第七話《瞳》
屋上には無惨にも両腕、両足、頭部、そして残りの胴体が横たわっていた。頭部の顔の表情からはいつ自分が殺されたかというのが理解出来てはいないようであった。
カラスが一羽、また一羽と群がり死体の肉をついばんでいった。
まるで悪魔の儀式をしてるかのように……
「任務は完了した」
「え?嘘だろ!だってさっき喫茶店で別れたばかりですよ」
「嘘だと思うなら〇〇ビルの屋上に行ってみろ。まぁ、行かないほうがいいと思うぞ」
その言葉を聞き男は遠慮をし、そしてやっと自分の身が自由になったと心底喜んだ。
「じゃあな」
ダークは電話をきり、目の前に見える大きな山を目指して歩いていく。
ここは?
「千夏」
目の前にいた人物が私を呼ぶ。
体全体がモザイクにかけられたかのように存在を否定していた。
「千夏」
また呼ばれる。
聞いた事がある声だった。
そう、時には優しく、時には厳しく、私の事をいつも《愛してる》……と囁いてくれた人物。
「お母さん…なの?」
顔は見えないが声がはっきりと自分にそう語りかけていた。
「え゛ぐ……お母さん……な゛の゛?」
涙が止まらない。
もう枯れたと思っていたのに。
もう泣く事はないと思っていたのに。
「おかあ……」
千夏が近づこうとした瞬間!
母はゆっくりと消えていく。
そう、霧が晴れていくかのように。
「待って!待ってお母さん!私を置いていかないで」
千夏は駆け出し母に抱きつこうとしたがその手に触れる事はなかった。
「お母さん!」
体中汗まみれで千夏はベッドに横たわっていた。
「夢か……」
額に滴っていた汗を拭いながらゆっくり起きあがる。
何か違和感を感じ自分が着ている服を見てみた。
どこか温もりのある黄色いパジャマに着替えられていた。
服の柄はシマシマ模様の中に小さい水玉が散りばめられている感じのやつであり……どこか悲しみが詰まっているようにも見えてしまった。
パジャマに目がいっている時、ドアがゆっくりと開いた。
「バカな奴だ。一人でこの暑さで建物全部を掃除しようとするからだ。脱水症状になったんだよお前は」
ダークは冷えたペットボトルを千夏に投げ入れる。それを見事にキャッチする千夏。
「まぁ、おかげで綺麗になった。一応礼は言っとく」
その言葉を聞き千夏はにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
その千夏の姿を見たダークの瞳にはどことなく悲しく切ない思い出が詰まってるかのようだった。
「今日はもう寝ろ」
「泊まっていいの?」
「明日は……出てけよ」
しかしその冷たい態度は変わらなかった。