第四話《生か死か》
部屋の外に一歩足を踏み入れる。短い廊下をゆっくりと進む。
歩くたびに廊下がギシギシときしんでくる。それだけ老朽化が進んでいる建物なのだろう。
ふと千夏の横に半開きのドアが開いていた。恐る恐る手をかけドアを開く。
中は薄暗くどんよりしていた。唯一天井の亀裂からかすかに太陽の光がもれている。
棚にはナイフ、日本刀、丸い鉄のボール、それに透明のカプセルの中に靴?らしい物が二足ならんでいた。さらに横には黒い手袋が二つ。よく見ると指の間が刃物になっており千夏は恐怖を感じた。
「ん?」
ふと目を右の棚にやるとほこりでかぶさった一枚の写真を発見した。
「これって」
千夏がその写真を眺めている時、ふと後ろから何やら冷たい視線を感じた。
肩に手が触れる。
怖くて体が動けなかった。
そして手は肩から写真の方へ移動しそれを掴んだ。
「勝手にうろちょろするな」
耳元で囁かれたその言葉に千夏は首をコクリと傾けた。
ゆっくり後ろを振り返る。最初に目に飛び込んできたのは黒いマント。目線を上に向けるとあの時の男の顔が千夏の記憶から蘇ってきた。
「生きてる事に感謝しろ。そして去れ。俺が初めて助けた命だ。大事にしろよ」
その言葉を聞き千夏はまだ自分がこの世にいるという事にようやく気づかされた。
「なんで……なんで私を殺さなかったの……なんでよ」
目が涙によって潤んでくる。この世にいる事がつらいのに。
やっと解放されたと思ったのに。
千夏の怒りの目はダークに向けられた。涙はこれ以上出なかった。
いや、出尽くしたのかも知れない。
「そんなに死にたいなら今ここで殺してやろうか?」
ダークは近くにあった椅子を取るとそれに腰を掛けた。木の椅子は腐敗をはじめておりダークが座ると同時に椅子の足が軋みはじめた。
「死ぬのか?生きるのか?」
その質問に千夏は口を閉ざしたままである。
「俺の質問への返答がないという事は少しは生きていて安心をしているという事だな。そうだろお嬢ちゃん」
「……じゃ……ないもん」
ぼそりと千夏は呟くが、外のセミの鳴き声が邪魔でうまく伝えられなかった。
「なんて言った?もう少し大きな声で言え」
「お嬢ちゃんじゃないもん」
「悪かった悪かった。じゃあ何て言えばいいんだ」
「私にはちゃんとした《古川千夏》って名前があるもん。それにもう12歳だもん。子供じゃないもん」
今度はセミの鳴き声に負けないくらい大きな声で叫んだ。
「12歳だったら十分子供だよ」
椅子から立ち上がり千夏の肩に手を乗せる。
「な、何よ!」
「結局死ぬのか?それとも今生きるのか?」
口が詰まる。
生きたい……
だが………死にたい。
頭の中は矛盾でいっぱいになっていた
「どうなんだお嬢ちゃん」
さっき名前を教えてあげたのに!!
「どっちなんだ」
千夏は何かを振り切ったのか、ダークの前まで立ち……
「生きたい!」
その言葉を聞きダークはマントから白いビニール袋を取り出した。
マントの中には多数のポケットやフックが付いておりそこに武器や食料をしまっているようだ。
「金だ、受け取れ。それで少しは生活ができるだろ。あとは自力でなんとかしろ」
「嫌だ!!私ここに残る!!」
ミミン!!ミーンミーンミーン
ダークもセミもその言葉にびっくりする。
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