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闇の暗殺者と幼き少女。  作者: 博多っ子
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第23話《新たな実力者、その裏の名は……》

「最強と最凶との闘いが始まったか……。ふふふ、私も加わりたいが、まず役目を終えたお前の処分を開始しようか」


 北の殺人凶は牢に入っている美沙の前に立ち笑顔を振り撒く。


「あんたなんかシンにギタンギタンにされちゃえ!」

「この状況で威勢が良い小娘だ。私の殺意に火をつけるだけだぞ」


 北の殺人凶は腕の皮膚を剥ぎ取り短剣を美沙に向かって突きつける。


「私ほどの実力になると、この牢ごと切り刻み貴様を肉片にする事くらい容易いぞ」

「私は暗殺者よ。死の覚悟くらいはできてるわ」

「それは良い心構えだ。それでは、死んでくれ。弱小な暗殺者よ」


 美沙は死を覚悟しゆっくりと目を閉じた。


 ……だがその時、北の殺人凶の手が止まった。その理由は美沙にも分かった。周りの気配がいきなり重くなったからだ。


 空間の重圧、圧迫が全然違っていた。


「なんだ……。この異様な空気は……」


 北の殺人凶の顔から汗が滲み出てくる。しかも汗だけではない。体が拒絶反応を示すかのように動かなくなってしまった。


 そして、その原因はすぐに分かった。


「ホホホ、間に合ってよかったわい。まさか死島にワシが来ることになるとはな」


 ボロボロの服装に白く長いヒゲ、白髪が目立つ長い髪。


「貴様は……ミル・サターナ!」

「ほぉー、顔合わせは初めてなんじゃがワシを知っているのか?」

「知らないほうがおかしいだろう!貴様は五人の最凶達の師であり、女々の涙の全てを知っている者なのだから」


 ミル・サターナ……。それはただの名にすぎない。


 全ての者を実力だけで発狂させるその姿を闇ではこう言われている。


「威圧感がすごいね。さすがは最狂(さいきょう)と言うべきか」

「その言葉は何度聞いても好きになれんのー」


 ミル・サターナは頭をポリポリと掻きながらゆっくりと近づいてくる。


「止まれ!ミル・サターナ!この小娘が死ぬぞ」


 北の殺人凶は腕の短剣を美沙にむける。


「おや、おやおやおや……ほー、それはワシを脅しているのか?ふふふ、脅しているんだな小僧!」


 歩きながら頭を掻いていたミル・サターナは突然止まり、さっきまで穏やかだった表情が鬼のような顔に激変していた。


「ワシは貴様みないな奴が一番嫌いじゃわい!特に人質を盾にする雑魚はもっと嫌いじゃ!」

「な!この私を雑魚呼ばわりするとはな。ジジイ……調子に乗るなよ」


 北の殺人凶は美沙から短剣を退けると死歩を使い一気にミル・サターナへ向かって突進してきた。


「私は侮辱されるのが一番嫌いなんだよ!」

「……遅すぎじゃわい」


 北の殺人凶の死歩は決して遅くはない。むしろ上位に位置するほどのスピードを誇っている。しかし、最狂に比べたらそのスピードは遅すぎた。


「むん!」


 ミル・サターナは重たい声を出して右手で放った掌手を北の殺人凶の腹にお見舞いした。


「ぐぅ………」


 口から胃液を吐き出しながらガックシと膝をつく北の殺人凶。


「どうした小僧?貴様は再生する力はあるのに痛みを我慢することは出来ないのかのー。はぁー、やはりまだまだ未熟者じゃ」


 北の殺人凶は地面を見つめていた。それは屈辱の極みでしかなかった。北として、殺人凶として、今までにない実力の差がそこにはあった。


「……」

「どうしたんじゃ?反撃してこんのか?」


 その見下したミル・サターナの言葉に北の殺人凶はユラリと立ち上がる。


「もういい……」

「ほおー、何が(もういい)なんじゃ。諦めたのか?」

「違う!“私に”言ったんだ」


 ミル・サターナはすぐにその意味を理解した。さっきまでの北の殺人凶より強い殺気を放っていること、そして………。


「ヒャハ!ヒャハハハハハハハ!やっとオレヲ出したか!」

「多重人格……か。ほおー、面白いのー」

「ククク、こいつがオマエヲ侮辱したジジイかあああああ!シケイシケイシケイシケイシケイ死刑決定ダアアアアアア!」


 いきなり顔を上げて北の殺人凶は物凄い速さでミル・サターナの身体に短剣を突き刺していく。その動きはまるで疾風の如し!普通の人間ならとっくに肉塊になっているだろう。


「ぬ!?ワシの目が追いつかないとは……」

「シケイシケイシケイシケイしーけーいー、死刑だジジイ!」


 ミル・サターナは驚異的な身体能力でかろうじて急所は避けきっていた。


「オレオレオレおれはチチチチ血がチチチチが見たいんだ!もっとモット血ヲ!」

