戦後から始まる その3
「王城に行く!!」
姫様が宣言した。 こうなると止まらないので私とクラウも準備を始める。
姫様の普段着はヒラヒラのドレス・・・ではなく動き易い乗馬服。まあドレスで旅など出来ない訳だし。
ここ半年は王都で定住しているので、ドレスでもよさそうなものだけど、ああいう動きづらい衣装は嫌いだとか。
そこから着替えたのが、白銀に輝く軽装鎧。勿論動き易さが最重要な設計。ミスリル製で薄く、とても軽い。
戦時中に使っていた本格的な物ではなく、戦いが終わったつい先月改めて作ったものなので、見た目重視で派手な金モールとか入っている。その分アンダーアーマーは簡略化されて、プレートの入ってない可動部は実戦鎧のような革やチェーンではなく厚めの布地。特に下半身はアーマー無しのスカートにプレートのブーツ。
申し訳程度にエプロンのようなプレートが辛うじて鎧っぽい。
勇者と認定されてからは、エプロンと盾に付いているエンブレムを 姫様の個人のものにしてある。
綺麗な紫の艶の、長い黒髪をサイドで編みこんでから後ろで纏めて金の髪留めで留めて完成
クラウデリアは普段から軍装、偵察兵などの使う革装備だ。
やはり女々しい服は着たくないらしい。 まあ身長6.5フィルの大女がドレスなんか着ても怖いだけだが。
(平均的男性の身長が6フィル位、アタシは背が低いほうで、5フィルちょっと。1フィルは大柄な男性の靴の外サイズくらい。
うーん、そのほかの尺度としては、シングルベッドの大きさが幅3フィル、長さ6フィル+α 部屋の天井までの高さが10フィル。
これで大体理解できるかな)
ただし姫様と同行して出かける時は、女性用のスカートつき重装鎧。 鎧にしてはヒラヒラしたこの装備は姫様の幼少の頃、護衛の女騎士が着ていた物をイメージしてデザインしたとか。
本人はもっと普通の鎧がいい!と文句を言ったが、当然のように無視された。
金髪を後ろで適当に纏めて尻尾にして、極端に長い細身の大太刀を背負って着替え終了。
さて、私の普段の服装はメイド服。
外見は立場を表す。 姫様は、主従ではなく友人として接せよ。と仰るがそうは行かない。
灰色がかった黒髪を眉毛の上、後ろは肩で真っ直ぐ切りそろえた小柄な娘、其れが私。
はっきり言って戦いは苦手なので、鎧とかも要らない。メイド服でいい!と主張したのだけれどやはり聞き入れてもらえず、姫様のと同じく軽くて薄い、何故かメイド服と同じ白黒な配色のスカートつきミスリル鎧を無理やり与えられている。
近接戦闘は無理という理由で弓を持っているが別に上手なわけではない。
まあ それも戦時の話。今は普通にメイド服で同行できる。
白銀の騎士にデカイ女戦士。それにメイド。
冒険者のパーテイーだったら失格よね。なにそのバランスの悪さ。
あくまで姫と護衛それに侍女。だからねー。
三人が、1階に降りた所で初老の紳士が出迎える。
私達が居候している、この「ロドリコ商会」の主。エドモンド・ロドリゲスだ。
「おや、姫様。お出かけですか?」
「うむ。少し王城まで出向いてくる。ボートを借りるぞ?」
「承知いたしました。幸いこれから貴族地区まで配達がございます。その便に相乗りで宜しいでしょうか。」
「構わぬ。世話になる。」
普通は良くない!
正直なところを言えば、姫君が、荷物と相乗りなどありえない!
手打ちにされても文句を言えないくらいの不敬さだ。
「妾は田舎の小国出身故、別に珍しい事ではなかったのじゃがな」
肝心の姫様がなんでそんな事を気にするのか。って風だから何もいえない。
・・・・本当に姫君なのか時々疑いたくなるのよね。実際・・・
私は小さくため息をついた。
ロドリゲスとは長い付き合いだし、姫様は実際のところこの国の貴族ではないので、気安くなるのも判るけど・・・ねえ?
さてロドリコ商会の1階は、商談カウンターが並ぶ取引所になっている。
いつもよりちょっと多めの10人ほどが商談中の店内を縦断して玄関に向かうが、我々3人が通ると今日は露骨にざわついた。
「?・・・」
なんだろう。微妙な違和感ね? 普段はチラ見される程度なのだけど、今日は注目浴びてない?
玄関の大扉をくぐったところで姫様が玄関脇の新しい看板に気づく。
「なるほどの・・・!」 ちょっと眉を顰めたが、それほど不快でもなさそうだ。
私もその視線を追って・・・なんだこれ!
「勇者姫様 ご滞在中」
ご丁寧に、姫様の盾を模した看板が立て掛けてある。
わざわざ看板立てて「ご滞在中」の姫君を荷物と一緒に運ぶのかしら?おっさん!!
「まあ仕方あるまい。最初にロドリゲスに渡した金子では、もう赤字じゃろうしの」
確かにそうなのだ。 2年前、ボーグ市の難民と兵士に物資を供給したのは姫様。
用意立てたロドリコ商会には、その後ボーグ衛兵隊の補給全てを任せたのだがその資金も姫様の私費。
必要になる都度、宝石類で都合金貨10万枚分ほど渡したのだけど、流石にもう2年。
兵士100名が2年戦う資金としては充分だとしても、そろそろ枯渇する頃だろう。(最初に高価な魔法装備を揃えたのが響いている)
ちなみに、農民の年収を金貨に換算すると2枚程度
普通の市民の月収が金貨で5-10枚なので 年収60-120枚程度か。
10万枚の金貨の価値は、城か小さめの城塞都市が買える金額。
とんでもない金額だとは思う。それで姫様の所持金が空っぽになったのはどうなのよ、と。自分のことは後回しって まあ、うちの姫様らしいといえばそうなんだけど。
戦が終わった後は、ボーグの連中こそ避難村に帰ったとはいえ、ここ半年の姫様の帝都滞在費用が賄えているかは怪しい。
・・・・ああ。だから「不満」なのですね。姫様・・・