閑話、精霊ソフィアの一日
「魔物と戦うなんて、冗談じゃない! 早く家に帰してくれ!」
ダンジョンの一階層に、男の取り乱した声が響く。
「……わかりました。元の場所に送ります。しかし、忘れないでください。いずれ、世界に魔物が出てくるということを――」
そう言うと、涼しげな雰囲気を纏う精霊の少女――ソフィア――は、あまり話しを聞いていない男をダンジョンから日本へ《転移》させる。
男がいなくなったことで、ダンジョンは静けさを取り戻す。
(上手くいかないものですね……)
ソフィアは思い悩む。
精霊がダンジョンで現在の状況を説明した人の中で、ダンジョン探索を行っている人は半数にも満たない。
このままだと、ダンジョンの出現日から一週間ほどで二階層の魔物が世界に出てきてしまう。
低階層の魔物は《スキル》を持たないため、通常より身体能力が高くなった動物のような存在とはいえ、
銃は二階層の魔物までしか通用しない。
装備を身につけて身体能力を上げなければ、人間が魔物に対抗することは難しい。
そのため、多くの人にダンジョン探索を行ってもらい、装備や《スキル》を得て強くなって欲しいのだが――
「魔物って怖そう……私は無理! 他の人が魔物を倒してくれるよね……」
「何で俺がそんなことをやらなきゃいけないんだ!? 他のやつに頼め!」
――と、このような他人任せな人が多かった。
また、ダンジョン探索を行ってくれる人の中には、
「狼なんて、この装備があれば楽勝だって!」
そう言って、精霊が支給した狼の装備を過信して死んでしまった人。
「クソッ! 屑アイテムじゃないか! 次はレアアイテムをドロップしろよ!」
ゲーム気分が抜けないまま、魔物を倒した瞬間に油断し、死んでしまった人。
「こんな数の狼、相手にできるか!」
狼との戦闘中に新たな狼が加わり、そう思いながら死んでしまった人などがいた。
まだ、ダンジョンが出現して間もない。
ダンジョンの情報が広まれば、人はそれに適応することができるだろう。
ソフィアは、精霊がダンジョン探索の手助けしかできないことを心苦しく思いながらも、人間にダンジョンについて説明する作業を続けるのだった。