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神殺しの聖者  作者: 江戸まさひろ
第3章 神に並ぶ道
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第38話 その言葉を疑わない

「さて……。

 あえて言う必要もないだろうが、一応言っておく。

 この娘が大事なら下手な動きはするな。

 とりあえず、我々から少し離れてもらおうか。

 壁際まで下がれ」

 

「……分かっている」


 私はアルゴーンの命令に従って、渋々と後退(あとずさ)る。

 彼が何故私を下がらせたのか──。

 それは私と彼の距離が近すぎると、魔法による攻撃ができないからだ。

 至近距離で下手に魔法を使えば、自らにも被害が及ぶだろう。

 

 そう、被害だ。

 確かに私達は魔法――正確にはワルダヴァオトゥの力だが――を無効化できる。

 だが、それは実のところ、自身を囲む極狭い空間にしか作用しない能力であり、絶対的な物ではない。


 だから無効化が有効な範囲外にある物体――例えば床などでもいい、そこに魔法を炸裂させられると、私達にはもうその威力を防ぐことはできない。

 それは魔法から発生した炎や衝撃などは、あくまで魔法から生じた結果であって、魔法そのものではないからだ。


 つまり私達が無効化できるのは、自身の身体に直撃した物だけだと言ってもいい。

 それが分かってさえいれば、無効化に対処する術はいくらでもある。

 アルゴーンは壁か床に魔法を炸裂させて、その余波で私にトドメを刺すつもりのようだ。


 私の小さな猫の身体には、それだけでも十分だろう。

 無論、私とて同様の方法でアルゴーンを仕留めることも不可能ではないが、それはエリセが人質に取られていないことが前提だ。

 

 だが私も、このまま大人しくアルゴーンに倒されてやる訳にはいかない。

 確かに私から下手に攻撃を仕掛けて、エリセの身を危険に晒す訳にはいかないが、私が無抵抗を貫いたところで、彼女の生命が保障される訳ではないのだ。

 このままではどのみち、アルゴーンによって殺されてしまうだろう。

 

 しかしこの状況下で、どうすればエリセを救い出せる?

 アルゴーンにとって、エリセにはまだ利用価値があるから、そう簡単にその命を奪うとは思えない。


 だがいざとなれば、アルゴーンはエリセを殺害することも厭わないだろう。

 彼にはエリセの死体から聖女の力を、(おのれ)の身体に取り込むという手段も残されている。

 

 もっとも、それではワルダヴァオトゥの力と知識を、自らの身体に直接降ろすという危険な賭に出なければ、「神になる」というアルゴーンの目的は達せられなくなる。

 が、それでも私にエリセを奪還されて反撃の機会を与えることの方が、大きなリスクになることくらい、彼も承知しているはずだ。

 それならばアルゴーンは、たとえエリセを犠牲にしてでも、私を倒すことを優先するだろう。

 

 くそっ、どうすればいい!? 

 どうすれば確実にエリセを救うことができる!? 

 今度こそ守ってみせると誓ったんだ。

 だけどどうすればいい!? 

 どうすればいいんだっ!?

 

 私がそんな葛藤に苦しんでいたその時、エリセは思わぬ言葉を私に投げかけた。

 

「イヴ……さん。

 あたしに構わずに戦って下さい!」

 

「馬鹿な、それでは君がどうなるのか分からないっ!!」

 

「確かに安全ではないでしょうけど……。

 イヴさんが私の安全を気にして戦わなかったとしても、事態が好転するとも思えません」

 

「そうかもしれないが……。

 しかし私は……エリセを守れないくらいなら――」

 

 私は首を左右に振る。

 どうしてもエリセを犠牲にするような真似だけはできなかった。

 もしも彼女を守れないのなら、私は自ら死を選ぶ。


 無論、私が死ねばエリセを守る者はもう誰もいないが、彼女にはワルダヴァオトゥの力と知識の一部が降ろされている。

 そこに生き延びる為の光明を、なんとか見いだしてくれることを信じ――、

 

「――!」

 

 そこで私は気づく。

 そして頭に浮かんだ考えを確認する為に、エリセの顔を見た。

 そこに自らを犠牲にするような、覚悟の色は無かった。


 ただ、何かに挑戦しようとしているかのような、力強い決心の色が見える。

 まさか……、

 

「ククククク……、お互いに庇い合っての自己犠牲の精神……。

 実に美しいですな」

 

 私達の葛藤を嘲笑うかのような、アルゴーンの言葉。

 しかしエリセは、

 

「違います。

 あたしは犠牲になるつもりなんてありません。

 イヴさんは、あたしを守ってくれると約束してくれたのですから」

 

 キッパリと否定する。

 

「なんだと……?」

 

「あたしには……イヴさんが守りたい人を守れなかったことで、どれだけ苦しんできたのかが分かるような気がします。

 そしてもしもまた、イヴさんがあたしを守れなかったとしたら、どれほど苦しむのか……。

 それは想像に難くないです。


 それが分かっていて、どうしてあたしが勝手に死ねますか? 

 あたしはイヴさんの為にも、自分が犠牲になるつもりは毛頭ありません! 

