第九話 そうだ、ダンジョン行こう。
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〜 S級ダンジョン【終焉の逆塔】 〜
通路の奥に向けて、【空間感知】で精査する。
……落とし穴がふたつに、吊り天井のスイッチがひとつ、矢を放つスイッチが3つか。
「アザミ、シュラ。罠が幾つかあるから、俺の踏んだ所を辿るようにな。」
「はい、マナカ様。」
「分かったのじゃ。」
冒険者ギルドの本部長、ゲルドさんとの話し合いの翌日。
俺達は早速、S級ダンジョンの魔物の氾濫を未然に防ぐため、攻略を開始した。
ダンジョン入口までは、ゲルドさんが直々に送ってくれた。
俺達はその際、身元が割れないようローブを羽織り、フードも深く被って顔を隠していたけど、ゲルドさんの取り成しで警備兵は脇に避け、アッサリと中に入ることが出来た。
なんでも、【ギルドの秘匿部隊】として俺達を扱うことにしたらしい。
巷では都市伝説のように囁かれ、実在を賛否両論噂される部隊で、未曾有の災厄や、それこそ魔王とか竜とか、そういう奴を相手取るためにギルドが保有している秘密の戦力……といった設定だ。
実際には、実力が有っても功績に興味が無く、目立ちたくなければ縛られたくもない、そんな冒険者を保護、確保するために創られた、架空の存在だ。
冒険者ギルド独自の戦力として主張すれば、各国も強く干渉はできないだろう、と創られたらしい。
Aランク相当以上の力が有るにも関わらず、ランクを上げたがらない、それこそ俺達のような連中に、そうして協力を求めてきたそうだ。
そういえば、『役員への貢ぎ物』とやらに関しても、ゲルドさんに訊いてみたんだったな。
それを聴いたゲルドさんは、顔を険しくしてただ一言。
『不快な思いをさせて、申し訳なかったの。それについては、徹底的に調べておく。』
そう、話した。
聞けばゲルドさんの所にまで上がる案件はどれも国家レベルの重大な物ばかりで、中堅以下……言い方は悪いが末端の進退などについては、ほぼ関与出来ていないらしい。
それらを取り仕切る部署でそういった行為が横行しているのなら、それはギルドの、ひいては冒険者全体の品性と信用に関わる重大事だ。
だけど、まあ。
あの人が梃入れしてくれるんなら、もう少し冒険者として、在籍していてもいいかもしれないな。
あの人からはどこか、ユーフェミア王国の王様に似た雰囲気を感じるし。
「マナカ様。」
おっと。
アザミの声に、思考を打ち切る。
感知系スキルの索敵には、奥の小部屋に屯する魔物の気配が、バッチリ捉えられていた。
「さて、いよいよ初戦だな。S級ダンジョンがどれほどのもんか、品定めといこうじゃないか。」
気配と魔力の質からして、恐らくはゴブリンの群れ。
大きい気配は、上位個体だろう。
「部屋の中に、多分だがゴブリンが20体。上位種も混ざってるみたいだ。アザミは上位種を狙ってくれ。シュラはただ蹴散らせばいい。取り零しは、俺がやる。」
2人の頷きを確認してから、俺はシュラに先頭を譲る。
部屋までの間に、もう罠は無い。
「よし、行け!」
「応!」
バネが弾けるように駆け出すシュラ。
それを追って、俺とアザミも速度を上げる。
「ぬんっ!!」
出会い頭にゴブリンの頭部がシュラの拳に打ち抜かれ、弾け飛ぶ。
開戦の狼煙は、ゴブリン達の上げる絶叫だった。
「あんま、強くないのな。まあまだ上層だけどさ。森の出口辺りと同等ってとこか?」
結界でオークの首と頭を分割して、周囲を見回す。
現在は、10階層。
今までに遭遇した魔物は、ゴブリン、オーク、コボルト、スケルトン、ゾンビ。
人型の魔物にしか、まだお目にかかっていない。
時間は朝に潜り始めてから、凡そ4時間といったところか。
並のダンジョンだったらすでに下層に差し掛かる頃だ。
攻略が遅いのは、各階層を虱潰しにしているせいだ。
いくら雑魚魔物とはいえ、生き残りがダンジョンから出てしまえば、少なからず騒ぎになるからね。
魔物の再配置までどれくらい時間が掛かるかは分からないが、俺のダンジョンと同じならば、大体2時間に1体といったところだろう。
その間に、魔物を全滅させるつもりで減らし、守護をほっぽり出して外へ行くなんて考えを起こさせないために、念入りに魔物を殲滅して進んでいるのだ。
そうして辿り着いた11階層への階段。
その前には、1体の魔物が立ちはだかる。
オーガだ。
10階層最後の部屋に来ての、初登場の魔物。
恐らくコイツは階層主で、11階層からは、オーガレベルの魔物がラインナップされるんだろうな。
「誰か行きたい人ー?」
「アザミが行きます!」
俺の問い掛けに出遅れたシュラが悔しそうな顔をするが、まだ10層だから。
まだまだ先は長いんだから、こんな上層で揉めないでくれよ?
