生粋のトラブルメーカー
人間達にかつてディガーラと呼ばれた魔獣の若者、タツは人間を助けつつ不満を心の中で呟いていた。
彼は人間との争いを知らず、集落を纏める老人の一人「親父」と慕っている者の話を聞いて、いずれ自分もいずれ雄々しく戦うのだと思っていた。
だが三英傑に連れられ赴いた先でしている事といえば、最初は人命救助、今は土木作業だ。
別にええんやけど、なんや思てたのと違うんやが……。
自分が夢見ていたのは、「ようも兄貴を!!」とか「任しといてください、確実にタマ取ったりますけ……」といったものだった筈なのだが……。
「ありがとうね。タッちゃん」
『ああ、気にせんといて。困った時はお互いさまや』
「ホントにいい子ね」
崩壊した街を再建する為の資材を運んでいると、それを見たおっちゃんやおばちゃんが声を掛けてくる。
自分の知る人間は、お互い憎しみ合い、命のやり合いをする関係だったと思うのだが、五百年という年月は人からディガーラ達をおとぎ話の魔獣という存在に変えていたようだ。
「タツ、それはこっちに運んでくれ」
『はい、分かりました姉さん』
唯、この状態を作り出したのは、今声を掛けてきた銀髪の人間だろう。
彼女は自分達に全く怯えを見せなかった。
その事で、他の人間達も見た目の恐ろしさではなく、内面で判断する様に変わっていった。
「タツ、なにハシェの事ジロジロ見てんだよ。もしかして惚れたか?」
重力制御で彼と同様資材を運んでいたデュオがタツに話しかけた。
『ちゃいますよ……ただ人間にも凄いお人がいるもんやと感心してただけです』
「へへッ、確かにあいつの器はデカいと思うぜ。トールに助力を求めたのも出会ってすぐだったしな」
『デュオはん、そのトールってお人がこの喧嘩を治めに行っとるんですよね?』
タツはトールとも話しているのだが、ディガーラ(兵器)の腹の中にいた虫の事等きれいさっぱり忘れていた。
「そうだぜ。でもたぶん、今頃は終わってんだろ」
『ええなぁ、儂も一緒に暴れたかったわ』
思わず本音が漏れたタツに、デュオは真剣な顔で言った。
「タツ、悪い事は言わねぇ。あいつとは関わるな。あいつは……生粋のトラブルメーカーだぜ」
『でもデュオはんの御主人さんなんでしょ?』
「ああ、悲しい事にな。……俺がこんな感じなのも……まぁこれはこれで気に入ってるんだが、全部あいつの所為なんだぜ」
デュオが言っているこんな感じとは、たまにギターという奴で爆音を響かせる性癖の事だろう。
あれも好きな人はめっぽう好きだが、受け付けない者には苦痛しか与えないモノだった。
ディガーラ達は総じて耳が良いので、あの音量は少々堪えるのだ。
街の横に予定された新たな街の建設予定地の一画にデュオが作り出した鉄骨を置いていたタツは、上空から聞こえる音に顔を上げた。
『なんや?』
周辺で作業していたディガーラ(魔獣)達も同様に空を見上げている。
「どうした?」
『空からなんや変な音が聞こえるんです』
「音?」
時刻はそろそろ夕刻、日が傾き今日の仕事は終わろうかという頃だった。
その夕陽に染まる空を覆う様な、巨大な物が降下してくる。
『なんやあれは……?』
見た事も無い巨大な構造物にタツはあんぐりと口を開けた。
その耳にハシェの声が響く。
「バリアを張って中に住民を避難させろ!!我々は戦闘準備だ!!」
『タツ!!儂らも喧嘩に出張るぞ!!』
『はっ、はい!!』
慌ただしく動き始めた人々を見て、デュオは既視感を覚えた。
あの巨大な物は、恐らくグード人の旗艦という奴だろう。
大きさに圧倒されそうになるが、モーリアンがたった一隻に負ける筈が無い。
恐らく乗っているのはトールとリームの筈だ。
「あの馬鹿コンビは……なんで事前に連絡してこねぇんだよ」
デュオはコンソールを操作し、トールに通信を入れた。
“なんだ?今掃除で忙しんだけど?”
