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あなたに勝つ理由

作者: おぼろ

お遊び小説2作目です。

個人的によくできた方だと思うので投稿します。

完全素人なので暖かい目で見てやってください。

「これより緑町高校、津坂宅磨と清少高校、東条月美(るみ)による第77回全国高等学校かるた選手権大会決勝戦を開始いたします。」

「「よろしくお願いします。」」

 とうとうここまで来た。ここで俺は彼女に勝って告白する。そのために俺はずっと頑張ってきたんだ。


 俺と彼女はいわゆる幼馴染みである。小さな頃から毎日のように一緒に遊んでいた。その中でも特にハマっていたのは『百人一首』であった。母が偶然見つけたからと出してきたのが始まりだった。初めは母が全て読み、カルタのように遊んでいたが互いに札を覚えると正式なルールで遊ぶようになった。最初こそ勝率は互角であったが、途中からは俺は彼女に勝てなくなっていった。そんな俺を見かねて彼女は手加減してきたりもしたが、俺はそれを許さなかった。それでも彼女と競技かるたをしている時間はとても楽しかった。

 彼女にずっと恋をしている俺はずっと想いを伝えれずにいた。彼女に釣り合う人間であるのか不安だったからだ。そして中学3年、彼女には競技かるたの強豪校である清少高校から推薦がきた。それを聞いたときに彼女が俺の手の届かない場所にいってしまうように感じた。彼女に相応しい男なんて程遠い。なんとか彼女に釣り合う男にならなければと、彼女に競技かるたで勝ったら俺はこの気持ちを伝えると決意した。例えどんな結末になろうとも…


 高校最初の大会は2回戦で負けた。それに対して彼女は優勝していた。それが悔しくて猛特訓して、次の大会から徐々に順位をあげていった。そして今回、高校最後の大会でついに決勝で彼女とぶつかることができた。これには自分の強運に感謝している。彼女との勝負を決める舞台としては最高だ。

「それでは今から15分間、暗記時間とします。」

 …よし、こちらの得意札は全部ある。だがそれだけで安心はできない。いかに得意札以外を取れるかが大事なのだ。

 一通り札の場所を暗記したので、ふと彼女の方を見た。彼女は真剣に札の場所を覚えている。

「残り2分です。」

 もうそんな時間かと素振りを開始する。俺の取り方は少し力みすぎていると顧問に言われるが、俺的にはこれが一番しっくりくる。対して彼女は無駄な動きが一切ない理想ともいえるものであった。不覚にもその綺麗な所作に見惚れてしまう。おっと、これではいけない。こんな気持ちでは彼女には勝てない。俺は気合いを入れ直すと素振りを再開した。

 そして、暗記時間が終わった。それから互いに礼をし、読手にも礼をする。そして初めに試合には関係のない序歌が読まれる。それから試合が始まる。序歌を読んでいる間に深呼吸をし、集中力を高める。俺の運命の試合が始まった。


 序盤は彼女が優勢であった。しかし俺もなんとか得意札は獲得しそれ以外も順調に獲得していった。特訓の成果が目に見えて現れていた。徐々に自陣の札の枚数が彼女の枚数に迫っていった。空札が読まれている内にチラリと彼女の表情を窺うと、彼女の表情は真剣そのものであった。彼女は本気だ。俺はそれが嬉しかった。

 そして試合も佳境になり、俺の陣にはあと2枚、彼女の陣にはあと1枚とかなりの接戦であった。さらにそのうちの1枚は俺の得意札である。

「ひさ「「はい!」」かたの~」

 ほんの僅かな差で取ることができた。これでお互い残り1枚ずつである。なので次にどちらかの陣にある札が読まれたときに勝負は決する。だが、最後の1枚は俺の得意札だ。こちらが読まれれば俺に勝機がある。

