閑話
事件後のお茶のひと時。
地味に気になっていたことを聞いてみた。
「夏目さん」
「ん?」
「夏目さんの下の名前って、なんて言うのですか」
何せ、自分はてっきり“夏目”が彼の名前だと思っていたのだ。
まだ記憶に新しい白百合事件(命名)で、夏目さんについて色々発覚したことがある。
・夏目さんの曾祖父らしき人は夏目青磁という。
・彼は黒髪黒眼
・夏目さんの言葉の中に出てきた「夏目の名を持つもの」とは何なのか
・その他、もろもろ夏目さんへの不信感
白百合事件は解決したのに、夏目さんの謎は深まるばかりだ。
「僕は、僕だよ」
「…意味わかりません」
「葵ちゃん。時として、敢えて知らなくてもいいモノが世の中には溢れていると思わないかい?」
それが、名前だというのか!
長い付き合いのくせに、名前すら教えてくれないってどうなの!?
「なんですか、それ。もしかして、私を疑っているのですか?別に、フルネーム聞いたからって悪用したりしやしませんよ!」
しゃらくせぇ
名前ぐらいで、悪用も何もない。
「葵ちゃんを疑うはず無いさ」
「じゃあ、問題ないじゃないですか」
むう。と睨みつけてやる。
夏目さんは、長い足を組みなおした後、ぷいとそっぽを向いた。
コラッなんだ、その態度は!お母さんは許しませんよ!白状なさい!
さらに胡乱な視線を投げてやる。
じと〜…
夏目さんは、横目で私をちらりと見る。そして嘆息一つ。
「恥ずかしい名前なんだ」
は?
今度は、しっかりと私を見据え、諭すように言いなおす。
「口には出せないくらい恥ずかしい。もし、その名で呼ばれたら僕は死んでしまうよ」
マ、マジでか。
…夏目さんに、ここまで言わしめる名前って…逆に気になる。
露未男とか、美氣欄璽櫓とか?
謎です。
謎すぎます。夏目さん。
夏目さんの剣幕に押された私は、結局彼の名前を聞き出すことは出来ず。
今日も今日とて、夏目さんは、夏目さんなのでした。