「なんだじゃねぇよ!!船降ろすんなら連絡して来いよ!!下じゃ住民がパニックになってんぞ!!」
“わりぃ、忘れてた。いやドーガンの奴がさぁ……”
「言い訳は後だ!とにかくその船は掌握してんだな!?」
“うん、してるよ”
それだけ聞くとデュオは設置した粒子砲の横で空を見上げていたハシェのもとに飛んだ。
いつかと同じように、非常に言い辛そうにハシェに話しを切り出す。
「ハシェ、あのよぉ……」
「デュオ殿、後にしてもらって良いか。今はあの巨大な物に集中したい」
ハシェは空を睨んだまま、デュオに答える。
その顔にはディガーラ達と対応した時にも見せなかった、不安の様な物が浮かんでいる。
「その巨大な物なんだがなぁ……乗ってるのはトールと姉貴だ」
「……何だと?」
「すまねぇ、さっき確認が取れた。あいつ等、また連絡を忘れていたみたいでよぉ……」
「……」
「姫様!!エネルギー充填完了しました!!」
荷電粒子砲を操作していた兵士がハシェに真剣な顔で告げる。
「……撃て」
「了解です!!」
粒子砲を皮切りに、高射砲、ミサイルが次々に旗艦に撃ち込まれた。
それらは旗艦のバリアに阻まれ、船の周囲に球形の膜の様な光を発生させる。
一通りの攻撃が終わると、旗艦が空中にスクリーンを投影した。
黒髪の男の顔が大きく空に映し出される。
『攻撃すんな!!俺たちゃ味方だぞ!!デュオ!!何やってんだ!?旗艦ちゃんがびっくりして泣いちゃっただろ!!』
ハシェはトールの顔を冷たく見つめ、同じく空を見上げていたデュオに声を掛けた。
「デュオ殿、トール殿と話は出来るか?」
「あっ、ああ」
「では頼む」
デュオはハシェの要請を受けて、胸から光を放ち空中にモニターを表示させた。
コンソールを操作しトールを呼び出す。
“デュオか!?お前ちゃんと伝えろよ!!”
「トール殿、貴公は何故、前もって予定を伝えるという事をしないのだ?」
“ハシェ……いやぁメンゴメンゴ。ちょっと掃除が忙しくてさぁ、連絡するの忘れちゃった。てへっ”
モニターの中のトールはそう言うと舌を出して頭を掻いた。
「そうか……」
“……ねぇ、怒ってる?”
「怒ってはいない……ただ、貴公とリーム殿には長い長い話をしなければならんな……」
“ハシェさん!?待って下さい!!これは全部ドーガンというグード人がですね……”
リームが何か言い募っていたが、ハシェはデュオに目配せして通信を切らせた。
ホログラムにはうろたえた様子のトールとリームが映し出されている。
『どうするんですか!?ハシェさんメチャメチャ怒ってますよ!?』
『……諦めて嵐が過ぎ去るのを待つしかないだろう』
『カッコ良く言っても駄目です!!それってまた何時間もお説教されろって事でしょう!?』
『なんだよ!?俺だけの所為じゃねぇだろ!!お前だって変な棒で隙間の埃を取るのに夢中になってたじゃねぇか!!』
『トールは旗艦の疑似人格が予想以上に可愛くて、ずっとお喋りしてましよね?』
『しょうがねぇだろ!!ああいうタイプは庇護欲を刺激されるんだよ!!』
二人の掛け合いは空に浮いた巨大な物体が、少なくとも脅威では無いと人々に知らせるには十分だった。
『この声……あの虫がトールやったんか……』
『なんやタツ、あの人間知ってんのか?』
『はぁ、知り合いちゅう程やないですけど……』
『そうか、そら良かった。老婆心から忠告しとくで、あれは関わったらあかん奴や』
『はぁ、そうですか……』
二人の掛け合いには、やがて旗艦の疑似人格も参戦しコントに似た様相を呈して来た。
『二人ともケンカしないでよう……』
『ややこしくなるんでアナタは黙っててもらっていいですか!?』
『ひぐっ……リームちゃん、怖いよぉ』
『リーム、てめぇ、旗艦ちゃんを泣かすんじゃねぇよ!!』
『ハッ、お優しい事で。そういえばトールはノナにも妙に甘かったですもんね』
『うるせぇ!!人の好みをとやかく言うな!!』
『お前ら、さっさと掃除しろよ……』
『ドーガンは黙ってろ!!』
『ドーガンは黙っていて下さい!!』
その後二人は取っ組み合いを始め、その様子はスクリーンを通し映し出された。
ドタバタとしたその姿は、家と家族を失い暗く沈んでいた人々にほんの僅かではあるが笑みを浮かべさせた。




