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科学と魔法  作者: 田中
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疾風のように

ハーグの上空に浮かぶ船の中、コンテンツ提供会社の社員ガリュウは怒りの声を上げていた。


「どういう事だよ!?五万だぞ五万!?大体あの巨人は何だ!?」


飲み物を持ってコンテンツ管理ブースに戻ったローガは、彼のデスクに近寄りモニターに映された惨状を確認する。


「うわっ!?悲惨ねぇ……。これって始末書物じゃない?」

「うるさいよ!!……今までの戦闘であんな物が出た事は無かった。敵側の新兵器か……?」


「ねぇねぇ、どうするの?」

「とにかく本社に報告を上げる。制限を解除しないと歩兵じゃ対処出来ない」

「上が許可を出すかなぁ…。あんまり強力な兵器を使うと剣と魔法じゃ無くなっちゃうじゃん」


ガリュウはローガをキッと睨んだ。


「そう言うなら君がやってみるかい?あのキールでさえ何も出来ずロストしたんだよ?」

「フフッ、良いわよ。大体ガリュウは真正面から当たり過ぎなのよ」

「フンッ、僕はそれでユーザーの支持を得てるんだ。君よりもね!」

「良いんだもん。私には陰謀好きの濃ぃいファンが付いてるんだから。まぁ見てなさいよ」


ローガは手を振って自分のデスクに去って行った。

その後ろ姿をガリュウは忌々し気に見送った。




黒い金属の巨人が戦場を駆け回っている。

コクピットではトールが鼻歌を歌っていた。


「疾風のように、フフンフフ、フフンフフ♪」


トールはペダルを踏み込み、ハンドルを機嫌よく左右に回している。


「トール、前から気になっていたのですが、何故、電脳に直結して操縦しているメカにハンドルが必要なんです。そもそも何で大昔の自動車の操作系なのですか?」


「えっ!?だってアニメじゃこうなってたぜ?」


リームはトールが握ったハンドルを見て、またアニメかとため息を吐いた。


「大体、電脳で操作可能なら乗り込む必要ないんじゃないですか?亜空間通信なら遅延が発生する事もありませんし、遠隔操作の方が安全でしょう?」


「ハハーン、リームは鉄人やロボの方が好みって訳だな」

「……言っている意味がまるで分かりません」


「良いんだよ。乗って操縦してるって事に意味があるんだから」


訳の分からないトールのこだわりにリームはため息を吐いた。


『トール殿!!トール殿!!』


外部マイクが外の音を拾う。

360度モニターが足元で叫ぶハシェ達を映し出していた。


『なんだハシェ?』


金属の巨人がハシェ達を見下ろし尋ねる。


「敵は殆ど殲滅した!!一度砦に戻るがそのゴーレムはどうするのだ!?」


『もう終わりか……。


リームこいつ船に戻しといてくれ。

えー、後始末は全部私がするんですかぁ?


何だよお前は元々その為に居るんだろ?

違います。私はトールのお母さんでは無いのですよ。


いいじゃん、頼むよぉ。なぁ、リーム。……お願い!

……ふぅ、仕方ないですねぇ、それでトールはどうするんです?


俺は一走り、飯を調達してくる。

またですか?別にお芋でいいじゃないですか?


いい訳ねぇだろ!

