邪竜ディガーラ
昨日投稿した第8話を修正しました。
ローガの性格等、ラストを少し変えております。
ご面倒でなければお読み頂ければ幸いです。
ご迷惑をお掛けしました。
会長のOKを貰ったガリュウは早速CMを打ち、ユーザーたちの反応を見た。
何しろ他にする事のない人々だ。
更に言うとCMは現在のコンテンツへ参加者を狙い撃ちにして流せる。
反応は一時間も待たずに現れた。
それはガリュウの想像以上に好意的に受け入れられた。
不老不死化により、人々が持つコンテンツに対する賞味期限は驚くほど伸びた。
古い物になると二百年を超える物もあるぐらいだ。
そんな中でガリュウの会社のコンテンツは、三十年程でまだまだ歴史があるとは言えない。
それでも今まで出していなかった、大型モンスターはユーザーの心に響いたようだ。
CMはグード人達の間で共有され、別のコンテンツユーザーをも呼び寄せる結果となった。
「やっぱり、一部の古参ユーザーには受けが悪いか……。まぁ彼らは求道者みたいになってるもんね……」
複数のモニターで情報を精査していると、コールが入っていた。
「ドーガンか……」
ドーガンは別エリアの担当者で、ハーグ上空の船とは別の船で仕事をしている同僚だ。
提供者であり、自身も名うてのプレーヤーである彼を、ガリュウは苦手としていた。
ドーガンは世間一般で言えば、悪い人間では無いがとにかく熱いのだ。
努力、友情、勝利の三つが大好きな少年漫画の様な人物だった。
データを重んじ、物事を俯瞰で見る事を好むガリュウは状況に入り込み、何なら自分で事態を解決してしまう彼とはとにかく話が合わなかった。
ため息を吐いてコンソールを操作する。
画面には満面の笑みを浮かべたドーガンが映っていた。
ツンツンとした赤い髪の少年だ。
「ガリュウ!!久しぶりだな!!なんか面白い事やってるみたいじゃないか!?」
「……声が大きい。で何?」
「で何じゃないよ!巨大モンスター対銀髪の王女なんて燃えるじゃないか!?」
両手を握りしめたドーガンの顔でモニターが埋められる。
「近いよ……。何……やりたいの?」
「当たり前だろ!……なぁ、どうせテストはするんだろ?俺にやらせてくれよ!」
「嫌だっていっても、上にある事無い事言ってねじ込むつもりだろ?」
「しょうがない。滾る俺の心がそうさせてしまうんだ……」
ドーガンはモニターから離れ、右手で胸を押さえながらしみじみと言った。
「はぁ、分かったよ。でも王女のいる砦は駄目だからね。目標は北にかかる橋。そこの守備隊だ」
「まぁメインディッシュは客の物だもんな。分かった。せいぜいプロモーションに使える様に派手にやるとしよう」
「……言っとくけど、虐殺はNGだからね。ユーザーが引いて否定的な意見が多くなると困る」
「分かってるさ。俺だって提供者だぜ、コンテンツの趣旨は理解してるよ。それじゃ準備が整ったらコールしてくれ」
「はいはい、じゃあ後でね」
ガリュウはコンソールを操作し、ドーガンとの会話を打ち切ると作業に戻った。
人型兵器のメインフレームを利用し、装甲を肉付けしていく。
基が人型なのでそこから余りかけ離れた設計は出来ないが、3Dモデルで示した形に近い物が出来た。
ハシェ達の世界のおとぎ話に登場する怪物。
ドラゴンに似たモンスターだ。
ガリュウはその機動兵器の名称項目に、怪物の名前ディガーラと入力した。
火炎弾、着弾時に爆発して炎を巻き散らす物と火炎放射、噴き出す炎で薙ぎ払う武器を口腔内に装備している。
本当は手に持つなり、腕にオプションとして取り付けるなりした方が運用効率は良いのだが、コンテンツのイメージを崩さない為には仕方がないだろう。
背中には蝙蝠に似た羽根を備えている。
これは完全に飾りで、飛行には邪魔以外の何物でも無いのだが致し方ない。
尻尾についても同様だが、一応これは武器として使えるので良としよう。
「ふう、こんな物かな」
ガリュウはエンターキーを押した。
船がパーツと素材を選び出し、製造からバランス調整まで後はやってくれる。
椅子にもたれローガの事を考える。
取り敢えず今はまだ上司には伏せているが、知られるのも時間の問題だろう。
独力で彼女が戻ってくればいいが、戻らなければ恐らく彼女は責任を取らされて母星に帰る事になるだろう。
彼女がどうなろうと知った事ではないが、代わりの人間が来るまで彼女の担当エリアまで任される事になる。
それはとても面倒だ。
ガリュウにとって、人の仕事を引き継ぐ程ストレスの溜まる仕事は無かった。
大体彼女のデスクは物に溢れすぎていて不快だった。
整然と並べられたデーター、項目毎に整理された資料。必要最小限のツールたち。
シンプルイズベスト。
それがガリュウの信条だった。
「次来る人が使えるとは限らないし、出来れば戻ってきて欲しいんだけどねぇ」
ガリュウはそう呟くと、彼女の居場所を探るべく砦に潜入させるアバターの制作にかかった。
