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優雅なランチタイム…?



一瞬後に目を開けたとき。

私は豪華なテーブルの前の、これまた豪華でふかふかの椅子に座っていた。

そして眼前に広がるのは、カラフルな野菜のテリーヌ、肉のアスピック、七面鳥の丸焼き、白身魚の香草焼き、プレーンオムレツに海老のサラダ、付け合わせはバターライスと、まあ美味しそうな料理の数々。テーブルの上に所狭しと並べられた料理を見て、私はあまりの眩さに目をそらした。


「どうかしたか」


私を連れ出した男性は、ちょうど向かいに腰かけ、優雅に紅茶を傾けていた。

私はおずおずと彼に話しかける。


「…あの、これは」

「ああ、カフェテリアの特別メニューだ。遠慮なく食べてくれ」


と、言われましても。こんなすごい料理をいただく理由がない。それに、昼食なら自分で作ってきたものがあるのだ。わざわざ用意していただいたのなら申し訳ないが、私にはまったくの不要だった。


「あの、」

「申し訳ない、自己紹介がまだだったな。俺はエヴァルト・アディントン。騎士科所属の4年生だ」


再度話しかけようと試みるが、男性にあっさり遮られた。

この人、人の話をあまり聞かないのかもしれない、と思いながらも私はふと気づいた。


「4年…では、先輩、ですね。すみません…私、失礼な態度を…」

「いや、礼を欠いたのはこちらの方だ。驚かせて、申し訳ない」

「いえ…」


私はまた顔を俯かせ、両手をぎゅっと握った。

明らかに、目上の上級生に失礼なふるまいをしてしまった、と落ち込む。

――本当に自分が嫌になる。どうして私はいつまでも人と接するのに慣れないのだろう。

と、私は自己嫌悪に陥っていたが、男性は全く気にしていない様子だった。それが逆に気になって仕方なかった。

…というか、そういえば何の用だろうか。

わざわざ追いかけて転移陣まで使うほどの事を、私はしでかしたのだろうか。

もしかしたら表情に出さないだけで、とっても怒っているのかも……

私が内心で慌てていると、エヴァルトと名乗った生徒は、ところで、と問うてきた。


「貴女を連れ出した理由だが」

「はい…」


きた。

私はごくりと唾をのんだ。


「レントさんは、今どちらにお住まいなのだろうか」

「はい?」


私は目を瞬かせた。全く、予想外の質問だったからだ。

思わず首をかしげると、アディントン先輩は弁明のようにさらに話をつづけた。


「いや…数日前にレントさんの退寮の申請があったが、現住所が登録されていなかったからな。寮から出る生徒は珍しいから、定期的にチェックしているんだ」

「…あ」


すっかり、忘れていた。

事務室では寮の更新を切ってもらい、退寮の手続きはしたが、確かに現在住んでいる場所は報告していなかったのだ。これは、確かに私のミスだ。


「も、申し訳、ございません…登録手続き、してませんでした…」

「やはりか。いや、いいんだ。今言ってくれれば」


アディントン先輩は優雅に笑った。


「はい、すぐに…事務室で、再登録…します」


言いながら、私は豪華なソファから慌てて立ち上がる。

私ったら、親切で教えてくれて昼食まで招待してくれた人になんてことを、とまた羞恥で顔に血がのぼる。一刻も早くここから去らなければ、と私は足を一歩踏み出した。


「ちょっと待ってくれ」

「…はい?」


――が、それは敵わなかった。アディントン先輩がその長い腕を伸ばして私の手を掴んでいたからだ。


「どこに、住んでいるか教えてくれないか」

「え?」


しん、と一瞬の静寂が場を支配した。


「…いえ、あの、ですから手続きに、」

「大丈夫だ、事務室には俺から言っておこう」

「え!…そんな、お手を煩わせるわけには、」

「大丈夫だから」


先輩は榛色の目をすっと細め、


「そもそも、何故寮の更新を切って外に出た?王都の家賃は高いし、大概が古い上に狭い。学院の外は浮浪者がうろついている地区もあるのに、寮を出てから毎日通学しているのか?かよわい女子学生が、危険すぎる。やめておいた方がいい」


真っすぐにこちらを見ながら、先輩は饒舌に語った。


「何故、退寮したんだ?」

「………。」

「レントさん?」


私は黙ったままでした。

正直、経済的理由については話すつもりはない。

魔法学院の生徒たちは基本的に裕福な家庭の人々が多い。話したところで貧乏人が、と蔑まれるだけだ。

そもそも、


「…あの、なんで」

「ん?」

「なんで、…先輩が、そんなこと」


何で、この人はこんなに熱心に私の住まいのことを気にしているのだろうか。

寮を出たのだって、寮母と元ルームメイトのアシュリーしか知らないはずだ。どうして赤の他人であるはずのアディントン先輩に問いただされなければならないのか。

私は不信感をむき出しに、先輩に問うた。


「ああ、それは俺が『生徒会』の会長だからだ」


その返答に私はえ、と驚きの声を漏らしてしまった。

『生徒会』とは、『特級』の階級をもつ生徒のみで構成される、魔法学院の生徒たちをまとめ上げ統治する組織だ。

魔法使いのランクには上級の上に、最上ランクである『特級』という階級がある。こちらは他の級と違い、めったに取得できない特別なものだ。きちんと公的機関に認可される必要があり、本当に優れた魔法使いにしか与えられない称号なのだ。

当然『生徒会』の会長であると語ったアディントン先輩も、『特級』ランクの魔法使いなのだった。

何やらすごそうな人とは思っていたが、まさかそんな天上人とは思っていなかったので、私はさらに縮こまる。何故か離してくれない手をぐいぐいと引いて、すぐにでもこの場から退室したいと思った。


「俺は学院の生徒を守る役目がある。君が心配なんだ、レントさん」


うう、もうそんなに熱い視線で見ないでほしい。放っておいてほしい。

私はもう涙目だった。


「いえ…、先輩が心配すること…ありま、せん。…私が、住んでるの、実は」

「どこだろうか」


食い気味に話を割って入る先輩。その勢いに、何故か妙な圧力プレッシャーを感じる。


「学院の中、です…」

「何だと?」


結局、素直に自分の住んでいる場所を話すと、アディントン先輩は目を見開いた。


「庭園の中の、庭師が住んでいた小屋?学院内にそんな場所があったとは、初耳だが」

「…で、でも、庭師のおじいさん、譲って、いただいたんです…」

「………。」


先輩はしばし考え込むように口元に手をあてた。

そして、よし、とつぶやくと、すくっとソファから立ち上がった。


「その場所、案内してもらおう」



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