第十八話《ストーカー野郎と筋肉バカ》
「夏休みの宿題ってめんどくさいよ」
「適当にやれば終わるものだ」
「千夏=だらだら……なのよ私は」
「一生だらだらしてろ」
「違う意味で汗がだらだらするんだけど」
千夏は算数の公式をノートに書いているが額の汗で紙が湿っている。
「クーラー、プリーズ!」
「うちわがあるだろ」
「これはカロリーを使うから嫌」
……と言いつつも手にウチワをとり微弱な風を顔に送っていた。
「こうしていれば平和なのに……」
千夏は冷たい缶ジュースを開けるとそれを一気に飲み干した。
近くの小道にポツリと一台の自動販売機が寂しくたっておりそこで千夏はジュースを買っていたのだ。
「コーラ飲む?」
「いらん」
呆気なく答えられムスッとなる千夏であった。
「お嬢さん綺麗だね。どう?俺らとカラオケにでも」
「却下です」
若い男三人が通りかかった女に話かけた。しかし即答で断られキレた男達はその女を壁際まで押し倒し腕を掴む。
「即答で言われると傷つくな」
「うるさい男共……私は今忙しいの」
「へへへ……そんな事を言うなよ」
一人の男が女の胸をわしづかみにする。
「私、キレるよ」
胸を揉まれながらも相手の男に鋭い目線を送る。
「いいねー!その目がいいよー!」
スカートの中に手をいれようとした瞬間、男の首がいきなり180度回転した。
「おが!」
脊髄が粉砕される音とともにその男はバタリと倒れる。
二人の男はその出来事に呆然したままであった。
「ここは路地裏だから少しは暴れられるわね」
手首に巻き付いているワイヤーを操り二人の男をぐるぐる巻きにした。
「助けて……」
「やめてくれ!」
命乞いをするが女の目は冷たく冷酷であった。
「じゃあね」
ワイヤーを締めようとした瞬間、突然彼女の手首を誰かが掴んだ。
「美沙、やたらと殺しはやるな……と言っても一人死んじまったか」
その男はかなりの大柄で顔には無数の傷がついている。サングラスの中から光る眼光は何か引き付けるものがあった。
「シン!なぜここに」
シンと言われるその男は美沙の手首をゆっくり離すとワイヤーに巻きつけられ動けない男達の元へ向かった。
ワイヤーに手をかけていとも簡単に切ってみせた。
「ひぃぃぃぃぃ」
「た、たすけてぇぇぇ」
必死に逃げる男達をシンは黙って見ている。
「さすがね。私のワイヤーを素手で断ち切るなんて」
「まぁな。しかし美沙、無駄な殺しは良くない」
サングラスを中指で押し上げながらシンは言う。
「あっちが悪いのよ。私を強姦しようとしたんだから」
「ごほん!いやそれはお前の格好が原因だと思うがな」
軽く咳き込み美沙から目線をそらす。
美沙の格好は黒いキャミソール姿で胸の谷間がかな〜り強調されている。さらに下はパンツが丸見えなほどのミニスカートをはいているので男達が欲情するのも納得であろう。
「夏はこの格好がベストなのよ。何、あんたも欲情しちゃったの?」
スカートをチラチラと上にあげ黒色のパンツをシンに見せる。
「少なくともガキに欲情はしない」
「私はもうすぐで20歳ですよーだ」
舌を出しながらプイッと後ろを向く。
「しかしまだ19だ。あまり露出するのはどうかと思うぞ」
「私の勝手でしょ」
ワイヤーを手首に巻き直し路地裏から出ていく。
「おい、この男の死体はどうするんだ」
その言葉に美沙は歩くのをやめシンに向き直る。
「それはあんたが処理してよ」
「おいおい、俺は関係なくないか」
「じゃあ、今ここでそれを細切れにしてもいいのよ」
その言葉にため息をつきながらシンは死んでいる男性を担ぎ上げる。
「分かったよ。俺が処理する。しかしこれが最後だ」
「知らないわよ。また宜しくね」
手をヒラヒラとさせ再び前を向き歩き出した。
「やれやれ、あいつといると疲れが溜まるな」
そう言うとシンは暗闇にまぎれながらスーと姿を消した。
《翌朝》美沙の自宅
「うーん……朝か……」
上は裸で下は下着のみの格好で美沙は目覚めた。
「お腹すいたな」
そのままの格好でキッチンへ行き冷蔵庫の中から冷えた板チョコを取り出す。
「やっぱり朝はカロリーをとらないとね」
チョコを食べながら次はテーブルに移動する。アニメの絵が書かれているマグカップにココアパウダーを入れそこに冷たい牛乳を注ぐ。
それを一気に飲み干すと充電完了らしい。
「それにしても胸がまた大きくなったかな」
自分の胸を鏡で見ながら上にあげたり横によせたりして発達状況を確認する。
「目指せEカップ」
「いいから服を着ろ」
いきなり後ろに男が腕を組みながら立っていた。
その瞬間、美沙は人間とは思えない身体能力でその男に向かって後ろ回し蹴りを連続2発くらわせる。
「な、シン!」
「また……いい朝の挨拶だな」
顔面に二発蹴りがヒットしサングラスが床に落ちる。
「あんた!!レディーの部屋に何無断で入ってるのよ」
「説教の前に服を着ろ」
「……後ろ向けこのバカ」
床に脱ぎっぱなしになっていた私服を急いで着用する。
「これでどう?文句はないでしょ」
「それが普通の格好だ」
落ちたサングラスを拾いながらシンは言った。
「……で朝から何の用なの?」
そばの鏡の前に行き身だしなみをチェックする。
「依頼だ」
その言葉を聞き美沙は眉をピクリと動かす。
「それを先に言えバカ」
「バカにバカとは言われたくはないが」
美沙は不機嫌そうな顔で一言。
「この筋肉バカ」
「なるほど。この人物を殺せと」
時を同じくしてダークの元へ一つの依頼が来ていた。
「金は前金100万、依頼が終わったらさらに500万出す」
「あー、問題なしだ」
仕事の引き受け中は千夏はどこかに隠れている。
「殺す日は?」
「なるべく早く頼む。奴はカンが鋭いからな。逃亡のおそれがある」
そう言うと男は胸ポケットからタバコを取り出す。
「ここは禁煙だ」
ダークがそれを指摘すると男は静かにタバコをもとに戻す。
「じゃあ頼んだぞ」
男が帰ると千夏が暗闇から出てきた。
「ねぇ、私はお留守番なの?」
「そうだ」
「そう……」
珍しく何も反論しない千夏にダークは少し驚いた。
「ほぉ、珍しく大人しいな」
「いつもの事じゃん。部屋で夏休みの宿題でもやりますよ」
千夏はクルクルと手に持っていた鉛筆を回す。
「あ!そういえば聞きたい事があるんだけど」
「何だ?」
「美沙さんってお兄ちゃんの何?」
「何って……俺から見たらただのストーカー野郎だよ」
「もしかして同じ暗殺者?……だったりして」
恐る恐る聞いてみるとそれは見事に的中した。
「まぁ、そうだな。だがあいつはまだまだ未熟な腕だから俺には戦闘でまだ勝てないな」
自信満々に言うダークに千夏は疑いの眼差しを向ける。
「疑ってるのか?だいたいあいつの暗殺者としての部類は……」
ダークがそう言おとした瞬間に座っていた椅子がいきなり崩れた。
敵の攻撃とかではなく単に物の寿命が来ただけである。
「いたた……何か不吉な出来事が起きそうな気がする」
腰をさすりながらダークは呟いた。