ダンジョン出現
不定期更新です。感想はあまり返せないかもしれません。
――世界が揺れる。
その揺れは、地震とは明らかに違うとわかるほど長時間続いた。
世界中の誰もがその揺れを感じ、空間が軋むような異様な音を聞いた。
しかし、その揺れの被害はないようだった。
恐怖を覚え、転倒して怪我を負った人などは居たが、家具は少しも位置を変えず、建物も倒壊せず、死傷者も出なかった。
これには人々も困惑したが、すぐに普段の生活に戻った。
学者などは揺れの原因を調べようとしたが、あまり一般の人は気にしなかった。
被害がなかったからか、深刻な問題だとは捉えずに、ただ特殊な地震なのだろうと思っただけだった。
だが、日常が確実に崩れ去っていたことを知るのは遠くはなかった。
揺れが起きたその日から、多くの行方不明者が世界中で同時に出ていたのだ。
暗闇の中で仄かに光る植物が生い茂る洞窟――。
そこで結斗は目を覚ます。
地震というには違和感があった。
そんな不思議な揺れを経験した。
その後のことは覚えていない……。
発光している植物のおかげで周囲は見えるが、視界が悪いことに変わりはない。
(俺はこの洞窟で寝ていたようだな)
結斗は見知らぬ洞窟を眺めていると、透き通るような声で話しかけられた。
「目覚めたのですか? 私は精霊の一人、この洞窟のようなダンジョンの説明を行う者です」
その声の主は、涼やかな雰囲気を纏った美しい少女。
少女は艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、冷たさを感じる黒の瞳で結斗を見つめる。
「俺は新村結斗だ。精霊に名前はあるのか?」
「精霊には名前がありません。先ほどダンジョンがこの世界に現れた際に、私たち精霊は生まれたばかりなのです」
「呼ぶときに名前がないと不便だ。何か良い名前はないのか?」
「そうですね……。すみません、生まれたばかりなので思いつきません。あなたが名前をつけてくれませんか?」
「そうか……ソフィアと呼んで良いか?」
「はい。私の名前はソフィアです」
結斗が名をつけると、少女は少し笑みを浮かべた。
「では、私の役目であるダンジョンについて説明を行いますね」
ソフィアの言葉に結斗は頷いて、続きを促す。
「先の揺れの原因は、ダンジョンが関係しています。世界中で起きたこの揺れは、異世界からの干渉によってこの世界にダンジョンが現れたことで起きたものです。異世界側は、生物を殺すことで得られる魔力という資源を目的として、この世界にダンジョンを出現させました。それによって、この世界にダンジョンから魔物が次々に出てきます。魔物はこの世界の全ての生物を抹殺しようとする存在です。このまま何もしなければ、この世界の生物は全滅することになります」
「それを防ぐためにソフィア達、精霊が行動しているのか?」
「はい。そして、ダンジョンからこの世界を守護するために私たち精霊は生まれました。しかし、精霊だけの力だけでは、ダンジョンの力を抑えることができません。なので、この世界に住む人間にも手伝って貰いたいのです」
「それで俺はここに来たのか?」
「申し訳ありませんが、その通りです。世界中の人々にダンジョンで私たち精霊が一人ずつ説明していく予定です。日本では1万の精霊が活動しています。とはいえ、全員に説明するわけではありません。魔物と戦う必要があるので、健康な15歳以上30歳未満の人に説明します」
「なぜ30歳未満なんだ? それ以上の年齢でも戦えそうだが?」
「精霊の数が足りないのです。精霊がダンジョンの力を抑えなければ、到底対応できないような強さの魔物がこの世界に出てきてしまいます。精霊の力によって、ダンジョンの入り口付近の魔物は弱く、ダンジョンの奥へと進むほど強い魔物になるように抑えています。しかし、ダンジョンは魔物を一定の間隔で生み出すので、対処しなければ魔物は増え続け、やがて精霊がダンジョンの力を抑え切れなくなるときが来ます。今、精霊が人間に協力を行う余裕があるのは、この世界にダンジョンが現れたばかりで魔物が少ないからです。精霊がダンジョンの力をできる限り長く抑えるために、30歳以上の方々への説明は省略することになっています。もっとも、その頃にはダンジョンの情報が広まって、あまり関係ないと思いますが……」
「それで、人間はどうすれば良い?」
