第十二話《負けるな千夏》
壁には人間の絵がかれている紙が数枚貼ってある。それが横に並んだ状態になっていた。
ダークは懐から素早くナイフを取り出し人間の顔の部分に正確に当てる。それを一瞬で全ての絵の顔の部分に命中させた。
まるで精密機械がおこなったかのようだ。
「おはようお兄ちゃん」
頭がボサボサになりながら千夏が部屋に入ってきた。
「お前、なんかもう馴染んでないか?」
「朝ご飯食べたい」
ダークの質問を完全に無視して自分の要求を先に言う。
「我慢しろ」
「嫌だ!お腹すいた」
ダークはナイフを千夏にむけて一言。
「殺すよ」
しかし千夏はため息を吐く。
「殺せば」
その言葉に何も言えなくなったダークは千夏を部屋から追い出し廊下にランドセルを放り投げる。
「さっさと学校に行きやがれ」
千夏は頬を膨らませながら部屋を後にした。
「でも何でランドセルなんかお兄ちゃんが持ってたんだろ?まさかお兄ちゃんの!でも一人っ子って言ってたしな」
千夏はランドセルを見つめる。大切な思いが詰まっていそうだった。
「えー、転校生を紹介します」
ドアを開け千夏は教室に入っていく。
緊張の瞬間だ。
胸がドキドキする。
目を教室にうつすと……
無愛想な目つきで千夏を見ている生徒達。
「えーと、古川千夏です。特技は絵を書く事です」
千夏は緊張しながら頭の中で話をつくっていこうとしていたがある生徒の声によりそれが崩れ落ちた。
「先生、明後日から夏休みなんですよ。今さら新しい生徒が来てもどうかと思いますが」
人差し指で眼鏡を押し当てながら男の子が言う。 クラスに一人はいそうなタイプである。
「え?先生……それ本当ですか?」
「そうだよ。別にたいした問題じゃないよ。ここの学校は普通の学校より少し夏休みが始まるのが遅いんだよ。しかしちゃんと……」
「いえ、そういう事じゃなくて。言うのが遅くありませんか?夏休みが明後日からなら終わってから来たのに!」
「でも千夏ちゃんのお兄さんがこの日でお願いします!というから」
その言葉を聞き千夏が自分でこの日にしてくれと言った事を思い出した。
「ねぇ千夏ちゃん。早く空いてる席に座りなよ」
三つ編み姿の女の子が教壇の前で突っ立っている千夏に言う。
「えーと千夏ちゃんの席はと……」
先生が席に案内し再び教壇の前に戻る。
「千夏ちゃんの自己紹介は放課後という事で……えーと早速だが夏休みの宿題を配るぞ」
それを聞き生徒達は嫌な顔をする。
そんな生徒の中、千夏は一人でガックリとしていた。
「転校してすぐに夏休みなんて……」
友達を頑張ってつくろうとしていた千夏はひどく落ち込んでいた。
頑張れ千夏!
負けるな千夏!
君なら出来るさ!
千夏の耳元に天の声が聞こえてきた……ような感じがし再び自分に気合いを入れる。