第二話《死神》
あれ?
なんでお父さんがお母さんを殴ってるの?
なんでお父さんがお母さんの首を絞めてるの?
お母さんが辛そうだよ。
もうやめようよ。
お母さんの目から涙がでてるじゃん。
「さぁ、千夏。こっちにおいで。お父さんと一緒にここを出よう」
え、お母さんは。
なんでお母さんは動かないの?
なんで…もしかして…
死んじゃったの?
「早くここを出るぞ千夏」
お父さんが私の腕を掴む。細い腕にありったけの力をこめる。
私はもがく。
必死に…
ただ必死に…
「嫌だ!やめて、離して、お父さんなんか死んじゃえ」
その言葉を放った瞬間、千夏のお腹から血が吹き出していた。
「なんでだ?なんで一緒に逃げてくれない?やはりお前は『あいつ』の子だからか」
初めての体験。
こんなにも血を見るのは…
初めての体験。
自分の体温が失われるのが。
包丁を我が子に刺す父親。
いや、もう父親ではなかった。
その体全てが千夏の良く知る父親ではなかったのだ。
「ならもういい!お前も死んじまえ!」
娘に包丁を振りかざす。その時の顔は…
とても言葉では言い表せなかった。
私は目を閉じた。
血だ…
私…死んだのね。
死んじゃったんだ。
でも不思議、痛くないんだもん。
うっすらと閉じていた目をあける。
そこには血を流して横たわる私の父親。
私はもうお父さんがこの世の住人ではない事を瞬時に悟った。上半身と下半身が綺麗に切断されていたから。
血液が切れ目から流血しており体は蒼白になりつつあった。
「あとはお前だけだ、お嬢ちゃん」
少女はびっくりしたであろう。後ろに人がいる気配など少しも感じなかったのだから。
そこには手に長い刀を持ってその血を黒い布で綺麗に拭き取っている黒い死神がいた。