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科学と魔法  作者: 田中
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Mk-IIの方が弱い

ディガーラがトールの試し打ちで爆散する五時間程前、ガリュウはドーガンに完成した物のデータを送信していた。


ドーガンはプレーヤーとしての経験が長く、会社に入ったのもその経験が大きく影響している。

コンテンツの設計については、それに従事している者だけの意見では独りよがりになってしまいがちだ。

ユーザー、プレーヤーの意見を幅広く受け入れる事が、コンテンツの息を長くする秘訣だった。


なので会社が集めた提供者にはガリュウの様な統計重視型から、ドーガンの様な直感型まで様々なタイプが混在していた。

ガリュウはデータを重視していたが、ドーガンのセンスも認めてはいた。


人は感情の生き物で、スペックだけでは無くカッコ良さや熱さにも大きく心を揺らす事は分かっていた。

効率重視のガリュウにはその感覚は理解しがたいが、自分になければ人に頼ればいいとも思っていた。


データを送るとすぐにコールが鳴った。


「見てくれた?」

「ああ」

「感想は?」

「正直言っていいか?」


モニター越しに頷きを返す。


「カッコ悪い。CMで見た奴はもっと良かったじゃないか?あれに近づけろよ」

「あのねぇドーガン。あれはあくまでイメージだよ。CMにも注釈がはいってただろ?あんなに首を長くする意味は無いし翼だって大きすぎる」

「だったらCMでそうしとけよ」

「でもそうするとインパクトに欠けるし……」


ドーガンはため息をついて首を振った。


「いいかガリュウ。それじゃ詐欺だ。クレームで会社のサーバーがパンクするぞ」

「……でも首も翼も機動性を損ねるよ?」

「良いんだよ、多少弱くなってもデータ通りなら装甲が防いでくれる。なんなら被弾しながら攻撃した方が燃えるぐらいだ」

「……確かに装甲は航宙艦の物を使ってるから、現地人の攻撃の大半は防げるとは思うけど、それも絶対じゃない」


モニター越しの顔は呆れていた。


「お前さぁ……。いいか、プレイヤーは無敵の魔獣を操りたい訳じゃない。やられるかもってぐらいの難易度に燃えるんだ。お前、頭は良いけど時々これがエンターテインメントだって事を忘れるよな」


ドーガンの言葉にガリュウはハッとしていた。

自分でも虐殺は駄目だと言っていたでは無いか。

設計する内についつい効率を求めてしまっていた。


「そうだね。エンターテインメントだって事を忘れていたよ。ありがとうドーガン」

「良いって事よ。それよりデザインだが頭に角をつけようぜ」

「えッ?角なんて付けたら頭が重くなるよ。遠距離武器は頭に集中してるんだよ?」


「また効率厨になってるぜ。いいか、カッコいいは正義だ!」

「はぁ、分かった。それで設計しなおすよ……」

「期待してるぜ!!」


ニカッと笑ってドーガンは通信を切った。


「カッコいいは正義か……」


微調整で済むかと思っていたが、これは新しく製造した方が早いだろう。


ガリュウはドーガンの言を入れ再度設計を練り直した。

CMに使用した3Dモデル通り、首を長くし翼も大きく変更する。

どちらも機動性を損なうし、重量も無駄に増える、いわばデチューンだが、確かに恰好は良くなった。


最後に角をつける。一角獣の様な長い角を額のあたりから伸ばす。


「……機能美……いや、駄目だ。今は恰好良さだけを求めるんだ」


角を出来るだけ短くしようかと考えた自分を戒め、長く鋭利に伸ばしていく。


一時間後、設計を終えたディガーラMk-IIは、スマートだった無印と比べ随分とごつくなっていた。


「普通、Mk-IIだと強くなる筈なんだけどねぇ……」


ドーガンにデータを送る。

送るとすぐにコールが鳴った。


「これだよ!!これ!!やれば出来るじゃないか!!」

「顔が近いよ。……どうやら気にいって貰えたみたいだね」

「ああ、ダイブするのが楽しみだ!きっと客受けもいいと思うぜ!それじゃあ出来たら連絡してくれ!!」


それから三時間後、出来上がったMk-IIでドーガンは母船から飛び立った。


「ふう、今この星で空を飛んでる人間は俺一人か……。うおおお!!これは燃えるぜ!!」

“燃えるのはいいけどやり過ぎないでよ”


「分かってるって、それよりお前が言ってたみたいに確かに重いな。動かすと慣性で少し流される」

“元々宇宙戦争の機動兵器に重しをつけてる状態だからね”


「まぁこれはこれでいいと思う。重量感が自分が巨大な怪物になっているって実感させてくれる」

“皆が君みたいに思ってくれるといいんだけど”


「大丈夫だって。それじゃあ最高速度を試すとするか」

“テストに付き合いたいけど、他にも仕事が山積みなんだ。悪いけど後でレポートを送ってよ”

