魔石×自然=ダンジョン
「ふむっ……」
静かにぼんやりとした仄かな明かりが暗闇を照らしている。薄暗い洞穴の中に照らされている光は異様なほどに弱い筈なのに力強く、仄かな明かりの筈なのに闇に呑まれないまま周囲を照らしている。
明かりの中心には一つの影が腰を落ち着けながら細かな金属音を奏で、組み合わせる作業を行っている。同時に強い炎が金属を熱し、もう一つの金属と溶接して行く。そして溶接部が落ち着くのを見計らって研磨石と言われている石でその部分を入念に磨いて行く。それらを終えると満足そうにそれを袋の中に突っ込んで腹のそこから響くかのような声を上げる。
「ハハハッ……面白い、実に面白いじゃないか!!我々の世界基準の物よりも遥かに進んでいるじゃないか!!」
小さな笑いだったものは次第に大きくなっていき、数十秒後には豪快な物へと転じていた。洞穴中に響いている声は次第に形を持った光へと変じていく。洞穴中を明るく照らした声はそのまま洞穴の中に居着いたかのように、壁その物が光を点すかのように変化して行った。
「様々な分野を極めた?馬鹿馬鹿しい、私は何も極めていないじゃないか!!」
異世界からの来訪者の全てを吸収した魔族「ドレイク」の男はその日から異世界の知識や情報の研究に没頭した。幸い彼には今まで飽きるほどの時間があった、しかしその時間すら惜しいとすら思えるほどに異世界の知識と情報は凄まじいものだった。同時に魂が震えるほどに叫び歓喜した。
自分の世界とは比べ物にならないほどに発展した文明、空の果てから海の奥底まで……その力が及ぶ場所は計り知れない。もっと知りたい、もっと確かめたい……次第に強くなって行く欲求と無垢で純粋な欲望が時間が経つほどに強くなっていった。しかし、自分が吸収した人間の知識だけでは限界があった。出来る事ならば直接異世界から情報を得たい……。いや、自分ならば出来るっ……!!
無限に近い寿命を持ち世界を放浪した彼にはあらゆる分野の力が宿っている。その中には当然世界中で使われている魔法を極めていた。魔力を術式を構築する事で多種多様な物へと変質させて発動する物、学んだ中の一つには空間魔法と言われる物があった。魔力を通して空間に干渉し空間を歪め、瞬時に移動を行うなどの事柄を可能にするという魔法の一種だが……使用するのは莫大な魔力と研究時間が必要とされている為、人間には見向きもされないものだった。しかし、自分は必要な物を持っている。彼は長い年月を掛けてそれを極めた。
残念ながら異世界へと移動する為の術式は構築は可能だが、完全な一方通行他にその世界の物が必要となってしまうので過去に断念したが……今の自分には異世界人の血肉や記憶や感情まである。これならば……と術式を見直して組み直してみた所、異世界人が持っていた「スマートフォン」という情報端末を介して異世界の「ネットワーク」という情報サーキットにアクセス出来るようになったのだ。
「しかし面白い、面白いぞぉ……様々な面が面白い。これらを使って何かをしたいな……」
既に男は異世界からの知識を存分に蓄え、自らの物としている。最初こそ異世界の言葉に苦戦こそしていたが、異世界人の記憶から言語を読み取る事でそれを克服。あらゆる情報を読み漁ってい世界を楽しんでいた。だが……あくまで知識として知っているだけでそれを実践した場合にどうなるのかはまだ分からない。是非とも実践しどのような輝きを放つのかを是非とも見てみたい……感じてみたいっ……!!触れて、感じてみたいという欲求が高まっていた。
「……そういえばこの近くには大きな魔湖があったな。そこを利用するか」
魔力は種類が存在する。人間や魔力が生まれながら体内で生成するもの、自然に満ちている自然そのものが持つ力。魔力溜まりは後者の自然の魔力が蓄積され、巨大な湖のようになっている状態の事を指す。本来自然を循環する魔力が溜まるのは珍しい現象。魔湖は発見されると国が利用する物になるか、逸早く発見した魔導師が作る工房の魔力元にされる場合が多い。ならば、そこを自分の実験場とさせて貰おう……。
「……しかしただの実験場だとつまらんな。どうせなら…そうだ、ダンジョンにするか」
簡単に言い放ったがこの男のしようとしている事はとんでもない事なのである。ダンジョンを創造しようとしているのだから……。
ダンジョンとは自然が生み出した魔力に満ちた迷宮の事を指す。魔力に何らかの要因が加わると突然変異を起こして大自然の迷宮を構築する。その要因というのが自然災害だったり、人工的に要因を加えて人工ダンジョンを生み出す事もある。が、大自然の神秘とも言えるダンジョンは自然発生したダンジョンの方が規模も質も大きい。自然の力は人工的な物とは比較にならないほどに巨大な物だからである。
そうと決めると早速洞穴から出ると異世界からの知識を得て製作して「双眼鏡」で魔力溜まりを見てみる。魔法的な細工をしている為か、数千倍までの倍率まで拡大できる「双眼鏡」それによって拡大された魔力溜まりは酷く荒れている山だった。どうやら余りにも魔力が溜まりすぎて自然にも悪影響を与えてしまっているようだ。このままでは周辺の自然バランスまで崩しかねないと、男は「双眼鏡」をしまって石のような物を取り出した。
「こんなものだろうな、よしっ行ってこいっっ!!」
全力で投擲された魔力を帯びた石は凄まじい速度で魔力溜まりへと向かっていく。空気を引き裂いて目的の山へと激突した。すると……山は一気に発光していき魔力が開放されていく。投擲した石は自身の魔力を1000年間毎日込め続けてきた魔石で、激突した際に巻き起こる爆発の威力は天災にも匹敵する。が、その魔石の魔力は全て山へと吸い込まれて行き、新たな物を芽吹かせていく。
「見に行こう」
直ぐ傍でそれを見ようと空間転移魔法を発動して魔力溜まりへと足を踏み入れると、既に山は変質していた。魔石の魔力を受けて魔力溜まりの全ての魔力が変化してダンジョンを形成している。が、その中心核を成しているのは自らの魔石、これからその魔石を遠隔操作する事で自分が好きなようにダンジョンを構築しなおす事が出来る。
これで実験場が完成したと満足げに笑っていると、遠くから大勢の人間達が此方に向かって来ていた。その先頭に立っている若者が自分に向けて語り掛けてくる。
「お、おいアンタこれ一体何が起きてるんだ!?」
「ああ。此処の魔力溜まり使わせてもらったぞ、俺の実験場にな」
「つ、使わせてもらった!?何を言って……!?」
「此処をダンジョンにさせて貰った」
ニコヤかにそういう男に対して若者は驚きを隠せなかったが、同時に目の前の男から発せられている凄まじい魔力に驚愕して引っくり返った。
「あ、あんた魔族なのか!?」
「ああそうだけど……」
「た、頼みがある!!町興しにこのダンジョンを使わせてくれ!!」
「へっ?」