闇の暗殺者と幼き少女《後編》第1話
後編です。思ったより早く執筆しました!
僕の血が騒ぐ。
殺人凶の血が疼く。
闇の血が沸騰する。
体の中で暴れる血を抑えながら男はあるホテルを眺めていた。
「ここにダーク・ミラーがいるのか」
体の傷を手で撫でながら男はホテルの中へと侵入していく。
「ふふ…もうすぐ会えるな。僕をここまで怒らせたのはお前が初めてだ、ダーク・ミラー」
重い金属の槍を構えるその姿はすでに戦闘体勢。
もう分かるであろう。学生服のその姿は奴であった。
南の頂点!
人としての頂点に君臨する者。
名は中原侑也。南の殺人凶とはこの男の事。
心の闇をより深くしながら前へと進んでいく。
場所はホテルの廊下。
ダークは廊下の中央で立ち止まっている。
目の前には真っ二つになったショウの死体と別の人間の変わり果てた姿があった。
非常階段の近くでは古田の腕と首が転がっている。
「俺のほかに誰かいたのか?」
腰を下ろし死体を見つめる。まずショウの死体は綺麗に胴体が切断されていた。傷口を見る限り何か鋭利な武器でショウの命を奪ったのだろう。
古田の殺されかたは何か違っていた。
武器による傷ではなかった。腕は何かによってちぎられている。痛々しいほど肉片が散らばっていた。しかし目を開けたまま絶命している生首はショウのように何かしらの殺しの技によって綺麗に切断されていた。
ほかの死体については原型は保っているが、その相手だった者はかなりの腕だとすぐに分かった。
「腕利きの暗殺者が2人…いや、3人はいたな」
殺された者たちもかなりの使い手だったと予想がついた。ダークは立ち上がり周囲を警戒する。
それを合図にするかのようにコツコツと後ろから足音が聞こえてきた。
廊下の壁を反響しながら徐々に近づいてくる。
コツコツ…
コツコツ…
コツ…
足音がダークのすぐ後ろで止まる。
「君がダーク・ミラーかい?」
その声と同時にダークは後ろを振り返った。
白銀のスーツに茶髪の髪の毛。ネクタイを両手で整えながらニコリと微笑む。
「誰だ、貴様」
ナイフを手にとり警戒するダークに男は礼儀正しく答える。
「自己紹介をしておこう。俺の名はキル・キラー。元西の殺人凶だった者だ」
丁寧に答えるその言葉にダークは64式小銃を握りしめキル・キラーに狙いを定める。
「キル・キラー?……なるほど、大体理解は出来た。じゃあ俺が前回殺したキル・キラーはキル・キラーであってキル・キラーではなかったって事か。いわゆる影武者」
そう呟くとダークは狙いを定めながら切り替え軸を連発にする。《弾を連射にする機能》
「警戒しすぎだよダーク・ミラー。別に君と闘いに来たわけじゃない。俺の仲間になってくれないか」
「何だと?はっきり言っておく。お断りだ」
ダークは引き金を指にかける。
「ははは…さすがにいきなりは無理だろうね」
「当たり前だ。5秒以内にこの場から消えろ!さもないと貴様の頭が熟したトマトのようにメチャクチャになるぞ」
「…やってみな」
その言葉と同時にダークは引き金を引き弾を複数連射した。
だがキル・キラーに弾が届く事はなかった。
奴はすでに死歩を使いダークの後ろへと回っていたのだから。
「危ないなー、その腕をひきちぎってやろうか」
64式小銃を手で払い飛ばしダークの肩をグッと掴む。
「裂けろ」
その間は一瞬だった。
キル・キラーの握力がダークの肩の骨と肉を粉砕しようとしていた。メキメキと骨が割れる音がダークの脳に痛みとして蓄積される。
だがその痛みはそこで終わっていた。ダークの目には血が飛び散っていた。
キル・キラーはすでにその場にはいなく後方に下がっている。
左腕を抑えそこから血液がポタポタと滴り落ちていた。左腕の場所だけ白銀のスーツの色が真っ赤に変わっている。
腕には穴があきダークは何が起こったのか理解が出来ないようでいる。だがその出来事もある声の主によって解明された。
「それは僕の獲物だよキル・キラー」
非常口の階段の扉の近くにある見慣れた男が立っていた。
「ぐ!……貴様は南の殺人凶、ミュージックキラー。なぜ貴様がここにいる。しかも俺の邪魔をするとは」
「今言ったはずだ。そいつは僕の獲物。キル・キラー、お前は邪魔だ」
こちらに歩み寄り、槍を構えキル・キラーに向かって振り下ろす。
《メロディーレクイエム》
その言葉と同時にキル・キラーのスーツがズタズタに切り裂かれ血液が大量に飛び散った。
「ぐほ!…貴様」
スーツが鮮血に染まるその姿をダークはただ肩を抑えながら見ているだけであった。普通ならありえない光景だ。
キル・キラーは攻撃を受けながらも南の殺人凶の腹部を手でガッシリと掴んだ。
「!!」
気がついた時にはすでに遅かった。腹部の一部の肉が体から引き離されていくのを感じたのだ。
「手鋭刀」《しゅえいとう》
手は凶器であって殺人拳。
キル・キラーの握力は常人をはるかに越える。その力は人の腕や足をもぎ取る事が出来るほどなのだ。
この力を利用し今までの殺人をほとんどこの能力でおこなってきたのだ。これで古田の腕を切断した謎が解けたであろう。
南の殺人凶の腹部の一部をもぎ取ったキル・キラーはそれを地面に落とし足ですり潰した。
肉は挽き肉のようになりキル・キラーの靴にべったりとこびりつく。
「はぁはぁ、南の殺人凶……はぁはぁ、この借りはいつかつけてやるぞ……ふふふ、今日はいったん引いてやるとしよう。ありがたく思え」
そう言うとキル・キラーはパチンと指を鳴らす。
その音と同時に南の殺人凶の額からパックリと傷口ができあがった。
それほど深い傷ではないが垂らりと血が顔を滴る。
血を手で拭うと同時にキル・キラーの姿はそこにはもういなかった。