第二十四話《北の実力》
「南が動き、暗殺者達も動くか…」
黒い仮面が太陽の明かりに照らされ反射する。
「さて、私はどうするかな」
山の空気に触れる為、北の殺人凶は両手を使い仮面をはずす。
ゆっくりと脱ぎ捨て素顔をあらわにしていく。
まず目につくのは腰までのびている長い黒髪。仮面を脱ぎ終わると同時にパサリと髪がなびいた。
顔は女を思わせるほどの美しい顔である。短く言うと美男子といったほうが良いかも知れない。
黒のマントで全身を覆っているので体つきは良く分からない。
改めて見るとかなりの長身と見てとれる。
「ま、私はまた子供狩りでも楽しもうかな」
額の汗をハンカチで拭いながら下の街に向かおうとする。
だがいきなり北の殺人凶の足がピタリと止まった。
小鳥のさえずりが消え、空気の流れが変わった。
殺気はない。
だがかすかに気配を感じる。
「この私を狙うバカがいるなー」
ぼそりと呟くと同時に茂みの中から二人の暗殺者が飛び出して来た。
一人は両手にトンファーと言う武器をはめこみ、もう一人はサバイバル用のナイフを片手に持っていた。
「北の者よ、覚悟」
「すぐ楽にする」
一人が横に飛ぶと同時にもう一人の暗殺者が前方に多数のナイフを投げつける。
北の殺人凶は片手でそれを全て弾いて見せた。
横に飛んだ暗殺者は一瞬で後ろにまわりこみトンファーで頭を狙う。
しかし頭に直撃する前に黒いマントを使いトンファーに絡ませ攻撃を防いだ。
暗殺者は危険を感じ後ろに素早くさがる。
「さすがだな北の者よ」
「我らが恐怖を覚えるとは」
その言葉を聞き北の殺人凶はニヤリと微笑む。
「分析中……分析中」
いきなりブツブツと北の殺人凶が呟きはじめた。
「何をしてるんだ」
「不気味な奴だな」
「分析中……分析中……分析……終わり」
暗殺者二人は再び武器を構え戦闘態勢に入る。
「ふふふ、分析の結果で君達の実力がだいたい分かったよ」
人差し指で暗殺者達をさしながら歩み寄ってくる。
「君達はなかなか強い部類だね。そうだなー、トンファーを持ってる君は富凶の上くらいかな。そしてナイフ投げを得意としてる君は富凶の中くらい……どう?当たってるでしょ」
「たいした眼力だ」
「しかし部類が分かったからといって富凶を二人相手にするのは少々荷が重いだろうよ」
暗殺者のその言葉を聞き歩み寄っていた足がピタリと止まった。
「クスクス……確かに普通のレベルでは富凶の暗殺者には到底勝てないよ。低殺レベル10人が富凶一人分の能力だからね。富凶まで登りつめた君達は確かに才能があるよ。でもね、一つだけ良い事を教えてあげる」
そう言うと北の殺人凶はいきなり自分の右手の手首から皮膚をナイフではいでいく。
暗殺者達はその光景を見てつい一歩後ずさりをしてしまう。
筋肉を裂き中から出てきた物は細い短剣であった。
「大丈夫だよ、怖がらなくても。右手の手首からは全部私の作り物だから。まぁ、偽物と言っても人から調達した人肉を使ってるから本物と対して変わらないけどね。どう?私の技術、凄いでしょ」
「この異常者が」
「同感だ」
暗殺者達の足が徐々に後ろへさがっていく。
……恐怖
……死
暗殺者が考えてはいけない絶対の鉄則。
しかしこの暗殺者達はまさに今!恐怖、死が頭の中を駆け巡った。
「怖いかい?私も自分の強さに恐怖を感じてるよ。あ!ちなみに私達4人の殺人凶のレベルはヤバいからね。そうだな〜、暗殺者の部類に例えると……ふふ、凶殺レベルだね」
そう言うと同時に北の殺人凶の姿が一瞬で消えた。
「な!」
「右か、左か、……くそ!後ろだ」
右手の短剣で突き刺そうとする北の殺人凶の攻撃を両手のトンファーでギリギリで防ぐ。
しかしその力に暗殺者は驚かされた。
北の殺人凶の腕力と短剣の強度が組み合わさりトンファーが破壊されたのだ。
「ティル!下がれ」
トンファーを使ってる暗殺者はティルと言うらしい。
そう言うともう一人の暗殺者が大小様々なナイフを空中に投げ入れる。
「突かれ、裂かれ、斬られ死ぬがいい、弐の型、円殺!」
どういう原理かは分からないがナイフが生きたように北の殺人凶の周りを囲みはじめた。
幅が徐々に狭くなっていく。
「なるほど!さすがは富凶の暗殺者。これ位の芸当が出来ないと困るよ」
ニコリと笑いながら飛び交うナイフを警戒する。
「死ね!北の者よ」
そう言うと同時に多数のナイフが一気に彼に襲いかかった。全身が切り裂かれ彼は血のしぶきと共に地面に倒れた。
勝った!……だがその喜びも一瞬の出来事だった。
倒れているのはティル!
地面には血の湖が出来ている。
なんだと!
いつの間に変わった?
なぜ?
あんなすぐに人が入れ替わるだと!!
バカな!どうやったんだ!!
「油断しちゃダメじゃないか」
右手首から出ている短剣を使い彼の心臓を貫いた。
「が!…… く……そ」
口から血を吐きながら彼はゆっくりと地面に倒れ込む。
「君の名前も聞きたかったよ。暗殺者さん」
短剣に付いた血を振り払いハンカチで拭う。
「そして、そろそろ出てきたらどうなんだい。嫌でも気配を感じるよ」
一本の木の上から人が降りてきた。
紳士の姿のその人物は鞘におさめられている長いサーベルをわきで抱えなおし拍手をする。
「さすがは殺人凶の一人、あの程度の暗殺者ならわけもありませんね」
「貴様は……リリー・ブラッド」
右手の短剣を再び構える。
「あの暗殺者を雇ったのはお前だな」
「確かに……しかし今は戦う気はありませんよ。あれはあなたの技量を見たかっただけです。しかしあの冷静沈着な北の殺人凶がこの私を見ただけでこんなに取り乱すなんて。少しショックですね」
「当たり前だ。貴様は暗殺者の仲間でも、我ら殺人凶の仲間でもないのだから。警戒して当然だ」
そう言うと北の殺人凶の体がフッと消える。
「ほぉー、さすがに気配を絶つのは上手いですね。しかし戦う気はないと言ったはずですが」
《ガキン!》
上からの襲撃をリリーはサーベルを使ってなんなく防いで見せた。
「さすがだなリリー・ブラッド。先程の2人より何倍も出来るね」
「しょうがない。今日は立ち去るか」
するとリリーの周りに木葉が舞いそれと同時に姿を消した。
「ち!逃げたか。この私から逃げるなんていい度胸だ。今度はこの屈辱、晴らして見せよう。しかし忍者のような奴だな、風を読み自分の周りに木葉が舞う時間を計算していたなんて。大した演出だ」
そう言いながら左手を使い黒いマスクで再び素顔を隠す。
「私の素顔を見たリリー・ブラッド。生きては帰さないよ。ふふふ」
不気味な笑い声だけが山に響いた。




