第二十九話《実力の違い》
「さぁ、来い!」
横目で睨みつけながら二人の刺客を威嚇するシン。
いつもはサングラスで隠れている瞳だが改めて見ると普段おちゃらけているあの表情ではなかった。
「この俺相手にどれだけ戦えるか見物だ」
シンは手をポケットに入れながら無防備の状態でこちらに歩んでくる。
「あまりこのスーツを傷つけたくない。出来るだけ早く終わらせる」
「自信ありげだな」
「俺らだって素人ではない。この銃剣でひと突きにして……」
しかしその男の言葉はそこで途切れる。
「やってみな」
死歩を使い後ろに素早くまわりこみシンは男の首に指をめり込ませる。
「がっ!」
かろうじて立ってはいる。いや、指の力だけで男の体を持ち上げているのだ。
「な!いつの間に!」
もう一人の男は何が起こったのか分からずその場に立ち尽くしているだけであった。
「ふー、凶殺レベルを舐めてもらっちゃ困る。俺の死歩を見た瞬間貴様らには死しか待っていない」
さらにズブリと指を食い込ませ、いったんねじ込んだかと思うと男は最後の悲鳴をあげその場で絶命した。
「弱すぎる」
そう呟くと同時に男を床に落とす。
「さて、あとは貴様だけだ。ターゲットを早く抹殺しなければいけないんでね。さっさと終わらせるぞ」
「く!」
詰め寄るシンから距離をあけ懐から軍用ピストルを引き抜く。
「いくら貴様が強くても素手では銃には勝てないだろ」
「いや……そうでもないさ」
「負け惜しみを言うな」
「負け惜しみか……なら見せてやろう」
「シン、もう一人倒しちゃったの!」
「バカが、よそ見をするとは」
ショウと美砂は今お互いの腕を組み合っている状態になっている。
メキメキとお互いの腕の力がぶつかっていた。
「私、接近戦得意じゃないんだけどなー」
愚痴をこぼしながら美砂はショウの顎めがけて膝蹴りをくらわそうとした。
それをおさえている肘で何とかブロックするショウ。
しかし肘と膝がぶつかった瞬間、鈍い音が発生した。
「アタタ!いーたーい。膝が割れそうになったわよ」
「ふん。何が《接近戦は得意じゃない》だ。かなり場慣れしてる感じがあるぞ」
美砂は距離をとり両手のワイヤーを解き放ち前方に蜘蛛の巣のような網目を張り巡らす。
「私のガード技よ。名付けて……え〜と、まぁガードの必殺技みたいな感じよ」
「お前のような天然女は初めてだ」
ショウは再び身構え美砂に突進していく。
「あんたバカ?このワイヤーに触れた瞬間、あんたはミンチになるわよ」
美砂はワイヤーを操っている指をクイッと動かし網目の形になっていたワイヤーの一部が蛇の姿に変化しショウに襲いかかる。
「攻撃と防御の両立、これが私の力よ」
なんとかショウはその攻撃を避けるが接近が出来ない為、徐々に後ろの壁に追いやられていく。
「なかなか身軽じゃない。でもこの蛇のワイヤーに当たるとかすり傷だけでもあんたは死ぬわよ」
とうとう壁に追いやられ逃げ場がなくなったショウ。
暗殺者のレベルをなめていた!
ここまで遊ばれるとは!
「ワイヤーには毒も含まれてるの。だから少しでも触れて傷を負った時点であんたの負けは決定よ」
美砂は後ろを振り向き古田の方へ歩いていく。
「待て!まだ勝負は終わってないぞ」
「いいえ……もう終わったわ」
そう言うと同時に床の下から無数のワイヤーが出てきてからショウの体を一瞬で巻き付けた。
「な!……くそ!くそ!こんな芸当が人間に!汚いぞ貴様」
ショウの怒りの言葉に美砂はフッと笑う。
「ふふ、暗殺者とはこういう事よ。良い悪夢を」
「くそぉぉぉぉぉ」
その言葉と同時に美砂は指に力をこめワイヤーを操作した。
ショウの体が真っ二つになり、辺りは鮮血の血で真っ赤に染まる。
上半身が最後にピクリと動きショウは暗い闇に入っていった。