲の良い女の子達を連れて一旗揚げようと息巻いているのだと、思っていました。
そういった若者は、決まってあまり素行のよろしくない、先輩冒険者に絡まれるものです。
案の定彼らは、以前から素行不良で評判の良くなかった冒険者3人組に、絡まれてしまいました。
普通なら、慌てふためいて取り乱すか、虚勢を張って言い返すかといったパターンだったのですが、彼ら……いえ、マナカさんは、様子が違いました。
冷静に冒険者達を説得しようとして、それが通じないと判断するや、受付嬢であるわたしを、見てきたのです。
諫めるよう、助けに入るよう、求められているのは、その視線で解りました。
しかし、戦闘職でもないわたし自身には勇気は無く、加えて極度のあがり症でもあったわたしは……目を逸らしてしまったのです。
そこからは、瞬く間の出来事でした。
お仲間の2人――アザミさんとシュラさんが、一瞬で冒険者2人を気絶させて、残る1人も、マナカさんの結界魔法(後で聞きました)で拘束され、動けなくなっていました。
『俺は、ちゃんと退いてくれって頼んだよね?通してくれってお願いしたよね?なのにしつこく絡んで来てさぁ。これは、お仕置きが必要だよね?』
そんなことを話していましたね。
ええ、とっても良い笑顔でした。
勿論、言っていることは全面的に正しいのですけど。
指を弾いて当てる。
ただそれだけで現役冒険者の男性を気絶させたマナカさんは、その後、よりにもよってわたしの担当する受付カウンターへと、歩み寄って来たのです。
あの時のマナカさんの意地悪そうな顔は……すっごく怖かったです……
そうこうして、冒険者登録を済ませたマナカさん一行は、実力を測るための模擬戦を戦わずして制し、全ての手続きを終えた後で、支部長に呼び出されました。
『決めたわ。アナタの仕事、アタシ全力で応援しちゃう!冒険者ランクも、もうこの場でCランクまで上げちゃうわ!!』
コルソン支部長の話とは、マナカさん達の正体と、目的についてでした。
とても驚きました。
ギルドカードを偽造できないなら、自身のステータスを偽るだなんて、そんな考え方にも、それを実現できる魔法にも、そして何より、迷宮の主が、目の前に居るということにも。
しかし、そんなマナカさんは、別に悪を為そうというわけでもなく、ただ子供達を救うために活動をする、と話したのです。
わたしも聴いてしまった以上は、当事者です。
ですが、わたしは巻き込まれたなどと思うより先に、力になりたいと思いました。
支部長を信頼していたのもあります。
彼は悪意や嘘に、人一倍敏感でしたから。
そんな彼が、虚言と判断しない。
それも確かに、協力を決めたひとつの根拠でした。
しかしわたしは、マナカさんの人柄の方にこそ、惹かれていました。
強い力を持ちながらも、彼は法に触れない、人の世を乱さない方法を模索して、冒険者になることを決めました。
一方的に、理不尽に絡まれながらも、言葉を尽くして、極力事を荒立てないように注意していました。
まあ努力虚しく、暴力沙汰にはなりましたけれど。
ですが完全に正当防衛です。
あれは、マナカさんは一切悪くありません。
そして何よりも、恵まれぬ子供達を救いたいという、その思いや、ギルド職員という立場にも関わらず、助力出来なかったわたしを赦してくれたその優しさに、どうしようもなく惹かれていました。
コルソン支部長も協力を決め、彼との活動の日々が、始まったのです。
決断を下した支部長は、凄まじかったです。
マナカさんが登録した数日後には、彼の都市を訪れ、即座に移住を決めていました。
まあわたしもですけど。
便利で素敵な街でしたし、住みたかったので、それには反対しませんでした。
今なら住居も無料で譲ってもらえるとのことでしたし!
