二階層進出
昨夜、結斗は寝る前にステータスを《鑑定》で確認した。
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【新村 結斗】
【魔力】:5/19
【スキル】:《鑑定》《隠蔽》
【装備スキル】:《転移》《異空間倉庫》
【装備】:《精霊のペンダント》
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前回のステータスと比べると、魔力が6増えていた。
このステータスなら二階層の魔物と戦闘を行ってもいいだろう、と結斗は判断した。
危険を感じた瞬間に《転移》すれば、負傷する前にダンジョンを出ることができる。
そのためにも、不意打ちには気をつけなければならない。
そう考えながら、結斗はスライムを倒している最中に見つけた二階層への階段を下りていった。
二階層は、一階層と変わらない洞窟型の階層だ。
仄かに光る植物が唯一の光源であり、一階層と同じく薄暗い。
昨日、一階層で過ごしたことで、この視界の悪さにも慣れてきたが、嗅覚が優れている狼の魔物が有利な地形と思われるので、視覚だけでなく聴覚にも注意を払う必要があるかもしれない。
狼の体毛の色がこの暗闇に紛れるものだとしたら、目で狼を見つけることはさらに難しい。
静寂が続くダンジョン二階層で、結斗は長剣と盾を構え、慎重に歩を進めた。
左前方から微かな音が聞こえた。
結斗はその方向に盾を構え、足を止める。
――その瞬間、暗闇から現れた狼が結斗に飛びかかる。
結斗は冷静に盾でその狼を弾き飛ばす。
狼はダンジョンの壁に衝突して、地面に落ちた。
その衝撃で動けずにいる狼を結斗は長剣で切りつけた。
――初めて感じる……スライムとは違う肉を断つ剣の感触。
その感覚を無視して、狼を確実に仕留めるために何度も長剣を結斗は振るう。
狼が何らかのアイテムに変換されるまで、結斗は油断せずにいた。
そして、狼は液体の入った試験管に換わった。
結斗は周囲を確認して、その試験管を小さな鞄に入れた。
(やはり、暗闇では見にくい色をしていた……。警戒していなかったら危なかったな)
その後も、結斗は狼を倒したが、昨日とは違って大幅に短い時間でダンジョンを脱出した。
きっかけは狼の足音が複数聞こえたことだったが、スライムとは違って命の危険がある狼との戦闘は、疲労が大きかった。
だから、その日の結斗は短時間でダンジョン探索を止め、家でゆっくりと過ごした。
結斗が家でステータスを確認すると、スライムより狼の方が効率よく魔力を得られたことがわかった。
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【新村 結斗】
【魔力】:17/26
【スキル】:《鑑定》《隠蔽》
【装備スキル】:《転移》《異空間倉庫》
【装備】:《精霊のペンダント》
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魔力が余ったので、結斗は狼から得られたアイテムを《鑑定》した。
【下級回復薬】:傷、病、疲労など体の不調を小回復する。
【下級魔力回復薬】:魔力を小回復する。
【狼の毛皮】:肌触りが良く、丈夫な毛皮。
【狼の魔石】:魔力が蓄えられた石。
【水の大箱】:魔力を利用して、飲料可能な水を生み出す魔法具。
一番多く出たアイテムが【狼の魔石】で、次に【下級魔力回復薬】、そして【下級回復薬】、【狼の毛皮】、【水の大箱】の順だ。
説明文から、明らかに【水の大箱】はレアなアイテムだ。
この魔法具は、水道の代わりにするなどの用途があるだろう。
魔力を利用するようなので、結斗は試しに【水の大箱】に【狼の魔石】を入れた。
すると、【水の大箱】の中で、水が湧き出した。
しばらくすると、水の増加は止まったが、結構な量の水が溜まっている。
結斗は【水の大箱】に腕を入れ、底に沈んでいる【狼の魔石】を取り出して《鑑定》した。
【狼の魔石】:魔力が蓄えられていた石。魔力を込めることで再び使用可能。
魔法具は、魔石の魔力を使うようだ。
結斗は《スキル》で魔力を消費する感覚を参考にして、魔力がなくなった【狼の魔石】に魔力を込めた。
そして、これ以上【狼の魔石】に魔力を込められない状態になったら、手にしている【狼の魔石】を《鑑定》した。
【狼の魔石】:魔力が蓄えられた石。
確かに、魔石は再使用可能のようだ。
これを利用すれば、余った魔力を使い終えた魔石に込めておくことができる。
さらに、 魔石の魔力を吸収することで【下級魔力回復薬】の代わりにもなる。
だが、魔石の主な用途は魔法具の燃料だろう。
将来、魔法具の利用が広がれば、魔石の買い取りが始まるかもしれない。
魔石だけでなく、ダンジョンの様々なアイテムが売買されることがあり得る。
そのときまで、【狼の毛皮】などの素材は死蔵することになるだろう。
ダンジョンのアイテムを換金できるようになり、ダンジョン探索で多くの収入が得られるようになったなら、大学を辞めてダンジョン探索を本業にしよう、と結斗は考えた。
そして、結斗はダンジョンの二階層で複数の狼を同時に相手取る技量を身につけることを次の目的にした。