第二章 引き金の魔導書
昼下がりのアンディルの街。
宿屋と隣接している酒場は、飲食店としても成り立っている。寝ている老人、昼間から酒を飲んでいる女性、談話している夫婦、思い思いに寛いでいるようだった。
その場所で、レイナ達は昼食をとっている。レイナ達のテーブルには、初老の男性が座っている。
「王女様が家出ー?!」
レイナの声に、一瞬、周りの視線が集中したが、直ぐに散らばった。カリルはいつもの事だと食事の手を休めず、スーマはレイナに釣られて少し驚いていた。
「余り大声を出さないで下さい。実は一週間程前から、我が城の姫が家出をしたのです」
レイナは椅子を直し、落ち着こうと自分の飲み物に口をつける。
「しかも、若い使用人と一緒に城を出たみたいなんです…」
「へぇ…で、その使用人の名前や特徴は?」
スーマは初老の男性に問い掛けて、目の前に置いてある果実酒を飲む。
初老の男性は、スーマを見て答えた。
「はい…最近雇った少年で、名前は確か、ディリス…」
「ぶっっ!」
男性の言葉に反応して、果実酒を勢い良く吹き出し、スーマは咳込んだ。不運な事に、スーマの目の前に座っていたカリルは、果実酒のシャワーを浴びてしまった。それでも、慌てずテーブルの上にあった布巾で拭っている。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ああ…」
スーマは目を閉じて冷静を保とうとするが、眉間の皺は寄ったままだった。
「(なんで…あいつがそんな場所に居るんだ……?)」
食事を再開しながら黙り込んだ。そこに、レイナの声が入ってくる。
「スーマはどうする?」
「あ、ああ、ついていく」
レイナは初老の男性の方を向くと、笑って頷いた。
「有難うございます。それでは夕刻前に、城にいらして下さい。お待ちしております」
初老の男性も承知して、レイナ達に頭を下げた。男性が出ていくのを見て、食事を終えると会計を済まそうとする。
「城は、中央広場の方にありましたよね?少し時間がありますが、どうしますか?」
カリルは振り返ってレイナに話しかけたが、レイナは店を出て数歩先に歩いていた。
「広場に行こう!市が開催してるんだって!」
レイナは嬉しそうに笑った。
中央広場は、市や露店で。噴水のある広場よりも活気があった。
カリルは人込みを見ながらレイナに視線を下ろしたが、そこにはすでにレイナの姿は無かった。
「随分と混雑していますね、レイ…ナ…?」
「カリルー!スーマー!こっちこっちーっ」
目の前の人込みの中から、レイナが手を振っている。顔と右手しか見えていない。
「…あいつはいつもあんなんなのか?」
「まあ、ええ。頑張って人込みの中に入りましょう」
レイナの様子を見ながら、スーマは横にいるカリルに問い掛けた。カリルは曖昧に答えて苦笑すると、人込みの中に入っていく。
見た目とは違って人込みの中は動きやすく、ゆっくり露店を見る余裕はあった。レイナの正面から、生成のローブで全身を覆った人物が歩いてくる。性別は分からないが、頭部から茶色の髪が見える。下を向きながら歩いていて顔は見えない。
カリルとスーマはレイナに追いつこうと、人を避けながら距離を縮める。
四人がすれ違う。
すれ違った瞬間、スーマは何かに反応して後ろを振り返った。しかし、ローブを纏った人物はそのまま人込みの中に消えていった。
「…………」
スーマは、僅かにその場を見つめていた。
中央広場は、様々な人が行き交い、円形に組まれた煉瓦に座って休憩をとっている人も居た。
中心には一体の像が立っている。女性の様で髪は長く翼を生やした像だった。天に向かって祈りを捧げている姿だ。