戻って早速、異動願いを書きましたよ。
マナカさんの迷宮で、Aランクの【火竜の逆鱗】が撤退したと聴いた時は、驚きました。
それはつまり、マナカさんの迷宮が、A級……下手をすればS級以上の難易度であることを示している、ということだからです。
それはさて置き、そんなAランクの冒険者である、パーティーリーダーのダージルさんが怪我から復帰する、その快気祝いをすると聴いた時にも、支部長は即座に参加を希望していました。
サプライズと言って、急に現れて驚かそうというイタズラを計画している時は、マナカさんも支部長も、とても楽しそうでした。
案外、気が合っているんですよね、あの2人。
最初はあんなに怯えていたのに。
パーティーはとても楽しいものでした。
ええ。
たとえわたしの存在感が、支部長に完全に喰われていたとしても。
フリオール王女殿下にも、優しいお言葉を頂けましたし。
ええ。
気にしてなんか、いませんとも。
少し経ち、異動が無事決定して、その準備をしている時の事でした。
――マナカきゅんに呼ばれた気がする――
と、謎の言葉を残して、支部長が出奔しました。
まあ、行先は迷宮であることは判っていたんですけど。
問題は、後任人事も、仕事の引き継ぎも、書類の整理なんかもみんな、わたしに押し付けて行ってしまったことです。
はい。
勿論わたしが迷宮に着いたその日に、お説教しましたよ。
奥さんのクローディアさんも、まさかやるべき事を投げ出していたとは初耳だったようで、わたしと一緒にお説教してくれました。
冒険者ギルド支部の開業準備もとても慌ただしく、事務方や受付嬢、料理人の雇用募集、酒場の開業手続きやメニューの考案、住民の要望調査から常設依頼の策定、新規登録者の受け入れ体制の構築などなど……
建物も設備も、マナカさんが整えてくれていましたが、やることは山積みでしたね。
異動職員も徐々に街に入り、本部長の命令で来た支部長補佐の方と副支部長も到着して、ようやく開業へと漕ぎ着けました。
目が回る忙しさっていうのは、ああいうのを言うんでしょうね。
そうそう、わたし、夢のマイホームを手に入れちゃいました!
アパートメントのような、賃貸の集合住宅でも良かったんですけど、マナカさんのご好意で、平屋の一軒家を頂いちゃいました。
一人暮らしですけど、折角ですもん。
生活に役立つ術具も揃えてもらっちゃって、マナカさんには感謝の言葉もありません。
大切に維持しますね。
第2弾の移民受け入れも終わり、冒険者の方達もちらほらと訪れるようになり。
都市の活気も、どんどん増してきました。
わたしは受付担当課の課長に任命され、日々、雇用した受付嬢達の指導をしています。
応対の仕方や術具の取り扱い、書類の書き方からトラブルの対処法、掲示板の管理など……
受付嬢って、意外とやること多いんですよ?
そうして月日は流れ、都市は発展を続け……
どうしてこんなことになっているんでしょう?
わたしは今、マナカさんやフリオール王女殿下と並んで、ある式典に参加しています。
その式典というのは、都市の商業区の一角に、新しく開業することとなった商会、【アグネルージュ商会】の起ち上げ式です。
ドットハイマー領領主のご息女である、アグネス=ドットハイマー子爵令嬢と、この都市の商人である、ルージュさんの連名での起業です。
街の商人の組合の方々、政庁舎のお役人方、更にはドットハイマー家縁の方々まで……
式典の会場は、人で溢れています。
都市の統括として、フリオール王女殿下がご挨拶されます。
「この良き日に、この街で起業した初めての商会の祝典に参加出来たこと、非常に嬉しく思う。この商会が取り扱うのは、これまた初の特産品となる、ソープ類だ。他の都市には無い商品を扱い、この街は勿論、王国全土にも大いに行き届かせ、今後益々の発展を、支えてほしい。代表のアグネス、そしてルージュ。本当におめでとう!」
盛大な拍手が鳴り響きます。
王女殿下は、アグネス様やルージュさんと固く握手を交わしてから、後ろに下がられました。
続いて、都市の創造主たる、マナカさんの挨拶です。
「まずは、2人に祝福の言葉を送りたい。アグネス、ルージュ。開業おめでとう。製造から販売まで漕ぎ着けるのは、本当に大変だったと思う。でも、ここからが本番だよね。2人のこれからの道のりが明るいものとなるように、祈っているよ。俺達の街の特産品を、どんどん広めてくれ。そして、どんどん新しい事に挑戦していってほしい。期待してるよ。」
なんともマナカさんらしい言葉でしたね。
アグネス様とルージュさんは、涙ぐんでしまっています。
ああ!?
