8話
「え?」
車椅子に座って、こっちを見ている沁の姿があった。
しまった。飛ぶ事に夢中になってしまっていて、周りをよく見ていなかった……
私は沁に飛ぶところを見られてしまったらしい。
どうしよう‥‥‥
沁がこっちに向かって来て私に声をかけた。
「雅、君は、一体‥‥‥」
私は動揺してハチャメチャな事を口走っていた。
「あ、これは、その、あの、あれよ! そう、あれ! ‥‥‥は~~。」
ため息をついてしまった。
なんてドジ‥‥‥
もう正直に言うしかないな。
沁にこれ以上、嘘をつくわけにはいかない。
嘘をつく事は疲れるし、元々嘘をつくのが苦手な私だから。
「沁、実は私、あなたを守護する天使なの。私達は前世で恋人同士だった。人間界では修行の場で本来の居場所は天国。でも、私の人間界での修行が終わったからあなたの守護天使になる事を決めて、沁の側にいる事にしたの」
沁は私の話を静かに聞いていた。
「え? 僕たちは前世で恋人同士だったの?」
「そうよ。私は前世での記憶がある。でも、沁が前世での記憶を取り戻してしまったら、一緒にいられなくなるの」
「だから、僕の事を知っていたんだね。でも、どうして一緒にいられなくなるの?」
「わからないわ。そういう決まりみたい」
「前世での記憶なんて、僕にはない。だからずっと僕の側にいられるよ。いや、一緒にいてくれ!」
私は、沁の一緒にいてくれ。という言葉にちょっと照れた。
顔が熱くなるのがわかり、恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちでいっぱいだった。
でも、本当は前世での記憶を取り戻してずっと一緒にいられるなら、どんなにうれしいか。
だけど、沁が記憶を取り戻したら、一緒にいられなくなる。
やっぱ、そんなの寂しいよ!沁‥‥‥
沁はテンションがあがったかのように話し続けた。
「天使だったんだね。天使とか悪魔とか信じなかったけど、雅が羽を広げて嬉しそうに飛び回るのを見て、最初はびっくりしたけど羨ましく思えたんだ。僕も雅のように自由に飛んでみたい!」
「私、まだ上手く飛べないけど、もっと上手になったら一緒に飛ぼうよ! 沁の願いを叶えてあげる」
そう言うと沁が私の手を取り、
「ありがとう、雅。いや、僕の天使!」
沁の僕の天使! の言葉に私は嬉しくなり、照れながら
「やだ~。僕の天使だなんて…うふ」
顔が自然とにやけていたに違いない。
急に恥ずかしくなった。
その時だった。
「何? 妖精!?」
沁が急にそう言いだした。