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科学と魔法  作者: 田中
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罪と罰

長かったハシェのお説教も終わり、トールとリームがホッと一息吐いているとデュオが話しかけてきた。


「トール、姉貴、お疲れさん」

「おう、デュオ、お前こそ留守番ご苦労だったな。……お前さぁ助け舟ぐらい出してくれてもいいだろ……」

「何でわざわざ、説教に巻き込まれる様な事しねぇといけねぇんだよ。それよりコックピットで寝てる男は誰だ?」


「えっ?コックピット……?」

「トール、ミハルさんですよ」

「そういえばいたな、操縦してる間、一言も喋らねぇから忘れてたぜ」

「喋らなかったんじゃなくて、気絶して喋れなかったんですよ……」


リームは少し呆れて言った。

操縦に夢中になっていたトールは、後ろの補助座席でミハルが気絶していた事に気付いていなかったようだ。


ミハルの事を思い出したトールはディガーラに駆け寄り、スルスルと体を登って行った。


『あっ、ちょっとトール!?くすぐったいんですけど!?あお!そこに手を掛けないで下さい!!』


ディガーラは体をくねらせ、妙に艶っぽい声を上げた。

機体のダメージを知る為、触覚センサーを導入したのだが敏感にしすぎたようだ。

調整が必要ですねとリームが考えていると、コックピットからトールが気持ちよさそうに寝ているミハルを引き出していた。


トールはそのままミハルを抱え、地面に飛び降りる。

着地の衝撃でトールの腕の中で目を覚ましたミハルは、彼を見て口を開く。


「トール、僕がいくら魅力的だからって、これは禁断の恋。茨の道だよ」


背後にバラの花を散らしたミハルをトールは投げ捨てた。


「酷いじゃないか!?……そうか、これは照れ隠しだね?フフッ……」

「違ぇよ!!俺は女の子が好きなの!!」

「……そうか、良かった。僕も女の子が好きなんだ。でも君がどうしてもというなら……。美しいって罪だね……」


ミハルが蠱惑的な笑みを浮かべると、再度、背後に花が浮かんだ。

トールがたじろいでいると、ハシェがミハルに声を掛ける。


「もしかして、そちらの御仁はグラバニアのミハル殿か?」

「おお、これはプリンセスハシェ、久しぶりだね。……すっかり綺麗になって…見違えたよ」


ミハルは立ち上がって埃を払うと、ハシェの前で跪き、右手を取ると口付けをした。


「わっ!?初めて見ましたよ!手にキスする人!」

「へぇ、この星にもそういうのあるんだな」

「気障な男だぜ」


ハシェは顔を赤らめ、驚いた様に手を引っ込めた。


「……貴公は相変わらずだな、ミハル殿。……しかし何故ミハル殿がトール殿達と一緒にいるのだ?」

「……色々あってね。彼には助けて貰った恩返しをする為に同行したんだ」

「……そうか、大変だったな」


ハシェにはローガの記憶の事は詳しく説明していない。

トールは美人局の事をぶちまけたかったが、それを必死でこらえた。

言えばきっとすごく面倒な事になる筈だ。


「さて、トール殿、何がどうなっているのか説明してもらおうか?」


そう言うとハシェは周囲を見回した。

お説教が長すぎて随分前に皆、持ち場に戻っている。

周囲には殆ど人は残っていない。


「ガリュウとライザはどこだ?」

「ハッ、お話が長くなりそうだったので、ガリュウは牢に、ライザさんは彼に付き添って見張りと一緒に牢にいると思われます!」

「そうか。済まんが二人を私の部屋に連れて来るよう言ってくれ」

「了解です!」


ハシェは近くの兵に命じると、トール達に向き直った。


「では、三人ともついて来てくれ。……ディガーラだったか、貴公はここで休んでいてもらおうと思うが……」

『分かりました』

「……トール殿、彼は何を食べるのだ?」


「ディガーラは別に食い物はいらねぇよ。水をやっときゃいい」

『そうですね。アクロバットと回避行動で結構エネルギーを使いましたから、お水を頂けるとありがたいです』

「水か……砦にも井戸はあるがどれ程必要なのだ?」


ディガーラは顎に手を当て考えると、手を使い胸の前で大体の量を示した。

人のサイズに直すと大体、エクササイズに使うバランスボールぐらいだろうか。


「多いよ!この近くに川があったろ?そこで好きなだけ飲んで来い」

『了解です』

「ついでになんか食い物取って来てくれ」


『特別な依頼は高くつきますよ。よろしいですか?』

「……仕方ねぇ。後で特別カッコいい武器をやるからそれでどうだ?」

『えっ武器ですか?……トールはお金を持っていないですし、特別にそれで手を打ちましょう。武器……換金出来ますかねぇ……』


なんでこんなに守銭奴になってしまったのか……。

そんな事を考えていると、リームがジトっとした目でトールを見ていた。