「了解だ」


ドーガンは通信を切り、羽根の羽ばたきをイメージした。

処理されたイメージは反重力装置の出力を上げ、Mk-IIは最高速度まで加速した。




その一時間後、母船で作業していたガリュウにドーガンから連絡が入った。

Mk-IIはまだ帰還していない。不具合でも起きたのだろうか。


「なに?」

「……突然機体が爆発した」

「爆発!?何で!?現地人に攻撃されたの!?」


「分からん。だが爆発したのは問題の第三王女のいる砦近くだ。ただ近いと言っても十キロは離れていた筈なんだが……」


「砦……」


ドーガンは珍しく真剣な顔でガリュウに言う。


「なぁ、あの砦ていうかあの国、何かヤバい事が起きてるんじゃないか?」

「ヤバい事ってなにさ?」

「天才的な発明家が生まれたとか……」


「三十年近く戦っているけど、連中は銃も発明してないんだよ?ずっと個人の武勇で戦ってきたんだ。それが急に科学技術に目覚めるかな?」


「とにかく気を付けた方がいい。もし現地人の目が科学に向いたら、コンテンツの魅力が無くなっちまう」

「……そうだね。どっちにしても砦には密偵を送るつもりだったんだ。何か分かったら君にも報告するよ」

「ああ、頼む。……すまんな、せっかく作り直してもらったのに、テストでこんな事になっちまって……」


彼は珍しくへこんでいる様だ。


「気にしないでよ。本格運用の前だし……素材を見直してもう少し動ける様に改良するさ」

「そう言ってもらえると助かる」

「改良したらデータを送るから、また意見を頂戴」

「分かった。それじゃあまたな」


映像が途切れ、ウインドウが閉じたモニターを眺めながらガリュウは考える。


やっぱりあの砦では何か起きている。

ローガを捕えただろう黒い鎧の男。

ラルド人に似た羽根の生えた小人。

金属の巨人。

突然、超能力者になった砦の兵士達。


ドーガンが言うような天才よりも厄介な何か。


「監視衛星やスパイビートルが使えれば簡単なのに、会社が律儀に協定なんて守るから……」


いっその事、こっそり使ってやろうかという考えをガリュウは振り払う。

使用がバレれば一発で首だ。

それだけならいいが、協定を破った人間は他の提供会社も雇いはしないだろう。


地道に生体兵器を使って探るしかない。

ため息を一つ吐き、現地人に似せたアバターの制作にガリュウは戻った。




その問題の砦だが、トールの指導で兵士達の訓練が始まっていた。

砦の前に集まった兵士の前で、壇上に上がったトールが黒い棒状の物を掲げていた。


「いいか。こいつは銃っていう遠くの敵を倒せる武器だ」


兵士の一人が手を上げる。


「はい、君、何か質問かな?」

「遠くの敵を倒すのなら我々も弓は持ってますし、術を使えばいいのでは?」


「術は遠距離攻撃じゃねぇ奴もいるだろ。これは弓より連射出来るし射程も長い、あとスコープに敵味方の判別機能もついてる。青が味方、赤が敵だ。分かりやすいだろう?」


ドヤ顔で解説するトールにリームが突っ込む。


「提案したのは私ですけどね」

「速攻でバラすなよ!……俺の手柄にしたかったのに……。とにかく、使い方を説明する」


トールは兵の能力にバラつきがあるのが気になっていた。

そこでモーリアンの生産能力を使い、ボディーアーマーや武器を作り兵達に配る事をハシェに提案した。

あまり派手にやるとグード人のリミッターが外れるかもと思っていたが、ローガの記憶を調べる限り彼らは武器の制限については慎重なようだ。


余談だが、ローガは日替わりで、リームの妹たちの趣味に付き合わされていた。

眠る事が好きなゼクスの番になった時、最初は警戒し、やがて何も無いのだと分かったローガは泣き崩れたらしい。


話を戻そう。


相手がマゴマゴしている間に、一番近い敵の拠点、ハーグに向い母船を沈めモーリアンで飲み込む。

トールが留守の間の防御を固める為、バリアや設置武器、銃等で砦を守ってもらおうと彼は考えていた。


「うぉ、トールさん!!当たりましたよ!!」

「おう、どうだ簡単だろ?ただし弾切れには注意しな」

「はい!」


兵士に指導しているトールにリームが尋ねる。


「訓練が終わったら、行動開始ですか?」

「ああ、姉ちゃんの記憶じゃ、星には十隻以上グード人の船があるんだろ?一か所に時間は掛けられねぇ」

「母船を飲み込めば我々の船も大分修繕が進む筈です。……あんまり壊さず無力化してくださいね」

「難しい事言うなよ。俺、どてっぱらに風穴開けようと思ってたのに……」


「……トール、船の下には街があるんですよ。そんな事したら住民が死んじゃうでしょ」

「やっぱ乗り込んで移動させないと駄目か……」

「頑張りましょう!!」


そう言うと、リームは両の拳を握って笑みを浮かべた。

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