第36話《最愛の少女と真実の手紙》
暗闇に吹く夏の風、ヒラリと舞う少女の影。
暗闇に染まる夏の空、クルリと踊る少女の影。
暗闇に溶け込む夏の島、ニコリと笑う少女の影。
まるでこの世界を楽しむかのように、とても無邪気に舞い踊る。少女がいる場所、そこは最強が消えた場所。最強の魂が逝った場所。少女はしゃがみこみ地に横になる。
「私はここで逝ったのね。とても悲しく、とても切ない私。悪に染まった私はきっと……素直になれなかっただけ。後悔せずに逝きなさい。あなたは私の半身のような存在なのだから」
少女は悲しげな表情を一瞬見せるが、すぐに笑った。
悲しみの果てに笑顔があるから。
哀しみの果てに未来があるから。
私はそう信じ、私を信じたい。最強を名乗り、最弱を名乗った私は……たった一人の女の子なのだから。
だから私は最強ではなく、最愛を名乗りましょう。奪う者ではなく、愛される者になりたいから。少女はフワリと立ち上がり後ろを振り返る。そこには一人の男の姿があった。
「あなたは私を救ってくれた。善の私を解放してくれた。私を封印ごと壊せたのに……。あなたの目的もやっぱり女々の涙なのかしら?」
月の光が少女を照らす。暗闇で隠れていた姿は普通の可愛いらしい少女の姿であった。黒いワンピースを揺らし、黒く長い髪を踊らせ、褐色の肌を照らしながら、少女はその者に笑顔を向けた。
「ふふふ、あなたはとても良い人。もし女々の涙を欲しているのだったら私はあなたにだったらそれを渡します」
男はその問いに少し沈黙するがやがて口を開いた。
「女々の涙は決して存在してはならない物。俺はそれを葬る為にお前を解放した」
「そう。やっぱりあなたは『あの人』とは違うのね。でも……それだったら私はまた……」
少女は少し寂しそうな表情をしながら男のもとへ歩み寄り、そして静かに抱きついた。
「あなたは……正しい。私を封印から解放したのは女々の涙を消し去る為。私を解放しないと女々の涙はその存在を見せてはくれないから……」
「………そうだな」
「最強の私が消えてしまって最愛の私だけ残った。だから不完全な女々の涙が生まれてくる。不完全だからこそ、この世から消すには今しかない」
抱きしめてる少女の両手は少し震えていた。何に震えているか?何が怖いのか?その理由は後で分かることになる。
「ふふ、あなたは温かいのね。人の温もりを感じたのはいつ以来だったかしら。もう覚えていないな」
「……………」
「ふふふ、可愛い少女が抱きしめてるんだからもう少し緊張してもいいのに」
最愛の少女。
あなたは私である一粒の欠片。
最強の少女。
あなたは私である一滴の心情。
二人の少女。
最愛は最強を、最強は最愛を、この心はひたすら永遠に。
(letter)
※廻るこの世界が雑念に片寄る時、その奇跡を傍観する。立ち塞がり、拒んだとしてもその奇跡を避ける事は出来ない。
※光の者は癒し、闇の者は穢れるだろう。見つめ、思想が交差するのならば形となりその世界に答えを与える。
※世界が否定するその存在、なんて憐れで哀しい存在。悲観と絶望を背負ってなお、なぜ道へ突き進む。
廻る廻るこの世界、そこは現実の幸福を知る者。
廻る廻るあの世界、そこは真実の慟哭を叫ぶ者。
世界はなぜ、こんなにも不公平なのだろう。
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ………世界はあれを生み出した。
あれは………きっと神様が与えた人類の選択なのだろうか?いや、罰を与えようとしているのか?少女達はきっと……そんな事は望んでいないのに。
この仕打ちはあまりにも酷で、この運命を承けた少女は何を知る。……苦悶、憂悶、煩悶、この3つの言葉が一番望ましいだろう。
この文は私の独り言、誰にも見られず、誰も気づかない。だが、語ろう。きっといつか幸せな刻が来るのだから。
私?……私はただの傍観者。この世界を見守り、見届ける者。一度世界に絶望し、堕ちた憐れな者。
名なぞ名乗る資格はないが……そうだな。
リリー・ブラッド……それが今の私の名だ。
私は悪だ。悪者でいることにより、見えてくることもあるのだ。
だからこそ、私は『真実の敵』を知ったのだ。
悲しい世界をより哀しく願う者よ。お前はなぜ、女々の涙を欲する。
なぜだ!?我が戦友よ。なぜ……私を裏切ったのだ。
お前は………………………………………あの時、何を見た………………………………………………。