全部、自分の所為かとトールは少し悔やんだ。


最初に無償で働く正義の味方と思わせておけば……。

いや、やはり労働に対価は必要だ。

無償で働く事はやがて労働意欲の低下を招き、仕事の質を劇的に悪化させる。


低層の工場で働いていた頃を思い出し、トールはそう思った。

あの頃は給料が安くて、ギリギリ手は抜いてはいなかったが、やる気はほぼゼロだった。


「んじゃ、よろしく」

『はい。では行ってきます』

「行ってらっしゃーい!」


飛び去るディガーラに兵士たちが手を振っている。

彼らはトール達が説教されている間に、ディガーラに話しかけられ打ち解けたようだ。


「あいつ、やり手の営業マンみてぇだな……」

「さて、では行こうか?」


ようやくハシェの部屋に辿り着くと、部屋の前には兵に連れられたガリュウと、不安げなライザが待っていた。


「ご苦労。あとはこちらでやっておく、仕事に戻ってくれ」

「ハッ!」


兵は拘束されたガリュウを残し、部屋の前から去った。


「ガリュウ、ライザ、中に入ってくれ」

「……分かったよ」

「はい、姫様」


ハシェは二人を促し、彼女の執務室を兼ねた私室にトール達を招き入れた。

部屋は質実剛健といった感じで、石造りの武骨な作りだった。

部屋に設置された棚には羊皮紙が並んでいる。


ハシェはデスクに腰を下ろすと、トール達には長椅子に座るよう勧めた。

長椅子は木で出来たベンチに近い物だった。


「では、トール殿。どういう事か説明を」


トールはハーグで起きた事を、かいつまんでハシェ達に説明した。

ハシェは目を丸くし、ガリュウは乾いた笑いを上げていた。

ライザは話について行けていないようだ。

ミハルは口を挟もうとして、デュオに重力制御でお口チャックされていた。


彼女にトールが親指を立てると、デュオは人差し指と中指を揃えてサインを返し、ウインクをした。

……なんか男前だ。


「では、ハーグの魔物は敵では無くなったのか?」

「まあな。それでだ、ガリュウ。ここに戻ったのはハシェへの報告もあったが、お前の事がメインだ」

「僕の?……ディガーラで僕とローガの体を持って来たんだろ?……好きにすればいいさ。処刑でもなんでも」

「ガリュウ……」


ライザが縛られていた彼の手に自分の手を重ねる。


「ホントにそれでいいのか?」

「なんだよ……。助けてくれるっていうのかい?」

「だって……なぁ……」


トールは視線をリームやハシェに走らせた。

リームは首を振って彼を見つめ返し、ハシェは思案するように目を閉じた。

やがて目を開けるとガリュウを見た。


「……ふむ、ガリュウ、トール殿の話ではグード人というのは不老不死らしいな?」

「まあ、不死って言っても怪我をすれば普通に死ぬけどね」

「老いで死ぬ事は無いのだな?」

「そうだよ。……僕の体で不老不死でも研究するのかい?」


ハシェはガリュウの言葉に首を振った。


「ガリュウ、貴様は我が国の国民を何万人も殺害した。それは認めるな?」

「ああ、直接手を下した訳じゃないけど、企画を練ったのは僕だ」

「では、お前はその数と同じ数の民がこの国に誕生するまで、この国に奉仕せよ」


「……僕を許すのか?」

「間違えるな。決して許したりはしない。この国で働き続け、お前が奪った命がどのように生まれ育ち、そして生きていたのか考え続けろ。ライザ、お前はこの者がしっかり働く様に見張れ」

「姫様……」


ライザは涙ぐんでハシェを見つめた。


「……いいか、お前は許された訳では無い。死んだ方がましだと思える目にも恐らく合う筈だ。それでも死ぬ事は許さない。分かったな」

「……ああ。分かってるよ」

「ふむ、トール殿、この者の本体とやらに意識は戻せるのか?」


ハシェの言葉にトールは頷きを返した。


「ああ。……実はよハシェ、あの処刑した女も意識だけは残してあるんだ」

「意識だけ?……記憶の外部化……なるほど処刑した女は抜け殻の様な物だったのだな?」

「そうだ。……騙して済まなかった」


ハシェはリームに植え付けられた知識で、正しい答えを導きだした。

謝るトールにハシェは首を振った。


「砦の者の気は晴れたし、そもそもトール殿が捕えてきたのだ。気にしなくていい。……そうだな…ではあの女も同様に働いて貰おうか」

「大丈夫ですかハシェさん、記憶を見ましたが、あの娘、大分ひねくれてますよ?」

「それなら問題ねぇよ姉貴。あいつ多分、自分から働きたいって言う筈だぜ」


デュオはやけに自信ありげに話した。


「何かしたんですか?」

「日替わりで趣味に付き合ってもらっただけさ」

「あなた達の趣味にですか?……少しだけ同情してしまいますね、それは……」


リームとトールはデュオたちがローガに何をしたのか想像し、敵ながら彼女を不憫に思った。

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