5話
「何事もなくて良かったよ」
沁は安心した様子で私を眺めていた。
「君の名前を聞いていいかい?」
「立花 雅」
「僕の名は柊 沁 よろしく」
そう言うと執事が紅茶を入れ
「どうぞ、お召し上がりください。わたくしは下がっておりますので、ごゆるりとお話下さいませ」
といい残し、部屋を出て行った。
「さっきは唐突に足の事を聞いてきたからびっくりしたよ~!!」
「ごめんなさい。私、配慮が足りなくって‥‥‥」
「いや、謝る必要はないさ! 周りが気を使いすぎて息が詰まっていたんだ。そんな時君が表れて、皆の前で急に足の事を話題にしたから、皆の驚いた顔! 今思い出しても笑っちゃうよ」
沁はそう言ってまた笑い始めた。
「ねえ、足、どうしたの?」
「事故さ! 父さん、母さんと3人で別荘に行く途中、事故に遭ったんだ。幸い、皆命は助かったけど僕は脊髄をやられてしまって歩けなくなってしまった。僕が中学2年の夏休みの話さ!」
「そうだったのね」
「それ以来、足の事に触れる人はいなくなってしまって、腫れものに触るようなものさ! 皆遠慮して僕に気を使っている。父さん、母さんまでもね。2人共仕事が忙しくて、いつも海外! 帰って来るのは3か月に1回くらいかな」
「寂しい思い、辛い思いしたのね。」
「毎日が退屈で仕方なかったんだ。なあ、雅って呼んでいい? 僕の事は沁でいいよ。そう言えば、どうして僕の名前を知っていたの? どこかで会った事あったかな?」
私は今までの事を心に話そうか、正直迷った。
信じてもらえない可能性が高いからだ。
「ええ、雅でいいわ。沁、私はあなたを知っているわ。沁は覚えてないけど、会った事があるのよ。私達」
沁は一生懸命、思い出そうとしているが、思い出せるはずもない事は私はわかっていた。
そうだ、忘れてた。
(エクスシア、聞こえる? 沁が前世の事を思い出す方法ってあるの?)
私は心の中でエクスシアに声をかけてみた。
(あるわ! でも、思い出してしまったらあなたはその子の側にいられなくなるわ)
(え? 何で!? そんな…嘘でしょ!!)
(だってそういう決まりだもの)
(何、それ~!!)
「雅、ごめん。どうしても思い出せない!」
「いいのよ」
「雅はどこに住んでるの? この近く?」
その問いに私は
「あ、うん。実は事情があって住むとこないのよね。親も早くに亡くなっちゃったし」
とっさに着いた嘘だった。
それを聞くと
「そうか、雅も辛い思いをしたんだね。じゃあここに住みなよ。僕の話し相手になって欲しいんだ」