「世界を救った女神…かぁ」
レイナは像を見上げると、下に記されている文字を見る。文字は錆びや傷ではっきりと見えなかった。
「レイナ、そろそろ日が傾いています。城に向かいましょう」
カーン、カーン、カーン、カーン、カーン。
城から時間を告げる鐘が鳴り響く。鐘を聞いた人々は、露店を畳み始めている。広場に集まっていた人はゆっくりと家路に向かう。
「そうだね、行こうか」
三人は城に向かって歩きだす。カリルは像を見ると複雑な顔をして歩きだし、その後、スーマも像を見つめる。その顔はとても辛そうだった。
像には、『世界を救った女神 ユルディス』と刻まれていた。
城に着いたレイナ達は、昼過ぎに会った初老の男性に迎えられ、城内に案内される。
城の一室に着くと、初老の男性は扉を開き、レイナ達は中に入る。部屋のには長細いテーブルに白い布が几帳面に掛けてある。テーブルには八つの椅子があった。
テーブルの上には、三人分の食事、それに対面してもう一人分の食事が揃い、湯気と香ばしい匂いが食欲をそそる。
テーブルを挟んで、年老いた男性が座って笑顔で迎えた。
小さな国ではあるがアンディルの国王だった。国王は食前酒を飲んでいが、三人に気づくとゆっくりを席を立つ。
「君達が、旅の魔法使いかい?さぁ、座ってくれ」
国王は、目の前に座るように両手を広げた。レイナ達は一礼すると空いている席に座る。奥の扉が開き、メイドが飲み物を運んで来る。メイドはレイナ達の前に飲み物を置くと、静かに退室した。
三人は食前酒を飲むと、国王も休めていた手を動かした。
「儂の名はリュスケル。まあ、肩肘を張らずに寛いで聞いてくれ。今回の事は聞いていると思うがどうかね?やってくれるかな?」
国王の質問に、レイナの手が止まる。
「あの…言いにくい事ですが…王女様とディリスという少年は、どういう関係なんでしょうか?」
「ん?その、なんだ…儂の娘シリアと使用人は…」
リュスケルも手を止めて、言葉を濁した。リュスケルが意を決して言葉にしようとした時、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。
部屋に入ってきたのは年は十五、六。レイナと同じ位の少女だった。白と思われるドレスは酷く汚れている。
「お父様ぁ!」
「シリア…シリアなのか?今まで…どこに居たんだ?」
リュスケルは少女の姿を見て驚いて立ち上がり、涙を流しながら、シリアと呼ばれた少女に近づいた。シリアは近づいてリュスケルの裾を掴んで離さない。
シリアは、酷く焦っている。
「お父様……実は、この……」
シリアの声に被せて、城内に悲鳴が上がった。悲鳴を聞いた三人は素早く立ち上がり、悲鳴の上がった方を振り返る。
「悲鳴?!」
「街の方からでしょうか?」
「申し訳ありません。失礼します!」
三人は部屋を飛び出し、街へと走っていく。
街では、幾つかの建物が崩れ、噴水や井戸からは水が溢れていた。
崩れかけている建物の屋根の上に、一人の少年が座っている。少年の両手には、魔法で作り出された水の渦を弄んでいる。
水の渦を投げつけて、建物や木々を壊していく。
「ディリス!!」
飛行呪文で宙を飛んでいたスーマは、息をつきながら少年の近くの屋根に着地する。少年の顔を見ると少なからず動揺していた。
少年はスーマの顔を見ると、驚いて何かを躊躇ったが、挑むような瞳で睨みつける。
「どういう事だ?!説明しろ!!」
「…あ、あまり話しかけないでくれないか…義兄さん…」
二人が対峙している間に、飛行呪文で追いついてきたレイナがスーマの横に着地する。
「スーマ!街の人はカリルが安全な場所に避難したよ。その人は…誰?」