……はぁ、分かりました。了解です』


トールがスピーカーを切り忘れた為、コクピット内の会話が駄々洩れだ。

巨人の胸が開き、トールが胸の穴から掛け声と共に飛び出す。


「トウッ!!」


左拳と左膝を地面に打ち付ける様に、ポーズを決めて着地する。


普通はそんな事をすれば、衝撃を逃がす事が出来ず拳や膝を痛めるのだが、彼は一度これをやってみたかったのだ。


「フッ、完璧だぜ……」

「あー。トール殿、貴公は狩りに出かけるという事で良いのか?」

「えっ!?なんで知ってんだ!?」

「全部聞こえていたぞ」


ハシェの言葉にトールの顔が真っ赤に染まる。

リームとの所帯じみた会話を聞かれた後、恰好つけてコクピットから飛び出す。

着地の際にはポーズまで決めて……。

視線を巡らせると、ハシェを含め面頬を上げた騎士達の顔は全員半笑いだった。


「フフッ、気にする事は無い。少しばかり間抜けの方が兵達も貴公に怯えずに済む」

「やっぱ、間抜けって思ってんじゃねぇか!?畜生ッ!今に見てろ!」


かなり情けない捨て台詞を残し、トールは以前アッシュバイソンを狩った森へ駆け去った。


「私はそのぐらいの方が気が置けなくて良いのだがな……。砦に戻るぞ!」

「ハッ!!」




トールは気恥ずかしさで少し涙ぐみながら、森の中を凄まじい速度で走っていた。


「畜生ッ!!あいつ等いつかぐうの音も出ない程バシッと決めて吠え面かかせてやる!!」


完全な八つ当たりで、見当違いな事を叫びながら走るトールの耳に女性の悲鳴が聞こえた。

立ち止まり悲鳴の出所を確かめる。


「誰か!!誰か助けて!!!」

「キシャア!!」

「ゴアァ!!」


3キロ程先、現地人がグード人の残党に襲われているようだ。

トールは笑みを浮かべると、そちらに向けて全速力で駆けだした。


辿り着いた先では、ドレスを着た金髪のグラマラスな美女が三匹のグード人たちに襲われていた。


「どうかお許し下さい!私には年老いたお父っあんとお母っかさんが待っているのです!」


そう言うと美女は駆け付けたトールをチラッと確認し、わざとらしく倒れるとスカートから足をのぞかせた。


「あーれー、ご無体な!」


グード人達は特に何もしていないのだが、美女が動く度、服がはだけていく。


「……おかしいわね。何で助けないのかしら。第二王子の時は上手くいったんだけど……」


美女はこれ見よがしにトールに視線を送る。


「ああ!そこの逞しいお方、どうかわっちを救ってたもれ!?」


なんだか言葉遣いも滅茶苦茶になってきている。


「……もうッ!どうして助けないのよ!!」

「いや、面白いからもう少し見てようかなと……」

「チッ、仕切り直しよ!!お前達、やっちゃって!!」

「イー!!」


奇声を上げて襲い掛かってきた三匹を、トールは一瞬で叩き潰した。


「へっ?」

「うん?お前、何かつながってんな?」

「つながってる?オホホッ、一体何の事かしら」


トールは女性の頭の側、何も無い空間に手を伸ばした。

何かを掴み、手刀で断ち切る。


「なっ!?母船との回線が!?ちょっとあなた何をしたのよ!?」

「なるほど、いままで戦ってきた奴らは、遠隔操作のロボットみたいなモンだったのか…」

「……あなた何者?」

「俺か?俺はトール。お前らに分かりやすく説明すると、地球産のサイボーグだ」

「地球!?地球って会社の前の企画を潰した……。アハハッ、私、用を思い出したからこれで失礼するわね!」


逃げ出そうとした美女の襟首をトールが掴む。


「まぁ待てよ。そんなに急がなくても時間はたっぷりあるさ」

「ひぃ……」


トールは掴んでいた目に見えない回線を焼き切り、美女を抱えると砦に向けて駆け出した。


「ちょっと、放しなさいよ!!!誰か!!!誰か助けてぇ!!!」




その頃、ハーグ上空の母船ではちょっとした騒ぎが起きていた。

現地人のアバターを使いダイブしていたローガが、帰還できず意識が戻らなくなったのだ。


ダイブ装置は、人格及び記憶をアバターにダウンロードして操作するのだが、その際、本体の意識はオミットされる。

これはアバターを動かす際、装置の中で本体が暴れるのを防ぐ為だが、アバターが損傷したりすれば意識は戻る筈だ。


たまに電磁波などにより帰還できなくなる事はあったが、今まではサルベージ出来ていた。


「なんで意識が戻らないの?」

「こちらをご覧下さい」


尋ねたガリュウに医療担当の生体ドロイド、ハシェ達が魔物と呼んでいる疑似生命がローガのうなじを指し示す。

うなじにはダイブの為の端子が埋め込まれているのだが、それが焼け焦げていた。


「検査しないと何とも言えませんが、恐らくこの状態ですと脳にダメージを負っている可能性が大です。クローン処置するにしても、アバターのデータがないと最終バックアップまで記憶が戻ります」


「バックアップは何時の物?」

「それが……ローガ様は最近、バックアップにかかる時間を疎まれまして……最新の物でも三ヶ月前の物になります」


「三ヶ月前……、そんなに前の物じゃ、仕様に対応出来ないじゃないか……」


現在、ガリュウ達が配信しているコンテンツは、ユーザーの要望に応え常に設定や追加要素が変動している。

三ヶ月も前ではすでに別物と言っていい。

提供者はユーザーの質問やクレームに対処する為、常に最新の情報を取得し、何故そうなったのか認識しておく必要があった。


ガリュウはダイブ装置に横たわったローガを見下ろしため息を吐いた。


「大方、第二王子を手に入れて調子に乗ってたんだな。しょうがない。ローガは取り敢えずクローン処置して生命維持装置につないどいて。僕は何が起きたか探ってみるよ」

「分かりました」


医療担当は、浮遊式のストレッチャーにローガを乗せ部屋を後にした。


「全く、バックアップぐらい取っておけよな」


ガリュウは再びため息を吐くと、ローガのデスクに向かい詳細を調べ始めた。

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