第三十話《父親》
嘆きとは悲惨な運命。
嘆きとは悲痛な叫び。
嘆きとは切なさの印。
私は歩く。
指示のままにただ前へ進んだ。
もう自分が何者かも分からない。
そんな自分を私は責める。
もう何もかも考えられないよ。
「ここがお前の父親がいる場所だ」
「さぁ中へ入って下さい」
男の一人がドアのパスワードを解除し大きな門ゆっくりと開く。
目の前には大富豪が住みそうな豪邸が建っており千夏はその光景を眺める。
門の前には警備の男が立っており千夏に向かいお辞儀をかわす。
門が開くと同時に中からタキシードを着た若い男が出迎えてきた。
「初めまして。この家のお世話を任されているロンと申します」
ロンと言われる男は千夏についていた男二人を先に豪邸に行かせ千夏だけをとり残した。
「我らが主人、Dが別の部屋で待っておられます。こちらへどうぞ」
丁重にそして紳士的に千夏を豪邸の隣にあるひときわ小さい建物に案内した。
ドアの前まで立つとロンは軽くお辞儀をして去っていった。
「ここに…私のお父さんが…」
いったんためらうも静かに呼吸をし千夏はそのドアをゆっくりと開ける。
部屋の中に入ると同時にドアが自動的にゆっくりと閉まった。
「やっと会えたね、愛しい娘」
二階の階段からコツコツと足音をたてながら降りてくる一人の男の姿が千夏の目にうつった。
「あなたが私の…」
キリッと目を見開きその人物を睨みつける。
「いかにも!君の本当の父親だ。今まですまなかったな。こちらにも色々事情がありお前の面倒を見ることが出来なかった」
「初めて再会した言葉が言い訳なの?」
「ははは、手厳しいな」
笑みを浮かべながら千夏に近づく。
「来ないで!一回どういう顔か見たかっただけなの。私の本当の父親の顔を……だけどもういいわ。私にはもう居場所が出来たの。だからこれでお別れにして」
千夏が後ろを振り向きドアに手をかけようとするがカギがかかっており開ける事が出来ない。
「それは無理な話だ千夏。君は私の元で丁重に育てるんだよ。お前には才能があるのでね」
「才能?」
「そう、才能だ。それは時期に自分でも気が付く事になる」
Dは千夏の肩に手を触れそっと頬にキスをする。
その時囁いた言葉により千夏は動く事が出来なかった。
「言う事を聞け」
その威厳は絶対的!
そう、殺人凶の威厳は絶対!
その逆らう事の出来ない威圧に千夏は硬直するだけだった。