レイナの言葉に重なるようにディリスが口を開く。
ディリスの表情が変わる。
「ふーん…こいつがあいつの言っていたレイナ?でも、俺…探し物があるんだ」
ディリスはレイナを見ると、またスーマに視線を移した。笑顔を見せるが瞳は笑っていない。
ゆっくり瞬きをするように瞳を閉じて開くと、ディリスの瞳の色が濃紺な青へと変わっていた。
ディリスの両手から、無数の氷が生み出される。氷の粒は刃の形になっていく。
「ダイアモンドブレーース!!」
氷の刃は引きつけられるようにスーマに向かい、不規則な動きでスーマに直撃した。
「ぐあぁぁぁぁっっっ!!!」
スーマは体中から血を流して落下していく。崩れた建物にぶつかったスーマの身体は動かなかった。
「スーマッ!!」
レイナは叫び、咄嗟に飛行呪文を唱えて下に降りていく。
突然、ディリスの後ろから光が空に向かって真っ直ぐ伸びると柱の様に立ち昇る。それに気づいたディリスは、驚き後ろを振り返る。
「見つけた!!」
ディリスは笑いながら、光がある方向に飛んでいく。
レイナはそれを追いかけようとするが、右足に鈍い感触が走り足元を見る。
瓦礫の中からスーマがレイナの右足を掴んでいた。
「待て……俺も、行く」
「…簡単な回復呪文しか使えないから」
レイナは何かを呟くと、両手から溢れるばかりの緑の光がスーマを包む。スーマの血の流れは止まり、完全とは言えないが傷口は塞がっていく。レイナはスーマの腕を持ち、自分の肩に掛ける。
二人はディリスの後を追いかける。二人が向かったのは大きな湖だった。
一方、湖では光の柱が消えかかっていた。湖に飛び込んだのかディリスの身体は濡れている。そして右手には少し厚い本を持っていた。
ディリスは呼吸を整えながら、恐る恐る本を開き、目を通す。目の動きは速い。ディリスの後ろから叫び声が聞こえる。
「ディリス!!」
「…早いな。でも、これは関係無いんじゃない?それに、その名前…俺はディリス=メアじゃない」
速く読んでいたのか、ディリスは本から目を離して二人を見る。二人に聞こえるように大きな溜息を吐く。
「俺は、水竜マーリ。こんなのに頼らなきゃいけないなんて…俺もまだまだだな」
「竜…!?」
スーマはマーリの言葉に動じる事は無かったが、レイナは状況を把握出来ずに驚いていた。
二人を睨みつけていたディリスは、何かを呟きながら片手で持っていた本を、湖に投げ捨ててしまう。
「水の王リヴァイアよ、静となり動となる力…静、慈悲なる力…動、混沌の刃…静寂の怒りをここに示せ…」
マーリは俯きながら呪文を唱えていた。マーリの後ろには、青い竜の姿が浮かび上がり、両手から渦が現れて次第に大きくなっていく。
呪文に気付いたスーマはレイナの前に出て、片手を前にかざす。
「タイダルウェイブ!!」
巨大な渦はマーリの手から離れ、勢いを増してレイナとスーマを襲う。滝の様に上から下に叩きつけられ二人を飲み込む。
『があぁぁぁぁーーっっっ!!』
レイナの前に立っていたスーマはレイナを庇い傷口が綻び、レイナも大きな傷を負っていた。
水の勢いは無くなり、水にで見えなくなっていた二人の姿が見えようとしている。
「……っ」
マーリは小さく舌打ちをした。
レイナとスーマが掠り傷しか負っていない事に気づく。二人の周りには深紅の結界が張られていた。
レイナの前に立っていたスーマの息が荒い。
「はぁ…ぁ…はぁぁ…」
「…スーマ!」
衣服は裂けて綻んだ傷口から血が溢れる。僅かによろめくスーマは身体を曲げた。
結界が張られている事にやっと気づいたレイナは、再び回復呪文を唱える。
「マーリ…自分の力を過信したか…」
