第八話《夢》
「はい朝ごはん」
テーブルの上には缶詰めに入っていた物を皿に丁寧に盛りつけられていた。
「なんのまねだ」
「ここにはキッチンがないから苦労したよ。しかも非常食用の缶詰めしかないんだもん。見た目だけでもと思って頑張りました」
明るく見せるその笑顔にダークは何も言えなくなる。
この建物には電気やガスは通ってはいない。
水は近くの井戸からくんで補給をし、電気はロウソクでまかなっている。
「朝食は自分で作るからお前は何もするな」
「……」
千夏はしょんぼりした顔をしてお皿に綺麗に盛ってあったご飯を食べ始める。
そして……
「ごめんなさい」
先程の笑顔はどこにもなくとても悲しい目をしていた。
ダークは無言で席に座り千夏に言う。
「お前はここにいてはだめだ。ちゃんと新しい生活を見つけて学校に行け」
「私の場所なんてもうないもん。学校はここから通うもん」
「通う?ここは山のど真ん中だぞ。どうやって通うつもりだ」
その言葉に千夏はダークの目をジーと見つめる。
その意味を理解したダークは手を横に振り拒否反応を示す。
「無理だ。何で俺が……」
「ありがとう!じゃあ明日からお願いします。転校生感覚で頑張るから」
「俺に拒否権はないのかよ。これだからガキは……二度寝をするから起こすなよ」
そう言いダークは部屋から出ていき寝室に向かった。顔の上に手をのせベットに横たわった。そしてゆっくりと瞼を閉じる。
「お兄ちゃん、ほら、いっぱいお花が咲いてる」
少女は男の手を取り山の中を走り回る。
男に最高の笑顔を振り撒いて。
少女は真夏の太陽の光に反射し天使のような存在にも見える。
「セミさんってかわいそう。この夏の季節のほんの一部しか生きられないなんて」
手を上にかざして悲しげに空を見上げる。
「私ね、ずっとお兄ちゃんと一緒だから」
その言葉を決して忘れはしない。
その温もりをいつまでも抱いていこう。
その笑顔が俺の生きがいだったから。
そしてお前の最後の言葉を俺は決して忘れはしないだろう。
「ありがとう、お兄ちゃん」
それが妹の最後の言葉だった。
ダークは夢から覚めベッドから起きあがる。
「また同じ夢か……」