神様になります -役所申請-
俺は、今日【神様】になる。
何故俺みたいな高卒のニートが神様になれるのか?って
まあ、そこは運が良かったとしかいいようがないなぁ。
詳しく説明してあげたいところだが、どうやら順番が回ってきたようだ。
「こんにちわ、今度神様になる佐々木祐介です」
そう愛想良く挨拶をしたが、職員さんは無表情だった。
「【神様申請】の方ですか?それなら窓口は3番にお願いします」
年齢は30くらいだろうか?
公務員にしては化粧気の多い女性職員は、ぶっきらぼうに俺へ告げた。
「あー、そうなんですね。すいません」
俺は、内心腹立たしかった。
これで、たらい回しは三度目だ。
どうやら、神様になりたいという人が少なすぎて、職員も窓口を把握出来ていない奴ばかりらしい。
ん、3番?3番って言ったか、この女。
「すいません。3番の窓口はさっき行って【ここじゃない】と言われたんですけど」
「あれ、そうなんですか」
目の前の女性職員の名札を見ると、【池内 かすみ】と書かれている。
池内は”少々お待ちください”と俺の顔も見ずに言うと、PCをカチカチと弄り始めた。
3分ほど、彼女はPCを弄っていたが、やがて【チッ】と俺に聞こえるか聞こえないかギリギリの舌打ちをすると、席を立ち、後方でせわしく働いている中年公務員に話しかけた。
恐らく、あの人は池内の上司なんだろう。
話を邪魔くさそうに聞く上司と、不機嫌さがヒートアップしていく池内の会話は、その内容は聞こえないものの、俺の胸の内を不安にさせる。
(おいおい、大丈夫かよ)
折角神様になれるっていうのに、幸先が悪いものだ。
「私だって忙しいんだ!マニュアルを見てやれば出来るだろ!」
上司が池内に向けて声を荒げた。
周囲の視線が二人に集まる。
「はい……分かりました」
池内が塩らしくそう返事をすると、こちらに戻ってきた。
彼女は目を赤くはらして、涙を浮かべている。
俺は、戸惑いを隠せない。
「お待たせしました、佐々木様。【神様申請】はこちらの窓口で承っております。予め書類の方はお書きいただいてますでしょうか?」
池内はそう言うと、鼻を啜った。
「あっ、はい……これでいいですかね?」
俺はさっき書いた4枚の書類を手渡した。
「確認致します。少々お待ちください……」
池内は書類を受け取ると、それらを人さし指でなぞるようにして確認し始めた。
(結局、窓口は ここで合ってたのに、この女から謝罪の言葉を聞いてない気がするぞ)
俺は、もしかしたら心が狭いのかもしれない。
じわじわと湧いてきた怒りの感情を持って、俺は池内を睨みつけるように見ていた。
沈黙の時間が5分を過ぎたころ、ようやく池内が口を開いた。
「書類に、不備はないようですね」
気まずかったぁ。
コミュ力ゼロの俺が、軽快なトークを始めなければというプレッシャーで死ぬところだった。
「あ、良かったです」
これで、俺はようやく神様になれるみたいだ。
さあて、神様になったら何をしようかしら。そもそもどんな神様になるのかな……
夢が広がるぜ。
「ただ佐々木様、このままでは神様にはなれません」
ん?この女今なんて言った?
俺が神様になれない……だと?
「ど、ど、どうしてです?」
「佐々木様、現在【生きて】らっしゃいますよね?」
「当たり前じゃないですか」
「調べたところ、神様の申請は【死者】のみが可能らしいのです」
「えっ、本気で言ってます?死んだらどうやって役所に来るんですか?」
俺がそう詰め寄ると、池内は宙を見つめた。
俺も、池内の視線の先を追うが、そこには白い天井があるだけだ。
俺が視線を戻すと、池内はにんまりと笑っていた。
「【気合い】じゃないでしょうか?」
「気合いかよー」
俺は、ズッコケた。
終わり