スーマは狼狽する素振りも無く口元だけで笑っていた。瞳はマーリを威圧している。レイナの方を向かず、マーリに聞こえないように問い掛けた。
「レイナ、地属性の魔法は?」
「え…?使えるけど…」
「なら、クエイクハウトは分かるか?俺が呪文を唱えている間に禁呪を唱えろ…」
禁呪と耳にして、レイナは困惑した。
禁呪は、古くから伝わる魔法であり、使用する負担が大きく命を落とす危険性があると言われている魔法だった。
「俺を信用しろ!」
スーマの声に、レイナは思わず頷いてしまった。
スーマの気配を察したマーリは額から冷汗が滴り、戸惑っているようにも見えた。
「火の精霊サラマンドラよ…古より伝えられし禁呪、クエイクハウトとの交わり…発動する焔の魂……」
レイナの答えを待たずに、スーマは詠唱を始めていた。レイナも重なって呪文を詠唱する。
「地の精霊ノームよ、大地の力の源となり発動する混沌の心…今こそ滅びの道を歩め……クエイクハウト!」
レイナの両手に集まった光は、レイナの手より大きくなって輝くが一瞬にして消滅してしまう。発動しない状況に、レイナは驚愕した。
「…スーマ!」
スーマの思惑通り、魔法は発動されない。反対にスーマの両手には紅い光の球が生み出され、細い光が渦を巻いていた。
「我等の限り無い力、全てを妨げろ…ボムフレアッ!」
両手を前に突き出して、紅い光の球が放たれた。光の球はマーリに向かって弧を描くように襲い掛かる。
マーリは片手を前に出して、全身を守る結界を張ろうとするが、紅い光球に飲み込まれてしまう。
「ああぁぁぁーーっっ!!」
光に覆われマーリの姿は見えなくなり何か湖に落ちる音がした。
「マーリは…?」
「ここはもう大丈夫だ。それより先に街の人を避難してくれたカリルと合流しよう」
スーマは何故かそう言い、呪文を唱えて宙に浮かぶ。
レイナも呪文を唱え、街に戻っていく。
もうすぐ夜は明ける。
数日後、城内では、リュスケルとシリアがそれぞれ横並びに置かれた玉座に座っている。
半壊した街は迅速に修復され、再び活気を取り戻しつつあった。自分が治める街の復興を聞いて機嫌が良いのか国王は笑っていたが、王女はどこか悲しげな顔をしている。
二人の前でレイナ達は片足を曲げて跪いていた。
「城下街は思ったよりも早く回復に向かっている。それに…儂はシリアがここに居るだけで何より嬉しいぞ」
リュスケルが話している隣でシリアは席を立った。
「シリア、どうした?」
「レイナさん、前に湖に向かったと伺いましたが…この街は昔、城が二つあって、一つは時が経つにつれて海の底に沈んでしまったみたいなのです。彼…ディリスはよく湖を見ていました。それと…」
思いもよらない王女の発言に驚いたが、次の言葉に三人は言葉を探した。
「ディリスは…ディリスはどこに行ったのですか…?」
王女の声は少しだけ震えていた。
湖は暗くて分かり難かったが、回りには木々が生い茂り、思っていたよりも湖は大きかった。戦いのせいか、木々が倒れていたり焼け焦げていた。
カリルは湖を見つめ呪文を唱える。
「水の精霊ディーネよ、水の力を受け止め求める翼を我等に…アクアウイング」
三人の周りに淡く色づいた結界が作り出される。カリルが一歩一歩と進み、ゆっくりと湖の中に降りていく。
湖の底には、昔に使われたと思われる鎧や武器、盾が岩石と同化していた。それは深く潜る程、多くなっている。
「あ!あれ…」
レイナが指を指した先には、所々崩れている小さな城があった。
三人は城に近づいて、城を見上げる。近くで見ると泡のような結界が張られていて、中に入るとカリルの作った魔法は消えてしまった。
「魔法が消えた?」
「…結界の力で空気があるんだろうな」
