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短編

魔法の食事

作者: 西

コトコトコトコトコトコト。


お鍋の具が、規則的に動いている。


コトコトコトコトコトコト。


豆腐、椎茸、春菊、白菜、鶏。

色とりどりの材料のダシが、湯に滲み出る。


コトコトコトコトコトコト。


味付けは取り皿に注ぎ込んだポン酢。

サッパリとした、食材の味を消さない付けダレ。


コトコトコト……グツグツグツグツ。


煮えたようなので器によそる。具と共に汁を入れるのも忘れない。

食べてくれと言わんばかりに湯気を立てこちらを誘惑してくるそれは、とても美味しそうだ。

手を合わせる。

それでは、いただきます。




先ずは豆腐。

熱々な時が一番美味しい、白く柔らかいもの。

箸で小さく切り、掴んで口元に持って行く。息を吹きかけ熱を冷ます。

ふーふー、ふーふー。

火傷をしないよう、念入りに。

そして、ーーパクリ。

舌の上に熱く柔らかい塊が滑り込む。淡白なそれを火傷をしないように噛み、飲み込む。


次に白菜。

どんなタレとも喧嘩をしない、鍋の定番野菜。

ふーふー、ふーふー。

豆腐と違い、熱さより滴る汁に気を付けながらポン酢に絡めて食べる。

ーーパクリ。

微かに残ったシャキシャキ感が歯を伝う。すぐに飲み込めるので、テンポ良く食べ進める。


その次に春菊。

独特の香りを漂わせながら存在を主張する、好き嫌いが分かれる野菜。

ふーふー、ふーふー。

癖のある味は、タレでも打ち消されることはない。

ーーパクリ。モグモグ。

茎の部分は少し硬く歯応えがある。口の中に広がった風味は暫く残り香の様に漂う。


唯一のキノコである椎茸。

肉厚で、食べ応えがある。

ふーふー、ふーふー。

汁を含み易いので、豆腐と同じように念入りに冷ます。

ーーパクリ。モグ、モグ、モグ。

味わう為に、ゆっくりと咀嚼する。

香りと食感を楽しむ。ふわふわしているのだが、豆腐とは異なり柔らかいだけではないのが面白い。


最後は肉である鶏。

もも肉は、焼くより煮る方が柔らかくなる。

ふーふー、ふーふー。

肉から出る脂が、付けたポン酢に浮かぶ。

ーーパクリ。モグモグモグ、モグモグモグ。

箸で細かく出来ないので、歯で噛みちぎりながら食べる。甘い脂とタレが、口の中で塩梅良く混ざり合う。




箸を置き、手を合わせる。

ご馳走でした。

未だ湯気が上がる鍋を眺め満足する。

寒い冬、寒い日には鍋が一番。

身体も心も温かくなる、魔法の食事なのだから。









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― 新着の感想 ―
[一言]  西さん、おひさしぶりです、葵枝燕です。  「魔法の食事」、読ませていただきました。  まだまだ寒いうちに読めて良かったです。鍋が恋しくなりました。  ちなみに私の家では、厚揚げや昆布、うず…
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