「あしびきの~…」

 読まれたのは空札である。勝負はまだ続く。俺達は次の句が読まれるのを待つ。この時間はとても長く感じる。それに長時間集中しているので体が熱くなっている。お互いに顔や髪を汗が伝い畳に落ちる。だが、そんなものに構っている暇はない。今は句を聞く耳、札の位置を見る目、札を取る腕にだけ神経を集中させる。そして、下の句が読み終わり、次の句が読まれる…

「か「「はい!」」くとだに~」

 その瞬間勝負は決した。



「となりいい?」

 そう言いながら彼女はベンチに座る俺のとなりに腰掛けた。

「いいって言ってないんだけど…」

 そう言いつつも今さら嫌とも言えないので会話を続ける。

「何しに来たんだよ…バカにしにきたのか?」

「いいえ、あなたと話そうと思って。高校に入ってからあまり話せてないから。」

「それいまじゃないとダメか?俺結構落ち込んでるんだけど」

「えぇ、いまじゃないとダメ。それに、そんなに落ち込まなくてもいいわ。あの勝負は本当に危なかったわ。私が負ける可能性も充分にあった。それは凄いことよ。」

「でも負けたら落ち込むよ。」

 そう、俺は負けた。すぐに陣にある札だと分かったし腕も動いた。なのにほんの少しの差で届かなかった。それが余計に悔しい。これで俺の想いは彼女に届くことはない。

「最後は本当に運が良かったわ。私あの札だけは取られたことがないの。私の1番の得意札なのよ。」

「ははっ…そりゃ勝てねぇわ」

「また落ち込んでる。私はあなたを落ち込ませるために来たんじゃないってば。」

「じゃあ何しに来たんだよ?」

 俺は少し鬱陶しげにさっきと同じ質問をする。

「えっと…その…あなたに言わなきゃいけないことがあって…」

 さっきまでの威勢はどこへいったのか彼女は少し頬を赤くし、小さな声で言った。

「私、ずっとあなたのことが好きなの」



 私は別に強い人間ではないし、競技かるたの才能なんか自分には無いと思っている。私はただあなたと一緒にいたいだけなの。だって私が勝つとあなたは必ずまた挑んでくる。もし私が負けちゃうと、あなたは満足して私と遊んでくれなくなるんじゃないかって思っていた。だから昔から必死に努力して札を覚えた。あなたとずっと一緒にいるために。何回かこの想いを伝えようかと思った。しかし、想いを伝えて今の関係が壊れてしまう方が嫌だったから諦めた。そんな私の気持ちを表現している51番の句がとても好きだった。だからこの札だけは必ず取ると決意した。そして、高校生の大会全てでこの札を取り、さらに優勝することができたならあなたに想いを伝えようと決意した。正直自分でも無謀だと思っている。だけど、それくらい強くならないと私は自分を認められない。これは一種の願掛けだ。いや、もしかしたらあなたに想いを伝える理由が欲しかっただけなのかもしれない。だってあなたの答えを聞くのが怖いから…


「なんだよ、じゃあ俺たちはお互いに想いを伝えるために必死に努力して相手に勝とうとしてたのか。」

「えぇ、そうみたいね。まさかあなたもなんて思わなかったわ。」

「こっちのセリフだよ。」

 そういうと不思議と笑いが込み上げてきて互いに笑ってしまう。


「『こんなにもあなたを思っていますが、それを言うことなどできません。伊吹山のもぐさのように、熱く燃えている私の心なんてあなたは知らないでしょうね。』まさに私たちのことを表していたってことね。」

「あぁ、だが今は違う。お前が俺を好きなのは分かったし、俺もお前の事が好きだからな。」

「改めて言わないでよ恥ずかしい。」

「言われっぱなしだから俺からも言わないとと思ってな。」

「もう、バカ…」

 

 俺たちの勝負はこうして幕を閉じた。

僕は競技かるたを全くやったことはないので、

「ルールが違う!」や「そんなことしない!」

ということがあればごめんなさい。

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