 あたしは自分で身を守る方法を見つけました。

 だからイヴさん、思いっきり戦ってくださいっ!」

 

 そして念を押すように、エリセは力強く頷いた。

 本当に彼女は、自らの身を守る術を見つけることができたのか。

 それを確かめる術は無かったけれど、それが彼女の言葉なら私は信じよう。


 私は二度と親友達の言葉を、疑わないと誓ったのだから。

 

 私は四肢の筋肉を引き絞るように、姿勢を低く身構える。

 それを見たアルゴーンは慌てたように、左の掌を私へと向けた。

 瞬時に光り輝く光球がそこに姿を現すが、それがどうした。

 

 私はアルゴーンの魔法に構わず、跳ねるように彼めがけて駆け出した。

 それに反応して彼は、すぐさま私に向けて光球を撃ち放つ。

 私の接近を許した後では、間合いが近すぎて魔法は使えないのだから、悪くはない反応ではある。

 狙いも無効化されないようにする為に、私よりもやや左にずれている。

 

 が、そんなものは自分から当たりに行けば、どうということも無い。

 私はほぼ直角に軌道を変えて、光球に突っ込んだ。

 相手が私の魔法無効化可能領域の外を狙って魔法を打ち込んできたのならば、自ら無効化可能領域まで踏み込めば良いだけの話だ。

 

「ぬぅっ!?」

 

 私の眼前で、光球は跡形もなく消え失せた。

 そのことにアルゴーンが動揺している間に、私は更に彼へと接近する。

 これで魔法を撃ち合えば、お互いに無事では済まない間合いとなった。


 だが、私はあえてここで魔法を発動。

 私の頭上に光球を発生させる。


「馬鹿なっ、この距離で魔法を撃つだと!? 

 差し違える気かっ!?」

 

「いや、私もエリセと同様に、犠牲になるつもりなんて無い!」

 

 ただ、私自身を囮にして、一瞬でもアルゴーンの気を逸らせればそれでいい。

 私は自らの魔法に巻き込まれぬように後方へ跳ぶ。

 

「――!?」

 

「エリセ、行くぞ! 

 もしお前に何かあったら、私は後を追うからなっ!!」

 

「大丈夫ですっ! 思いっきりやってください!!」

 

 エリセの答えを聞くと同時に、私はアルゴーン目掛けて――正確には彼の左側にある魔法無効化可能圏外の床めがけて光球を撃ち放った。


 それを見たアルゴーンは、エリセを楯にして構える。

 エリセは真なる聖女だから、無効化能力は彼よりも更に高い。

 しかもワルダヴァオトゥの肉体になり得る身体だから、敵対するハイの力に対しても強い耐性を備えている可能性が高かった。

 

 おそらく魔法がまともに直撃したとしても、ほぼ完全に無効化されるだろう。

 そう、まともに直撃したのならば。

 

「こんなもの、自分から当たりに行けば、どうということはないのだったな?」

 

「無効化できるのならやってみろ!」

 

 アルゴーンが目を見開いた。

 私の頭上に再び光球が出現し、彼のやや右側――撃目とは反対側の床に向けて撃ち放たれたからだ。

 上手く対処しなければ、魔法は魔法無効化可能圏外で炸裂して、彼に襲いかかるだろう。

 

 しかも、1撃目に対処していればどうしても2撃目への対処は遅れる。

 更に攻撃を重ねられれば、いつかは完全に対処できなくなる――アルゴーンはそんなことを危惧したのだろう。

 彼の顔は緊張に強張った。

 

「このっ!」

 

「ひゃっ!」

 

 アルゴーンに腕を掴まれ、力任せに振り回されたエリセは悲鳴を上げた。

 そんな彼女の身体は1撃目の光球に叩きつけられ、案の定、それで魔法は無効化された。


 そしてアルゴーンはそのままエリセを振り回し、2撃目の無効化に取り掛かる。

 それは十分に間に合うかのように見えたが、

 

「!?」


 エリセの身体が光球に叩きつけられようとしたその時、それを私の分身が遮った。

 しかもその身体は、完全に光球の軌道上にある。

 本来ならばハイに能力を与えられた分身の身体でも、ある程度の魔法の無効化はできる。

 しかし今、その能力はあえて封印した。

 

 つまり、分身と光球の接触は、そのまま魔法の発動を意味する。

 ……無論、これは分身を犠牲にする為、本当に最後の手段だが。


「しまっ……!!」

 

 私の分身に魔法が炸裂した結果、吹き上がった炎は、間近にいたアルゴーンとエリセの身体を飲み込んだ。

 これほどの炎ならば、アルゴーンもまず耐えられまい。

 無論、本当にこの炎から生き延びる術が無ければ、エリセも……だ。

 

「おのれぇぇぇぇぇぇーっ、イヴリエースぅっ!! 

 このままでは済まさぬぞぉぉぉぉっ!!」

 

 アルゴーンの絶叫が上がった。

 しかしエリセの声は無い。

 彼女はこの炎の中でも平気だからなのか、それとも――、

 

「な!?」

 

 その時だ、アルゴーン達を包む炎が急激に膨れあがった。

 アルゴーンが断末魔の如く、最後の魔法でも放ったのか。

 それとも私への対策として、この祈りの間なんらかの罠を仕掛けてあったのか。

 

 どちらにせよ、私の魔法だけで発生するとは思えないほどの、巨大な炎の塊が私の方にも押し寄せて来た。

 私は慌てて祈りの間の出口へ向かい、最早爆発同然の炎を背に全力で駆ける。

 が、その次の瞬間、爆発の衝撃で床か壁が崩れたのか、物凄い轟音が背後から聞こえてきた。

 

「エリセーっ!?」

 

 私は背後を振り返る。

 炎はまだしも、床や壁の崩落に巻き込まれて、果たしてエリセは無事なのだろうか?

 しかし祈りの間の状況は、激しい炎に阻まれて何も見えない。

 それどころか、このままでは私も炎に飲み込まれてしまう。


 とにかくエリセの安否を確かめる為には、まずはこの場から脱出して、生き延びなければならなかった。

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