力みも無く、カランコロンと歩いてオーガに近付いて行くアザミ。
「ガアアアアアアッ!!」
いきり立ち咆哮を上げるオーガが、手に持った棍棒を振り上げて、距離を詰める。
それに対してアザミは、フッと消えるように腰を落として急接近。
懐に入ると同時、袖を翻らせて横に一回転。
袖から覗くその手には、俺がダンジョンメニューで創って渡した鉄扇(魔黒金製)が握られており、斬るでも払うでもなく、ただ殴り付けていた。
憐れオーガは吹き飛ばされ、壁に激突すると同時に靄になって、魔石と角を残すのみ。
まあね、魔黒金って硬いしね。
鈍器にも最適だよね。
斬ると血とか吹き出るもんね。
魔石を拾い上げて、俺にいい笑顔を見せてくれるアザミ。
俺は苦笑しながらも合流し、頭を撫でてあげてから、3人揃って階段を降りた。
20階層。
10階のオーガを倒してから、更に3時間が経っていた。
目の前には、21階層への下り階段と、階層主のミノタウロスが1体。
頭が雄牛で身体が人の、まあ半獣人みたいな魔物だな。
迷宮と言ったらミノタウロス、ミノタウロスと言ったら迷宮、とまで言われているかは知らないけど、前世では外国の物語にも登場するほどの、ポピュラーな魔物だ。
「次は儂じゃな!」
俺が聞く前に立候補とは。
どんだけ戦いたいのさ、シュラさん。
「10階層よりは強い筈だからな。一応気を付けろよー。」
俺の注意喚起に後ろ手に手をヒラヒラさせて、無造作に階層主へと近付いて行く。
ミノタウロスが装備しているのは、両手持ちの斧――戦斧と、革のベルトで繋がった肩当、そして腰布のみ。
うん、もうちょっとマシな装備させてあげなよ、ダンマスさん。
「ブモオオオオオオオッ!!!」
自身の領域に足を踏み入れたシュラに向かって、雄叫びを上げて走り寄るミノタウロス。
うん、どっかで見たぞ、それ。
「ふんっ!」
案の定、懐に入り込んだシュラに腹を殴られ吹っ飛んだ。
そして壁に激突し、靄になって魔石と戦斧が後に残る。
……同じ攻撃パターンやないかい!!??しかもやられかたも一緒!!!
「温いのう。これで20階層じゃと?主様の、殺意に満ちたダンジョンを見習うのじゃ!」
あらら、シュラさんご機嫌ナナメですね。
というかこら。
別に俺は殺意を込めてダンジョン創った訳じゃないからな!?
「もっと手強い奴と戦いたいのじゃ!主様、早う先へ進むのじゃ!」
階段を示して先を急かすシュラ。
俺はそんな彼女に。
「はいストーップ。お昼の時間です!」
ミノタウロスがリスポーンするまで時間が掛かるから、この場で先に食事を済ませるのだ。
俺は結界で簡単なテーブルと椅子を創り、テーブルにはクロスを敷き、椅子にはクッションをそれぞれ置く。
「ぬぬぅ。飯なんぞ後でも良かろうに……」
「んじゃシュラだけ飯抜きな。」
「ごめんなのじゃ!食べたいのじゃ!!」
素直でよろしい。
規則正しい生活リズムは、健康の秘訣だからな!
30階層。
サクサク進むね。
階層の様相は、此処までずっと迷宮タイプだった。
出て来る魔物は……まあ、種類は豊富なんだけど、なんというか、面白味が無いというか、オーソドックスな奴らばかりだったな。
あ、でもここら辺になってから、モンスターハウスとかも追加されてきたね。
ただ残念だったのは、折角のモンスターハウスなのに、単に魔物を大量召喚するだけだったことかな。
その魔物も、ウルフとかスケルトンとか、大量に居るのが当たり前な奴らってのもそうだけど、うん、もうちょい奇を衒ってほしかった。
俺だったらそうだな。
ローチ系――ゴキブリの魔物を大量召喚して精神攻撃とか、属性持ちの魔物を出して部屋の中を煉獄にしたり氷漬けにしたり……
「主様よ……またえげつない罠を考案しておるのではなかろうな?」
な、何故バレたし!?
「な、なんのことかなぁ?俺ってば品行方正で良識的なダンマスって評判なんですけど……?」
「いや、悪い顔しとるからバレバレじゃよ。そもそも品行方正だの良識的だのと、何処の誰が何時言ったのじゃ……」
「悪巧みをするマナカ様も、素敵です!」
……そんなに悪い顔してたかなぁ?