スーマは驚きもせず、扉の無い城に入っていく。
長い廊下の壁にはつけたばかりの明かりが灯り、床に敷いてある青い絨毯は、劣化した外観とは異なり真新しく光沢があった。
まるで誰かが来るのが分かっているかのようだった。
明かりを辿りながら奥に進んでいくと、大きな扉が視界に入り、レイナが扉に手を触れる前に大きな音をたてて開いた。
『!!』
部屋には、小さな丸いテーブルが端に置かれ、左右には上に繋がる階段、中心には玉座があった。どれも劣化が目立っている。
玉座には、消えた筈のマーリが座っていた。
「気づくのが早かったな…王女様から聞いた?」
「水竜マーリ!?確かスーマの魔法を受けた筈…」
レイナは驚き、事前に話を聞いていたカリルも驚いていた。
マーリは傷一つ無く其処に居る。
「あれは、人間の姿として消滅したけど、本来の姿は残っている」
マーリは立ち上がり、青い霧に包まれると霧は大きく広がっていく。霧が消えると、レイナ達の前には青い竜が立っていた。
「本来の姿さえ失わなければ、俺は死なない」
竜は口を開く。その声はマーリだった。竜の姿になったマーリはスーマを見つめていた。
竜の姿を見たレイナとカリルは更に驚いている。
「水竜マーリ…何故、ここに居るのですか?」
カリルは驚きとうろたえた様子でマーリに問いかける。
「それは、この城の主が俺だから。湖に魔導書があったのも当たり前だったんだ。そうだ…ス、に…義兄さん」
言葉を濁したマーリは悲しそうな顔を見せたが、少し苦笑した。それに何か気づいたのかスーマは、レイナとカリルを見る。
「レイナ、カリル、お前ら先に地上に戻ってろ。俺はマーリと話がしたい」
「分かった…」
レイナとカリルは不安な表情でマーリを見たが、敵意が無い事に気づくと踵を返して部屋から出ていく。
二人の気配が無くなった事を確認すると、スーマは眉間に皺を寄せて、マーリを睨みつけた。
「城はどうなってる?」
「完全に変わってしまいました…スー……」
「敬語は止めろと言っている筈だ」
スーマは表情を緩めて苦笑する。
「はい。城はあの頃と変わらない。俺はあの人の命令で動いていた。でも、終わりにする…」
マーリの呟きにスーマは全身に悪寒が走る。
マーリは自分の前足を見た。右の足には黒い指輪のような物が嵌められている。
いつの間にか、マーリの前には透明な壁が創られていた。それは結界だった。
「我の名はマーリ、汝の名はスーマ。今、死の契約により我の力を汝に託す…我の名は水竜マーリ…」
「…それだけは止めろ!!」
「…全ての力を汝に託す…」
結界によって近づけないスーマを見ながら、マーリの形は崩れ水に変わっていく。
スーマは力の限り結界を叩いている。
「さようなら」
水は蒸気に変わり、スーマの上に降りかかる。水蒸気はスーマの体内に吸い込まれ、スーマの右手の中指には黒い指輪が嵌められていた。
「マーリ…」
一人残されたスーマは、魔法を使って浮上していた。
湖の中は静寂に包まれ、スーマの鳴咽が微かに聞こえる。
歯を食いしばり、両手で頭を抱えていた。
「俺だって前から本当の弟みたいだと思っていた…」
スーマの声は誰にも届く事は無かった。
湖の岸には、レイナとカリルが待っていた。
水面が揺れ、魔法によって浮かび上がったスーマは地面に降り立つ。
何が起こったか知らない二人は、スーマの曇った表情を見て何かを察した。
「…レイナと話していたのですが、もう一度街に戻りませんか?城には古い書物を扱う場所があるそうなんです」
「あ…ああ、分かった」
二人の気遣いに気づいたスーマは曖昧に頷いて苦笑した。
林を抜けて街に戻る二人と距離を置いて、スーマも歩き出した。
湖を背にして。