第二十話《新たな強敵》
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「あと一つ」
黒い仮面で顔が覆われ素顔は把握出来ない。仮面には小さく《北》と書かれていた。長身な体がクルリと後ろに振り返り棚に並べられている丸い物体を掴んだ。暗闇でその物体はまだ何か分からないが綺麗に横に9個並べられている。
「コレクション完成まであと一体」
一体?
なんの事を言っているのだろう。しかしその疑問は窓からの月の光が教えてくれた。
弱々しい月の光が辺りを照らす。そして《それ》はあった。
……苦痛。
……嘆き。
……痛み。
……全ての表現が。
……まさにそれだった。
仮面の者は人の頭を掴んでいたのだ。
薄暗い部屋をよく見ると物体の全てがそれだった。
しかも全てが幼い女の子の……
未来がある子供の……
慣れ果てた姿だった。
仮面の者は手に持っている幼い女の子の髪を撫でながら再びもとの位置に戻す。
「気味が悪い趣味だな」
学生服の男が暗闇の中から突如でてきた。
「あなたに言われたくないよ。そうでしょ南の殺人凶」
仮面の者は後ろをゆっくりと振り返り歩み寄った。
「噂で聞いたよ。暗殺者にヒドい目にあわされたってね」
その言葉に眉をピクリと動かす。
「貴様には関係ねー。それ以上言ったらこの槍で串刺しにするぞ」
「嫌だねー、短気は長生きしないよ」
仮面の者は目の前の机の引き出しを開け厚いファイルを取り出した。
「あんたの姉の情報はまだ時間がかかるね。中原なんて名前、日本中たくさんいるからねー」
「そうかよ。早く捜してくれよな。お前に探せない人物はいないはずさ」
ファイルを閉めてから机に置き仮面の者は椅子に座る。
「情報が入り次第連絡するよ。後はお互いに知り合わないのが我らの条件だからね」
「ふん、言われなくても貴様に興味なんかねーよ。………じゃあな《北の殺人凶》」
「バイバイ、南の殺人凶……いや、本名は中原侑也だったけ?」
「その名前で言うな。それは学校で使っている名前だ」
「しかし君の本名」
「うるさい」
拳を握りしめながら南の殺人凶は部屋を後にした。
「くそ!くそ!」
その男の服は血で鮮血に染まり腕は片方ちぎれている。
「暗殺者にしては手応えがないね」
その威圧感。
その圧迫感。
その……敗北感。
男は力尽き膝をつく。
その男を上から見下したように彼は答える。紳士の服を着こなし片手には小型のサーベルを握っている。
「はぁはぁ、貴様……名は……はぁはぁ」
出血が酷く男の命はもう消えるであろう。
それを察したのか彼は静かに口を開く。
「リリー・ブラッド」
その言葉を聞いた瞬間男は言葉を失った。
「あなたは戦う相手を間違えたね。暗殺者の位は《富凶》の下ぐらいかな」
クスクスと笑いリリーはその場を静かに立ち去っていく。
「まて、とどめを……」
途切れ途切れの声はもう命の灯火が消えかけていた。
「死にかけている者にとどめはささないよ。安心して死んで下さいね」
暗闇にリリーが消えると同時に男の命は消えた。