第二十二話《日記》
「影武者は死んだか……」
「は!殺した名はダーク・ミラーという暗殺者であります」
部下の報告を聞きながらワインを片手に高級ビルの屋上で街を見渡している。
「あいつには一通りの暗殺の技を教えたはずだがな。それにもう少し影武者として役に立つと思っていたがやはりクズはクズのままだったか」
男は立ち上がりニコリと微笑みながら言葉を続ける。
「ダーク・ミラー、興味があるわ」
「今捜索中であります。キル・キラー様」
「早く会ってみたい。一週間以内に探し出せ」
「了解であります」
ダークが殺した元、西の殺人凶キル・キラーはダミー、いわゆる影武者であった。
その笑顔には凍り付くような殺気とダークにはない暗殺者としての何かがそこにはあった。
……南は恐怖。
……北は抹消。
……東は嘆き。
……西は絶望。
全ての殺人凶が動く時、闇が変わる。
闇が変わる時、暗殺者は何を望む。
壊れた世界をなお崩壊の道へ……
殺人凶と暗殺者……二つの世界が一気に激突する時、最後は悲しい時間となるだろう。
もしこの日記を見ている君がどちらかに属するならこの闇の関係を断ち切ってはくれないだろうか。
家族の事を考えよう、自分を大切にしてくれ。もしこの日記を見て少しでも情が働いたなら……君はまだ救える。
もうこのような世界を終わらせてくれ。
私はそれだけを願う。
《ミル・サターナ》
ミル・サターナと思われる人物が書いた一冊の小さいノート。この文は最後のページに書かれていた文章である。
今は深いどこかの森の下に埋まっており誰もその文を見てはいなかった。
この日記には全てが書かれている。
そう、殺人凶や暗殺者の全てがだ。
悲しい物語を知る事であろう。
そう、全ての物語の原点を……
深い土の中に埋もれている日記帳には小さく日付が書かれていた。
《1988年、8月27日》
風化しないように木製の箱におさめられているその日記帳は今も誰かを待ち続けているようにも見える。