第十一話《南の殺人凶》
心が落ち着くその時を〜♪
探せ探せど見つからず〜♪
なかなか気持ちが高ぶらず〜♪
俺は腕が疼くだけ〜♪
男は机に座り歌を口ずさむ。
ノートに筆記用具、横には学校のカバンがかけられている。
「こら侑也!変な歌を口ずさんでないでノートにちゃんと授業の内容を書け」
この男の名は《中原侑也》。ここでは高校3年生の普通の青年であった。
「あまり怒鳴ると血圧が上がりますよ」
シャーペンを指でくるくると回しながら侑也は答える。
「お前はいつもいつも!!」
頭の血管が浮き出るほど怒りが爆発していた。
「おりやぁぁぁ」
黒板消しを侑也に向かって投げるがそれを見事にキャッチする。
「残念。これで10連敗だね」
ニコリと笑顔をむけて黒板消しを投げ返す。
「いつか天誅をくらわせてやる」
「そんな事はどうでも良いので早く授業を進めて下さい」
こんなやり取りを周りの生徒達は普通に眺めている。これが日常と化しているのだろう。
授業が終わり放課後にさしかかっている時、侑也の前に数人の男達が囲みだした。
「何か?」
教科書をカバンに直しながら侑也は男達に目を向けた。
「何か?じゃねーよ。貴様、最近俺のダチを可愛がってくれたんだってな」
「あれは向こうから仕掛けて来たんですよ。僕は悪くないと思いますけど」
教科書をいれ終わると席から立ち上がり侑也は教室から出ようとする。
「待てよ貴様」
手を掴んだ瞬間、男の体が一回転し床になぎ倒された。
「な!」
「どうなったんだ?」
「え!」
三人の男達はその場で何が起こったのか理解が出来なかった。
目の前には床に頭を叩きつけられて意識不明になっている仲間がいたのだから。
「まだするんだったら屋上でします?」
笑顔を見せながら男達に歩み寄る。
「くそ!」
男の一人がそう叫ぶとそばにあった椅子を侑也に投げつける。
しかし、椅子が侑也に届く前に空中でバラバラに解体された。
一瞬腕が動いたようにも見えたがただそれだけの事だった。
「危ないなー。つい公共物を壊してしまったじゃないか」
手には何も持ってはいない。一体どうやって椅子をバラバラにしたのか?男達はその疑問と恐怖に頭が一杯だった。
「ここは学校だよ。続きは外でじっくりとしましょうか」
そう言うと侑也はズボンのポケットから30センチほどの三日月型のナイフのようなものを取り出した。
いつもはそれをコンパクトに折りたたんでいれているらしい。
よく見ると三日月型のナイフの刃の部分が赤くなっていた。
何か嫌な予感を感じたのか男達は急いでその場を後にする。
「全く、仲間が一人置いてきぼりだ」
侑也は気絶している男を廊下に放り投げるとそのまま学校を後にした。
「よく狙われるな僕は……」
ナイフを折りたたみポケットに再び元に戻した。そしてまた歌う。
心を知らず……
ただ微笑むだけ……
ただ……殺すだけ……
僕の楽しみは……
また快感……
されど快感……
そんな僕を……
みんなは言う。
闇で言う。
南の殺人凶と……