紛い物の神
星の中心、元老達のいるコアブロックでは突然現れた襲撃者に対して混乱が生じていた。
何しろこの人工の星が攻撃される自体初めての事だ。
今までは企業の船を切り捨てる事で星への直接攻撃を躱してきたし、それで問題無かった。
シータ:どうするのだ!?敵はすぐにここまでくるぞ!!
シグマ:落ち着いて下さい。現在コアは周辺ブロックから切り離して、断層フィールドで守られています。簡単には攻撃出来ない筈です。
シグマがそう言った直後、コアブロックに激しい衝撃が走った。
アルファ:何事だ!?
シグマ:敵が断層フィールドを喰い破ろうとしています!!
シータ:周辺ブロックを捨ててコアブロックだけでも退避すべきだ!!
アルファ:ここまで増やした民を捨てるのか!?
シータ:どうせ狂暴性を排除出来ない失敗作共だ。捨てても問題無かろう?生体データは全て保管してあるしな。
アルファ:それも致し方ないか……。
二人が話していると、先ほどよりも激しくコアブロックが揺れた。
シグマ:外殻損傷……侵入されました。
シグマの言葉が終わらない内に、黒い船体の舳先が壁を突き破り顔を覗かせる。
「お邪魔しまーす」
壁を引き裂いた舳先から、黒髪の男と銀髪の女性、羽根の生えた少女が姿を見せた。
「誰もいねぇじゃねぇか」
トールの言葉通り、コアブロックの中央には人の姿は無く、部屋の壁際に十一本のシリンダーが設置されているだけだった。
「トール、このシリンダー。中に生物の脳が入ってますよ」
「気味が悪いな……」
「もしかして……マ○ー的な奴か……」
トールがシリンダーに触れようとすると、グード人では見た事の無い年老いた男が現れた。
『それに触れるな!』
「触れるなって言われると余計触りたくなるな」
『何が目的だ?我々の抹殺か?行動理由は義憤か?』
「いや、強いて言うなら飯の礼かな」
『……我々はあの星から撤退する。二度と手は出さないと約束しよう。見逃してもらえないか?』
トールは首を鳴らして老人を見た。
たまに姿が揺らいでいる、恐らくホログラムなのだろう。
「あ?喧嘩売っといて、都合が悪くなったら、はいサヨナラなんて虫が良すぎると思わないか?」
『ただでとは言わん。我々が探索の際見つけた資源惑星をやろう。レアメタルの塊の様な星だ。一生かかっても使いきれない程の富を生むぞ』
「一つ聞かせろ。何でグード人達はずっと同じ生活を続けてんだ?」
『失われた故郷を取り戻す為だ。滅んだ時のままな』
「なんで滅んだんだよ?」
『それは私が説明しよう』
老人よりは若い軍人風の男が現れた。
『戦争が起きたのだ。所謂世界大戦という奴がな。銀河の一部を消滅させ、故郷の星さえ燃やしつくした。この人工の星だけを残してグードは滅んだのだ』
「その故郷を再生しようって訳か?」
『そうだ。だがそこに住む者は星を焼いた様な愚か者であってはならん。狂暴性を抑えた理知的な者が望ましい』
「ふざけるな!貴様らは遊びで我々を殺していたではないか!?」
痩せた中年の女性が姿を見せる。
『今は変化の途中なのよ。欲望を抑え過ぎると脳内のバランスが取れない為か、自ら死を選ぶようになるわ。理知的でありながら自死も選ばない。今はその調整の段階なの』
「この星は実験場なのですね?」
『ゆりかごと言って頂きたいわ。文化を保ちながら穏やかな人々を生み出す為のね』
トールは女性の言葉に顔を顰めた。
「……お前らは自分の見たい景色の為に、グード人達を作り変えようとしてる訳だな?」
『そうだ。だがそれの何が悪い?我々がこの人工の星に残っていたデータから彼らを再生したのだ。いわば我々は現在のグード人の創造主なのだ』
『我らの導きで星はかつての文明を取り戻し、穏やかに人々の暮らす平和な星になる筈だ』
「なるほど、お前らは神様になりたいって訳か……よし、決めた」
「どうするのだトール殿?……まさか、この者達の言うように手を引くのか?」
「まさか、こいつ等、俺が一番嫌いな人種だぜ」
「じゃあやるんですね?」
「おう、当然だ」
『交渉決裂か……ここは我らの腹の中……生きて戻れるとは思うなよ』
人影が消え、シリンダーが床の中に収納される。
『よもやこれを使う日がこようとは……』
声は混じり合い老若男女の区別が出来ない程歪んで聞こえた。
部屋の中央の床が開き、異形の怪物が姿を見せた。
ベースは人の様だが、体の至る所から腕が生え、その手には様々な武器を持っている。
五メートルを超える巨体の頭部には無数の目が並んでいた。
「……ここにきてファンタジーに戻るのかよ」
