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プロローグ
その日は、ひどい雨で視界が悪かった。斜めに降りしきる水滴が、道路を激しく打ち付けていて、周りの音が聞こえにくく、私は品がないと思いつつも、舌打ちをしたことを覚えている。
嫌なことがある日は、いつも雨が降っている。
この雨が、つらい現実も流してくれればいいのにと願いながら、そんなことが叶うはずもないと、私は横断歩道を急ぎ足で駆け出したのだった。
雨粒の向こうに見える、トラックに向かって。
最後に覚えているのは、トラックの眩いライトと、世界で一番大嫌いな人が、私を呼ぶ声。
私、虹野薫は、この日、自殺した。