そんな、公衆の面前で抱きつくなんて!?
なんて大胆な……
…………ちょっと、羨ましいです。
「それでは、冒険者ギルド支部代表、フィーア殿のご挨拶です!」
いや、本当になんでわたしが代表なんですか!?
引き受けておいて今更ですけど!
そりゃあ影の薄さを気にはしてましたよ!?
支部長と一緒に居ると、存在を忘れられることも多々有りましたとも!
でもだからって、なんでわたしがギルド代表なの!?
「おおおお2人とも、ほ、本日は、まことにおめでとうございましゅ!!」
うぅ……!
また噛んでしまいました……
マナカさん!?ニヤニヤしないでください!?
っていうか、これ絶対マナカさんの仕込みですよね!?
面白がってますよね!?
「ぼぼ、冒険者ギルドとしましては、じ、地元に有力な商会が発足されることは、たた大変喜ばしい事と認識しております。手と手を取り合い支え合いながら、共にこの街の発展に、き、寄与していけるよう、連携を密にして、活動して参りたいと存じ上げましゅ!」
あうぅぅ……
結局、最後まで噛んでしまいました……
みなさん、やめてください!
そんな生温かい目で見ないでくださいよお!?
顔が熱い……!
ああ……穴があったら入りたいです……
その後も粛々と式典は進み、商会の代表からの挨拶となりました。
まず前へ出たのは、ルージュさんです。
「皆様、本日はわたくし共の商会の発足に立ち会っていただき、まことにありがとうございます。迷宮本社代表の、ルージュと申します。
わたくし共の主力商品となるのは、この都市にお住まいの皆様にはもうお馴染みかと思う、ソープ類です。入浴用品である、シャンプー、リンス、ボディソープ、洗顔フォーム。台所用品である食器用洗剤、今や洗濯に欠かせない、洗濯用洗剤と柔軟剤。
これらの製品の製造から販売までを、我が商会が担います。どうぞ、お気軽にお求めくださいませ。」
次に、アグネス様が前へと進み出られます。
「わたくしからも、厚く御礼申し上げますわ。外部支社統括代表の、アグネス=ドットハイマーと申します。
当商会の主力商品であるソープ類はもとより、迷宮由来の品々を、広く取り扱い、円滑に外界へと送り出す役目を担います。
それと同時に、外界の各地の名産品や、この迷宮に必要な物資等の輸入も、お任せくださいませ。
何か入り用がございましたら、是非わたくし共、アグネルージュ商会を、ご利用くださいませ。
皆々様におかれましては、どうぞ末永く、良きお付き合いを、お願いしたく存じ上げますわ。」
わたしとそう変わらない年齢の、女性2人が起ち上げた商会。
ですがその情熱は、男性にも負けず劣らず。
前を向き、明るい未来を見据えた彼女達の姿は、力に満ち溢れ、輝いて見えました。
そして式典は締め括られ、立食パーティーとなりました。
贅を凝らした料理の数々が並べられ、貴族関係者や商人達、役人も、全ての人が分け隔てなく、会話に花を咲かせ、料理に舌鼓を打っています。
「おー、フィーアおつかれさーん。いやあ、頑張ったなあ!」
むっ!
来ましたね!?
「マナカさん!どういうつもりなんですか!?大勢の前で、恥をかいちゃったじゃないですか!?」
まったくもう!
わたしが上がり症なの、知ってますよね!?
「いやだって、『わたし影が薄いですよね…』って悩んでたから、いっちょ活躍の場を用意しようと思って。バッチリ目立ってたぞ!」
何がバッチリなんですかあああっ!?
「限度があるでしょう!?だいたい、ギルド代表なら、コルソ……コリーちゃん支部長が居るじゃないですか!!」
「いや、コリーちゃんはダメだ。」
ええ……?