「なんか今更って感じがしますね」
「ハシェ、リーム、ちょっといいか?」
トールは二人に何かを囁いた。
「なんて悪趣味な……」
「今まで散々酷い目に遭って来たんだろ?少しぐらいは意趣返ししようぜ」
「そうですよハシェさん」
「……そうだな……では私からやっていいか?」
「どーぞどーぞ」
「それじゃあ、最初は炎だ」
ハシェは左手を突き出し怪物に爆炎を浴びせた。
「ゴアアアア!!」
しかし怪物の持つ杖がその炎を飲み込んだ。
『無駄だ。この生物には我々の持つ技術と知恵を全て結集している。倒す事は出来ん』
「炎は駄目っと。んじゃ次は俺が」
トールは担いでいた銃を怪物に向けた。
毎分数千発の高出力レーザーを発射するレーザーガトリングが、砲身を回転させ光を吐き出す。
「グルルル!!」
だが怪物の持つ玉がフィールドを発生させ、その全てを弾いた。
『無駄だと言っている』
「レーザーも効かないっと。次はリームだけど加減しろよ」
「えー、加減ですか?出来ますかねぇ」
「せっかく色んな武器が試せるのに勿体ないだろ。最後のボスっぽいし」
「トール殿、私は次はこの剣を使ってみたいのだが?」
『お前達、一体何を……』
声を無視してリームは取り出した鞭を重力制御で振った。
「ギャン!?」
怪物は再度玉を掲げたが、出現したフィールドを引き裂いて鞭は玉を持った腕を切断した。
『馬鹿な!?』
「やった!トール、重力兵器は効果がありみたいですよ!」
「ちぇ、もう終わりかよ。もうちょっと根性見せろよ」
『貴様ら遊びのつもりか!?』
「今まで散々遊んで来たんだ。遊ばれる側に回るのも新鮮だろ?」
『おのれ、ふざけおって!!』
怪物は手にした武器を掲げ、次々と攻撃を繰り出した。
熱線、電撃、銃撃、斬撃、爆発、ありとあらゆる攻撃が三人を襲ったが、その全てはモーリアンが作り出すゲートの中に消えた。
『そんな馬鹿な!?』
「モーリアンが復活した時点で、お前ら詰んでんだ。諦めろ」
「次は私だな」
ハシェは怪物の足元に飛び込み、すり抜けざまに剣を振るった。
剣は抵抗なくすり抜け怪物の足を切断した。
「クルルルル……」
切断面は炎を噴き上げ足を炭化させていく。
「ふむ、予想以上の切れ味だ」
「ブースターも上手く機能してるみたいですね」
「次は俺の番だな。どれにしようかな……」
トールが呼び出す武器を選択していると、突然アナウンスが流れた。
『セントラルコアをパージします。作業員は速やかに退避して下さい』
「パージって……だってここ星の中心だろ?」
「亜空間の歪みを検出しました。……なんかコアのコアって感じの部分だけをジャンプさせるみたいですね」
「あいつ等だけ逃げるつもりか?……はぁ、舐められたもんだぜ」
トールはフォトンブレードを手に取ると、無造作に振った。
その一撃で怪物の姿はジュッという蒸発音を残し一瞬で掻き消えた。
障害物の無い空白地。
その暗闇の中にゲートが開き、百メートル程の球体が姿を現す。
アルファ:なんとか逃げ切れたか……しかし大変な損失だ。再建までに膨大な時間が必要だぞ。
シータ:仕切り直すにはいい機会だったと考えよう。星の再生にはまだ千年以上かかるのだ。焦る必要は無い。
ベータ:暴力衝動の解消や承認欲求の充足を未開惑星に求める試みは結構上手く行っていたのだがな。
シグマ:そもそも、元の生体データでは欲望が強すぎるのですよ。
オメガ:でも欲望を弱めると生きる気力も失うし……難しいわね。
ミュー:現在の様な生体ベースの物でなく、ワーカーの様な機械的なアプローチをすれば良いのでは?
ラムダ:それでは我々の目指す星の再建計画からずれる。
アルファ:どちらにしても、周辺ブロックの再建が先だろう。デルタ、資源惑星に飛んでくれ。……デルタ?
デルタ:亜空間の歪みを検知……船がジャンプアウトしてくる……。
ゲートが出現し、黒い船体が舳先を覗かせる。
『逃がす訳ねぇだろ?』
黒い船は肉食獣を思わせる口を大きく開けた。
『何をするつもりだ!?』
『何って食うつもりだけど?』
『止めろ!!貴様は我々の持つ情報がどれだけ貴重か理解しているのか!?』
『大丈夫ですよ。その球体に蓄えられたデータはモーリアンで引き継ぎます。安心して下さい』
アルファ:デルタ!!ジャンプだ!!
デルタ:駄目だ!!周辺の宙域に干渉されている!!ゲートを開く事が出来ん!!
『止めろ!!止めてくれ!!』
十一人の脳を乗せた金属の球は、その日、地球から来た黒い獣にそのデータごと丸呑みにされ消えた。