最近、俺の仲間からの評価が、だいぶ気になるようになってきたんだけど……
そんな呆れられると、凹んじゃうよ?
「む?ほれ、主様よ。落ち込んでおる暇は無さそうじゃぞ?」
うん、把握はしてるよ。
通路の奥に開けた空間。
30階層の終点、階層主の部屋だ。
昼休憩を終えてから21階層に突入して、3時間弱といったところか。
虱潰しに歩いてみて思ったけど、下に進めば進むほど、階層は狭くなってきている気がする。
階層自体は正方形に近い形なのかな。
つまり、このダンジョンは四角錐を逆さまにしたような構造の可能性が高い。
それで、【逆塔】なのね。
地底に向かって塔が延びているわけだ。
そして30階層のボス戦だ。
お相手は、リッチ1体とスケルトンの軍勢か。
いいね。
殺意増してきたじゃん。
「大将のリッチは魔法が得意みたいだな。それと、【指揮】ってスキルを持ってるから、スケルトン達も連携してくるかもしれない。どうする?」
敵の情報を【鑑定】で盗み、仲間に共有する。
さて、戦闘狂と俺の騎士様は、どんな判断を下すのか。
「儂とアザミで雑魚を払って、主様に大将を討ってもらうのが、最も手っ取り早いのう。」
「同意です。マナカ様の結界であれば、魔法も軍勢も意味を為さないでしょうから。」
おお!
俺感動!
理性的且つ的確な戦術が提案されて、意外なのもだけどすげぇ嬉しいな。
特にシュラが先ず提案したってのがまた……
「……主様よ。儂じゃって、いつも突貫ばかりではないのじゃぞ?傷付くのじゃ。」
あ、シュラが拗ねた。
どうやら、また顔に出ていたらしい。
「ごめんごめん。いや、確かにシュラは戦闘に関しては天才的な閃きを持ってるからな。すまん。謝るから拗ねるなって。」
頬を膨らませてむくれるシュラを宥めて、気を取り直す。
「それじゃあ、そんな感じで行くか。2人が前で良いよな?」
頷く2人が、部屋に向かう。
さあ、ここからが本番だろう?
お手並み拝見だ。
「往くぞ!」
シュラの合図で、一気に部屋に駆け込む。
スケルトン達が即座に反応を見せ、骨や武具を鳴らして殺到してくる。
それをシュラの蹴りが、アザミの尾が、奥に、横にと薙ぎ払う。
「【炎河】!」
アザミが振るった尾が炎を引き、奔流となってスケルトンを焼き、押し流す。
リッチまでの空間に、ポッカリと穴が空く。
俺は間髪入れずにその空間へと身を躍らせ、一直線にリッチを目指す。
「グロロロロロロ!!」
リッチの咆哮……いや、詠唱か!
不死者の王の周囲に、火球が浮かび上がり、ひとつふたつと数を増やしていく。
火球の数が10を超え、一斉に俺に向かって射出される。
魔法が相手では得意な【攻勢防壁】はあまり意味が無い。
あれは、物理的な衝撃にカウンターを行うからな。
それに火球は爆発する。
結界で受け止めるのは簡単だけど、視界を塞がれるのは美味しくない。
なら。
「【尖角壁】!」
リッチに先端を合わせて、結界を鋭利な四角錐の形に構成する。
勿論俺を囲むようにだ。
そして風魔法も発動してコンボ技の【突撃】。
火球は打点の小さい先端部に逸らされ、爆発は後方に流れる。
結界後部で風をジェットエンジンのように噴き出し、推進力を得て一気に加速。
特大の結界製の鏃が、真っ直ぐにリッチへと突き立つ。
「ロロロォォォォ……!」
先端は誤たずリッチの、人で言う心臓部分を貫いて、壁に磔にする。
だがリッチは不死者系の魔物だ。
俺はダメ押しにリッチを結界で包み込み、内部で業火を燃焼させる。
やがて断末魔も上げられずに、リッチは結界の中から消え失せた。
「親玉は倒したぞ!後は雑魚の掃討だ!」
仲間達に声を掛けながら振り返ると、スケルトンは、既にそのほとんどが魔石になっていた。
その後は、指揮者と統制を失ったスケルトンを、淡々と排除した。
さて始まりました、S級ダンジョン攻略。
淡々と30階層まで来てしまいましたが、決してこのダンジョンが温い訳ではありません。
真日さん達の基準がおかしいだけです。
彼らの基本は惑わしの森なので、どうしてもそれを基準に考えてしまっているだけです。
簡単な表し方を致しますと、
外のゴブリン<外のオーク<森のゴブリン
となります、はい。
決して、オーガやリッチが弱い訳ではありませんので、ご承知置きくださいませ。