なんでですか……
「コリーちゃんは、こういうイベント事に目がなさすぎる。この間のゴミ拾い大会でもそうだけど、コリーちゃんって、楽しいことが有ると仕事そっちのけになっちゃうからな。」
うっ……
そう言われてみれば、納得できてしまいます。
現にそのゴミ拾い大会の時も、書類から何から全部放っておいて参加してましたから。
ええ。
帰ってきた支部長に、何故かわたしも手伝わされましたよ。
「それに、ルージュもアグネスも、男に怖い目に遭わされたからね。コリーちゃんはそんな奴じゃないけど、それよりも先ず、歳の近い同じ女性のフィーアに、味方になってやってほしかったんだよ。」
……この人は本当に、どこまで優しいんでしょうね。
正直、彼女達に妬いてしまいそうです。
「彼女達に、ギルドとしても個人としても、色々と便宜を図ってやってほしいんだ。真面目で頑張り屋のフィーアだから、頼むんだよ。どうか彼女達と、仲良くしてやってほしい。」
そんなことを言われたら、断れないじゃないですか。
ズルいですよ、マナカさん。
「フィーアさん、先程は素敵なお言葉を、ありがとうございました!」
噂をすればなんとやら。
ルージュさんとアグネス様が、挨拶回りに来ました。
「冒険者ギルドとの連携……素晴らしいお考えですわ。これからよろしく、お願いいたしますわ。」
お二方ともが、活力に溢れた力強い眼差しで、わたしを見詰めてきます。
「い、いえ、こちらこそ!ギルドとしても、円滑な取引きが行えるよう、鋭意努力していきますね。」
握手を交わし、酒盃を合わせます。
マナカさんは、いつの間にかどこかへ行ってしまいました。
「ところで、フィーアさん?」
ルージュさんに呼び掛けられます。
気のせいでしょうか。
なんだか、眼差しが怪しい光を放っているような……
「もしかして貴女も、マナカさんを想っているわよね?」
「んなっ!?な、ななななな何をいきなり仰るのですかあ!?」
本当にいきなり何を言ってるんですか!?
わ、わたしが……マナカさんをなんて……!
「この反応……やはり見立て通り、わたくし達の同士ですわね。」
アグネス様まで何を……!?
って、同士……?
「フィーア様!わたくし達と手を組みませんか!?」
「共に手を取り合って、マナカさんを籠絡するんです!」
え……ええええええええええっ!!??
な、なんなんですか、それはっ!?
「え、ち、ちょっと、何を仰っているのか……」
「皆まで言わずとも分かります!マナカさんは自らの望みのために、決心を鈍らせないために、頑なに女性からの好意を受け流しています。それが堪らなく、もどかしいのですよね!?」
「そんなマナカ様の支えとなり、いつの日かその愛を向けて頂けるよう、わたくし達と共に頑張りませんか!?いえ、頑張りましょう!!」
え、つまり、そういう……?
彼女達も、マナカさんのことを……
いや、彼女達もって何ですかわたしっ!?
わたしはそんな……それほど……ちょっとは……気にはなっていますけど……
「マナカさんを巡るライバルは、非常に多いです。ですから、わたくし達で連合を成して、共にマナカさんの愛を勝ち取りましょう!!」
「商売仲間としての絆も深まりますわ!それに、わたくし達には、フリオール王女殿下もついていらっしゃるのですよ!これはもう、乗るしかありませんわ!!」
殿下まで!?
ちょ、ええっ!?で、殿下もマナカさんのことを!?
「いや、えっと、ちょっと…………考える時間をいただきたいなぁ、と……」
「今ならソープ類全品、【恋する乙女連合】会員特典で半額になりますわ!」
「まとめ買いならなんと更に1割引!」
「不詳フィーア!全力で力になります!!みんなで、絶対にマナカさんを落としましょう!!」
その日わたしは、自身を恋する乙女だと、ようやく自覚したのです。
いえ、決して半額とか、更に1割引だとかに惹かれたわけではありませんよ?
それとは別に、わたしはちゃんとマナカさんを想っていますからね!?
何だったら好きなところ10個言いましょうか!?
ごめんなさい、やめてください。
やっぱり恥ずかしくて言えません!?
111話のゾロ目にあやかって、忘れられていそうなフィーアさんが登場しました!
これで彼女の存在感は、かなりアップしたはずです!
是非彼女も、応援してあげてください!
評価、感想、ブクマを、いつでもお待ちしております!
よろしくお願いいたします!m(*_ _)m