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13話

透明なガラス瓶の中でカラカラ流れる。

白、ピンク、青、緑、黄色。


夏目さんに貰った金平糖を家に帰って早速ガラス瓶に詰めた。

小さな瓶の中で甘い星が鳴る。

こうして眺めていると、本当に星の欠片のように綺麗で食べ物ではないみたいだ。

――カタチに残るモノより、溶けてなくなった方がいいだろう。

何故、彼はそんな事を言ったのだろう。形を残したくはない理由は何?

――だけど、覚えていて欲しい。

何故、そんな悲しい瞳をするのに曖昧な感情しか言葉に乗せてくれないの?


「分からないよ。……そんなの」


目を閉じてベットに倒れ込む。

思えば、彼と過ごした思い出はいつも美しく、しかし形として残る物は何もないかもしれない。

四季折々の花を一緒に見た。初めて立葵の本当の花を見た。

夏には蛍を捕まえてそっと掌に小さな光を乗せてくれた。

古本屋の縁側で花火をした。焼き芋もした。大きな雪だるまを作った。

思い出はたくさんで、毎年毎年美しくも鮮明に思い出せる。

だけど、それだけだ。

もし、夏目さんが忽然と消えてしまったとしたら。

私のこの手には何が残る?美しいばかりの思い出だけが私を支えてくれるのか。

否。夏目さんと過ごした10年間と少し、彼は私の生活の一部となってしまっている。

私の世界は彼によって彩られていると言っても過言ではない。

白百合事件の一件で初めて夏目さんを失うかもしれないという不安に苛まれた。

本当に胸が押しつぶされた。

血が流れる音を初めて感じるほど、冗談ではなく私の心臓は壊れそうになった。

―――僕が、葵ちゃんを置いて何処に行くというんだい?

本当に?だけど、夏目さん。私は与えられるばかりで、貴方に何一つとしてあげることができません。

きっと、貴方は私に愛想を尽かして行ってしまうのでしょう?

だって、私と夏目さんは余りに不確かだ。

何も、何一つとして彼と私を繋いでいる確かな物などない。

すべて私の一方通行。

不安は降り積もるばかりで、それを止める術を私は知らない。

深く溜息をついてからベットを起きあがる。

カラリとなる金平糖の瓶を大切に机の上に移動させてから学校バックを取り出した。

椎名君から渡されたノート。

何の変哲もない大学ノートだった。

机に寄りかかりながら、パラパラと捲って驚いた。


これは…

一枚目のページに戻る。“月影”そう書いてあった。

綺麗で少し右肩上がりの字。椎名君の文字だ。

それは、物語だった。苦悩を含んだ主人公の物語。

あの言葉の少ない椎名君に、こんなにも豊かで熱い言葉が潜んでいた事に驚いた。


私は兄の「飯だ―」の声も耳に入らぬほど、その物語に没頭していった。



※※※


「休み…」


私はショックで呆然と呟いた。

昨日一晩で読んだ椎名君が書いた物語をすっかり読み終え、興奮冷めやらぬ内に椎名君に感想とお礼を言いたかったのに、彼の欠席というオチ。

斜め前方の空席をこれほど恨めしく思ったことはない。

私は、この物語についていち早く椎名君に言いたいことがあった。

主人公である、名家に生まれた一人息子のお話。

月に見せられながら、家を裏切れないでいる男。

その描写はとてもリアルで男の苦悩と困惑が見えるようだった。

ただ、最後がとても疑問だ。男がどうなってしまったのか明確に表記されてない。

その終わりは、無理やり叩き切られたラストのように思えてならなかったのである。

何故、椎名君はこんな終結を書いたのか。

ただ知りたかった。


なのに、休みだもんな…。

朝のSHが終わって担任の中山田先生こと中センに椎名君の欠席の理由を尋ねに行った。


「中セン。椎名君、今日どうかしたの?」


「笹野か。何だ椎名に用事でもあったか」


「あるにはあるけど、それより心配だし」


「お前らそんなに仲良かったか?」


ニヤリと嫌な笑顔をを向けてくる中センを一睨みして早く教えろと促した。

これだから下世話なオッサンは嫌いだ。教師のくせに無精髭なんかはやしおって。


「椎名は大事な家の用だとよ」


「身内に不幸でもあったの?」


「いや、あいつの家は特殊だから。てか椎名はよく家の用事で休んでんだろ?」


「……」


同級生として過ごして早半年以上、今更ながらに気付く事実。

嗚呼、私って、そんなに周りが見えていなかったのか。

今更ながら凹む。


「でも、本当に珍しいよなぁ?」


名簿で肩をトントン叩きながら、中センは私をまじまじと見やった。

何のことを言っているのか分からず首を傾げる。


「お前、クラスの奴らとはそれなりに仲良くしてるけど深入りしないだろ?」


言われてギクリとする。


「どっか、冷めてるって言うのか、半分違う世界に置いてきてるって言うか…。欠席した奴がいて俺に聞きに来るなんて今までなかったもんな。椎名は椎名で不思議な奴だが、ま心配出来る奴ができたのはいい傾向だ」


名簿で軽く私の肩を叩くと中センは教室を去って行った。

私は予鈴のチャイムが鳴るまでその場から動くことが出来なかった。

その通りだった。

中センはよく生徒を見ている。


休憩時間やお昼に喋る友達はいても、放課後を共にしたり休日遊びに出かけるような関係にはならない。私がそれをしようとしないからだ。

私にとって学校生活は重要ではなっかた。

昔から大切なのは夏目さんの方で、優先するのは夏目さんだった。

他の人に夏目さんの事を話したいとも思わなかった。

他の世界に半分…。

私の半分を占めるのは夏目さん?

今までそれで良いと、それを崩すつもりはないと思っていたのに、人に言われて初めてその不自然さに気付いた。


私は、このままでいいのだろうか。


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