「対処方法は、単純に魔物を倒し続けるしかありません。この世界に被害を及ぼさないためには、魔物がこの世界に出てくる前に、ダンジョン内で魔物を倒すことが必要となります。魔物を倒すと、周囲の生物は魔力を得ることができ、魔物の死体は武器や防具、道具、素材などに自動的に換わります。これは精霊が人間を支援するために行っていることですね。つまり、ダンジョンに行き、魔物を倒し、魔力と装備を得て強くなることで、より多くの魔物を倒せば良いのです」
「魔力を得ると、どうなるんだ?」
「生物が持つ魔力の量が増えます。魔力には様々な使い道があり、魔物を倒す際にも重要となります。生物が持つ魔力は、消費しても十分な睡眠を取ることで回復します。今までなかった魔力をすぐに理解するのは難しいと思います。なので、実際に魔力を使いましょう」
そう言うと、ソフィアは透明なカードを結斗に渡した。
「これは?」
結斗の疑問にソフィアは答える。
「そのカードは《スキル》を覚えることができる物です。《スキル》は魔力を消費して、特殊な効果を発揮します。カードを胸に当ててください。そのカードの《スキル》を使用することができるようになります」
ソフィアが言う通りに、結斗がカードを胸に当てると、自然と結斗の体の中へと入っていった。
「これで結斗は《スキル》を覚えました。では、自分の手を見ながら『鑑定』と言ってください。結斗のステータスを見ることができます」
結斗は左腕を上げて、左手を見ながら言う。
「『鑑定』」
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【新村 結斗】
【魔力】:9/10
【スキル】:《鑑定》
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結斗は自分のステータスを見て、簡素なものだと思った。
「これが俺のステータスか……」
「鑑定した結果を見ることができるのは、鑑定を行った者だけです。なので、他人から《鑑定》されない限り、結斗のステータスを見られることはありませんが、これからは《鑑定》を持つ人が増え、ステータスを他人に見られるかもしれません。それを防ぐためには、《隠蔽》のスキルが必要です。なので、この《隠蔽》のスキルも差し上げます」
結斗は《隠蔽》のスキルをソフィアから受け取り、修得した。
「もう一度自分のステータスを確認してみてください。《鑑定》は一回使えば、声に出さずに《鑑定》を意識するだけで使えますよ」
「わかった」
結斗はもう一度自分のステータスを確認した。
――――――――――――――――――――――
【新村 結斗】
【魔力】:7/9
【スキル】:《鑑定》《隠蔽》
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「《隠蔽》のスキルが増えたが、魔力の最大値が減っている」
「そういう仕様ですね。《スキル》には、アクティブ型とパッシブ型の2種類があります。アクティブ型は魔力を消費して、一時的に効果を発揮します。パッシブ型は魔力の最大値を使って、常に効果を発揮します。《隠蔽》はパッシブ型なので、魔力の最大値が減ります。今の結斗の魔力は、一回目の鑑定で9になり、《隠蔽》を修得したことで8になり、二回目の鑑定で7になったと思います」
「《スキル》を満足に使うために、魔力を増やす必要があるな」
「そうですね。他にも武器、防具を装備するとパッシブ型の《スキル》と同じように魔力の最大値が減ります。これは装備することで体全体の防御力や攻撃力を上げることができるためですね。装備によって身体能力を上げないと、身体能力が違いすぎて魔物と戦いにすらならない場合もあります。装備は魔力を消費することで修復できますが、ダンジョンで限りある魔力を消費するのは危険です。できる限り安全なダンジョン外で装備を修復しましょう。装備にも《スキル》がついていることがありますが、その《スキル》を使うためには、やはり魔力が必要です」
「自分の魔力を適切に管理しないと、足りなくなる可能性もあるのか」
「はい。魔力がなくなると《スキル》が使用できなくなるので、計画的にダンジョンの探索を行ってください。ある程度ダンジョンを探索する知識が身についたと思うので、このダンジョン一階層で魔物を倒しましょう」
「わかった」
結斗の返事を聞き、ソフィアは魔物の姿を探し始めた。
結斗はそのソフィアの後をついて行った。