「うるさい奴じゃ」


 ミル・サターナは音歩を使い、姿を消した。完全に気配を消して。そして、声が響き渡る。


「ワシもそろそろ本気を出そうかのー」

「消えタ?消えタ?消えタ?あいつはドコ?」

「ここじゃよ」


 耳元で声が聞こえたその時、いまだに目視出来ないミル・サターナにより地面に叩きつけられた。


「ぶふぅ!見えナイ見えナイ見えナイ。どこダ!?どこにいル!?」

「久しぶりに身体が疼くのー」


 北は短剣を構え、最狂と激突する。


 ───


 ──


 ─


 シン・ハザードは遠くにある建物を見つめていた。


「この殺気、あのじいさんが来たか」

「闘ってる最中に余所見をするなんて……余裕ね、最凶さん」

「ふん。こんな闘いを早く終わらせようと思っただけだ」

「そう……私と意見が一致しました。私も……早くあなたを殺したい」


 千夏はそう言うと左、右と徐々に己の数を増やしていく。そして、シン・ハザードの周りを完全に取り囲んでしまった。


「音歩による残像……。数は20といったところか。なかなかこんな芸当は殺人凶ですら出来ないぞ」

「ふふふ、さーて……どれが本物でしょう。さあ、私の最強による最強の攻撃を受けなさい」


 複数の千夏が一斉に死花を振り上げる。そして、最強による死の攻撃を放った。


多重黒死風(たじゅうこくしかぜ)


 大地が揺れ、大気が揺れ、空間が歪む。死花から放たれた黒い衝撃波に囲まれ逃げ場をなくしたシン・ハザードに迫ってきた。


「なめるなあああああ!!」


 複数の衝撃波をシン・ハザードは物凄い速さの回転蹴りで抵抗する。


「な!?畜生!畜生!畜生!死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええええ!!」


 千夏は叫び声をあげ手を止めることなく攻撃を繰り返す。


「死ねええええええええええ!!」

「うおおおおおおおおおおお!!」


 お互い譲らない攻防をしている時に、シン・ハザードを囲んでいる場所が砂ぼこりを巻き上げながら爆発した。取り囲んでいた千夏の分身が消えて爆発の衝撃により吹き飛ばされる。


「……はあはあ」


 荒い息をたてながら千夏は死花を杖みたいに地面に固定してゆっくりと立ち上がる。シン・ハザードがいた場所は最強の攻撃により地面にクレーターが出来ていた。


「やった……私、最凶に……あの最凶に勝ったわ。これで……私の最強を証明出来た!ふふふふふふふふふ、私は勝ったんだあああああ!」


 高笑いをあげる千夏の顔は死神そのものだった。闘いで勝った勝利の余韻に浸る。


 だが、その喜びもすぐに消えてしまった。なぜなら目の前にあの男がまだ立っていたから。


「ゴホゴホ……ち!今のはさすがに死ぬかと思った。やはり……お前は最強の中の最強だ」

 

 ボロボロのスーツに、身体中の深い傷。頭からは大量の血を流している。しかし、シン・ハザードは最凶のプライドゆえなのかあえて気にも止めず千夏に近寄ってくる。


「あなた……なんで生きてるの!?……あれは……私の最強による攻撃だったのに」


 徐々に近づいてくるその姿に千夏は無意識に後退してしまった。


「身体が勝手に後退しているなんて!?最凶に恐れを抱いているの!?そんな……違う違う違う違う違う違う!私に勝てる奴なんて存在しないんだ」

「残念だが俺は死ぬ訳にはいかないんだよ。残りの四人の最凶はもうこの世にはいないからな。俺が死んだら最凶の存在が消えてしまう。最凶がここで死ぬのは俺に対して最大の恥だ!」

「そう……。その話は初めて知った。でも、それを聞いて安心したわ。あなたみたいな人があと四人もいたら私の邪魔になるのは目に見えてるから……。そして、あなたを倒せば私の邪魔者はほとんどいなくなる」


 千夏は深く深呼吸をして死花を構えた。


「もう時間はかけたくない。私は全てを出しきります」

「こっちもだ。さっさと終わりにしよう」


 お互いに叫び声を出しながら千夏の死花とシン・ハザードの拳が再びぶつかり合った。

 最狂、全てを狂わす元凶の最狂者。

 圧倒的な実力で、圧倒的な狂気で、圧倒的な存在で、そこに立つ者。

 ミル・サターナ。最凶の師であり最凶を超える者。


───私は、いっぱい人を恨んだ。

───その理由は何もない。


───私は、いっぱい人を憎んだ。

───その理由も何もない。


───私は、いっぱい人を殺した。

───その理由すら何もない。


───そして、なぜ最狂に憧れた。

─── その理由も忘れてしまった。


 昔の私は多分、もう人間を棄ててしまったのだろう。

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