第二十一話《俺の仕事》
《仕事実行の日の一日前》
「ねぇお兄ちゃんも入りなよ」
「嫌だね。つーか何で俺がここにいるんだ」
町の中の小さい市民プールにダークと千夏は遊びに来ていた。ダークのほうは千夏に強引に誘われて。
「せっかく来たんだから泳ごうよ」
「お前が強制的に連れて来たんだろうが。しかも俺は明日仕事があるんだよ。依頼の任務を実行しなければならないんだ」
「水着似合う♪」
プールから出てダークに自分の水着姿を見せる。
「全く人の話を聞かないなお前は」
「ねぇ似合う♪」
「いや全然……」
それはそうであろう。千夏が着ているのは学校の普通のスクール水着なのだから。
「もうー、胸とか少し発達してきたんだけどなー」
「醜いな、やめてくれ。それは一部のカスにしかうけねーよ」
鼻で笑うダークに千夏が反発する。
「お兄ちゃんだってなんだかんだ言って水着を着てるじゃん。しかも色は真っ黒、いつも服装が真っ黒なんだからたまにはイメチェンしたら。センスがないよ」
「な!」
軽く心が傷ついたダークであった。
「もう私一人で泳ぐからいいよ」
プィッとそっぽを向かれ千夏は再びプールの中に入る。
「近頃の小学生はつえーな」
さっきの言葉は意外にもダークの心が深く残っていた。
その時コロリと小さいビーチバレーがダークの足に転がってきた。
テクテクとダークに歩み寄る幼い女の子。
「ボール」
指を加えダークに視線を送る。
ダークはボールを手にとってしゃがみこみ女の子に話かけた。
「可愛いボールだな。ほら」
優しい表情で女の子にボールを手渡す。
その表情に女の子はニッコリと笑い《ありがとう》と受け答えした。
これも命。
奪っていい命なんかない。
しかし俺は命を奪っている。そのような事はあってはいけないのに。
しかし暗殺者でいる限り俺は人を殺すだろう。
それしか俺の悪夢を覚ましてくれるのがないのだから。
あの幼いビーチバレーを持った女の子ももしかしたら俺が命をとることになるかも知れない。そうなったら俺はどうする?
いや、俺ならきっと行うだろう。ためらいなく人の血を浴びる事になるであろう。
「お兄ちゃん」
「何だ千夏」
「さっきの事もしかして気にしてんの」
「俺がそんなに心が繊細な人間に見えるか」
「うん、見えるよ」
「今の一言のほうが俺の心に深く突き刺さったわ」
そう言い終わると同時にダークはプールの中へ入っていった。
「あれ!入るの?」
「何か文句があるのか」
「別に……」