そのローガを捕えたトール達がいる砦は、ガリュウの懸命な努力を嘲笑うかの様におかしな事になっていた。
城壁の上にはバリスタの代わりに、バルカンファランクスの様な物が並んでいる。
その横にはミサイルランチャーの様な物も設置されていた。
更に砦の中庭には、金属で出来た複雑な機械が据えられている。
「トール殿、これは一体何なのです?」
「おっさん、よく聞いてくれた。こいつは所謂バリアだ」
「バリア?」
おっさん事、ハシェの側近ディムは多忙な彼女に変わり、トール達が砦に据え付けた機器の説明を受けていた。
「あなた達の使うシールドに似た物を発生させる機械ですよ。この前の戦闘で色々収穫が有ったので補助機関の修復が終わりました。その動力を流用して空間断層発生装置、通称バリアを使う事が出来る様になったのです!」
「空間断層?」
「つまりだな、空間に意図的に断層を発生させる事で、諸々の攻撃を防げる盾を作り出すんだよ」
ディムは首を捻っている。
「うーん、無敵のシールドって感じだ。心配しなくてもパリーンと割れたりしねぇから安心しな」
「はぁ、無敵の……パリーンですか……」
「ままっ、それよりあっちの方が凄えんだぜ」
トールが指さした先、城壁の上にはバルカンに並んで、横長の立方体が金属の足に支えられ据えられていた。
三人は城壁の上に上がり、立方体を見上げた。
「これは他の物と少し形が違いますな?」
「おう、これは最強の槍、荷電粒子砲だ。連発は出来ないがこいつで貫けない物は殆どねぇ。どうよロマンを感じるだろ?」
「最強の槍……。先程の無敵の盾と最強の槍はどちらが強いのですか?」
「……おっさん、そういう難しい質問は止めてくれ」
「粒子は断層を超えられないので、バリアの方が強力です」
リームの説明にディムは感心した様に頷いた。
「リーム殿は博識ですな」
「えへへ、このくらい常識ですよ」
なんとなくでしか兵器を理解していないトールは、気まずそうにディムから視線を逸らした。
それにディムは気付かず、にこやかにトールに話し掛ける。
「砦の防備が強固になるのは良い事です。姫様の安全にもつながりますからな」
「……あのよ。ずっと気になってたんだが、なんでお姫様のハシェが最前線にいるんだ?」
「それはハシェ様が王族だからです」
「王族だから?」
トールの疑問にディムは誇らしげに答えた。
「この国の伝統なのです。我が国ドートンは高名な術士、ルシャ・メルハース様が興した国です。ルシャ様は民を第一に考え、王侯貴族は万民の為、国に災い在りし時は民の盾となって戦うべしと仰いました。その言葉を守り他の王族の皆様も国境で戦っておられますよ」
「へぇ、俺達の所とは随分違うな」
「この国は特別です。別の国の殆どの王族は、宮殿の奥で命令するだけですよ。我が国は術士であるルシャ様が興しただけあって、王侯貴族の方が優秀な術士であるというのも理由ではあります。ルシャ様の言葉だけでなく、効率も考えた結果ではあるのですよ」
ディムは苦笑しながらそう話した。
彼の言う様に効率を考えれば、術の使える者が宮殿の奥でいるよりは、前線で戦っている方が才能は活かせるだろう。
「ふーん、合理的なんだな。まぁいいや。リーム、粒子砲はもう撃てるのか?」
「ええ、行けますよ。試射してみますか?」
「ああ、一応、おっさんにどんな物か見せとかねぇとな。他の装備も順次テストも兼ねて動かそうぜ」
「了解です。ではまず粒子砲からテストしていきましょうか?」
「おう」
リームは周囲に疑似コンソールを展開し、スティックとトリガーやボタンの付いたコントローラとヘッドマウントディスプレイを渡す。
トールがボタンを押すと、装着したディスプレイに粒子砲からの映像と照準が表示された。
「最終的には兵士の皆さんに操作法をレクチャーしましょう。今回はトールがテストして下さい。言わなくても分かっているとは思いますが、地面を狙っちゃ駄目ですよ。一応安全装置はついてますけど、周辺のスキャンが完璧じゃないですから味方を壊滅させる可能性もありますからね」
「分かってるよ。空を狙えばいいんだろ?ん?何か飛んでるな……。あれで良いか」
トールは北の空を飛ぶ何かに向けて引き金を引いた。
粒子砲はターゲットの移動速度、地磁気の影響を計算後、発射角度を修正。
荷電粒子を亜光速まで加速した物を射出した。
遠く北の空で爆発が起きる。
「ビンゴ!!」
「おお!!あんな遠くの空で爆発が!!成程、あれは遠くで爆発を起こす兵器なのですな!?」
「ちょっと違いますが……。ところでトール、何を撃ったんですか?鳥じゃないですよね?」
「さぁ?解像度が低くてよく分からなかった。後で改造しといてくれ」
「はぁ、分かりました。問題になってないと良いですけど……」
この星ではグード人にとって初めてとなる飛行兵器ディガーラは、そのテスト飛行で見事に爆散した。