第20話 問題
やっとの更新です。ちょっとハーレクイン的なところがありますが、決して欲求不満という訳ではございません(>m<;)<なんてね
トントントンタン
軽快に響く足音。その音は段々高くなり2人の部屋に近づいてきた。
その音に我に返ったミサは、仲原の腕をほどき、洗面所へ行った。
私ったら、どうしたんだろう……。真っ赤になった顔を冷やすように、冷水でパチャパチャと洗った。ふーっと深呼吸をして、息を整えてみたが、一向に胸の高鳴りは抑えられない。
仲原はそっと、そんなミサの様子を見守りながら、顔を洗っている彼女の後ろに回った。
気配を感じてか、ミサは濡れたままの顔をあげると、鏡越しに後ろに立っている仲原の顔を見た。
彼は冷静に一直線にこちらを見る。
鏡越しであったが、その強い視線に驚き、ミサは顔を背けてしまった。
「これ」
仲原は洗面所の片隅に鍵をおくと、さっとミサから離れた。
「え?」
これって合鍵?付き合うという事なんだろうか。ミサは慌てて仲原の方へ寄り確認しようとすると、母親達が帰ってきた。
「ただいまー」
片手にはロック氷、片手には空いた酎ハイの缶を持ッた福永は、「さっぶー」と言いながらドタドタと入ってきた。「そりゃ寒いわよ」とミサの母親が福永に続いて入ってくる。
「あの、食べるだけ食べて申し訳ないんですけども」
仲原は、いつの間にか服を着替え、帰る様子だった。
「えー! 先生。せっかく氷買ってきたんだから、1杯くらい飲んでいかな…」
酔って少しクセの悪くなった福永を止めるように母親は言った。
「先生も忙しいのよ。真ちゃん」そして、丁寧にたたまれたスウェットの上下に目をやると
「これからもミサをお願いしますね」と仲原に声をかけた。
「はい」
仲原はそう言うと、「おじゃましました」と帰っていった。
「本当に挨拶の良い先生だねぇ。あれ? ミサは?」
「ミサ。先生帰っちゃうよ。ミサー」
2人はミサを探した。
「ト・イ・レ!」
真っ赤な顔をして出て行けば、何か感付かれるかもしれない。そう思ったミサは先程から、トイレに座ってじーっとしていた。しかし、赤くなった顔はなかなか戻ってくれない。ミサは手の中にある鍵に視線をやった。
なんで、合鍵なんて持ってるんだろう?ドクターってもてるから、やはり遊ばれてるのかもしれない。でも、でも。キスの場面を想像したミサは、そうした考えを吹き飛ばした。
次の日、ミサは日勤だったので、母親と福永に見送られ部屋を出た。福永は休みだそうで、まだパジャマを着ている。出来る事なら、勤務を代わって欲しかったくらいだ。どんな顔をして仲原に会っていいのか、そう思うとミサは深くため息をついた。
タンタンタンと階段を駆け降り、空を見上げた。空は明るく、うす水色。頬にかかる風はどまだ冷たいが、日に日に優しく感じられる。
歩きながら、昨日のことを想った。いつもいつも受身だった自分。なのに、どうして自分からキスをしちゃったんだろう?仲原の目が寂しげだったからだろうか。ふと、大胆な自分の行動がよぎると、ミサは目をつぶって首を横に振った。
「おはよう」
「あ!」
あの時、待ち合わせした電信柱に仲原が待っていた。少し微笑んだ表情で手を上げた。付き合いはじめた中学生のように、通学路で待ち合わせをしているような彼の姿。ぶっきらぼうな仲原と、その行動が結びつかず、ミサは思わず吹き出した。
「先生、どうしたんですか?」
ミサは少し笑いながらそう言った。
「昨日、言い忘れたから」
真面目な顔でそう言い、歩きはじめた仲原の後ろを、少し遠慮がちについていった。言い忘れたといいつつ、なかなか言い出さない仲原。とても長い時間に感じられた。ミサの頭の中でもいろいろな言葉が駆け巡る。付き合って欲しい、付き合いたい。そんな言葉を想像し、仲原の言葉を期待している自分がいた。
仲原が急に足を止めたのでミサは驚いて、立ち止まった。
仲原も照れ屋なのだろう。ミサの方を見もしないで話をはじめた。
「付き合ってくれるかな?」
キター。そんな感じだ。ガチガチに固まりながらもなんとか、声を振り絞るように出した。「ハイ」と一言。
仲原はうんと小さく頷いて、また歩きだした。男らしい背中を追いつつ、ミサは感じていた。いつまでも、受身でいるのは嫌だ。自信が無くて、弱くて、誰かの影に隠れているような自分を変えたくて仕方なかった。仲原となら何か変われるような気がした。
ミサは急に歩くスピードを速めて、仲原の横に並んだ。
「私も言い忘れたことがあります」
鼻筋の整った横顔が、驚いてこちらを見る。よく見れば、本当に格好よい。今まで何で気がつかなかったのかわからなかった位。そして、彼の唇を見ると、その感触を思い出し体中がしびれた様に感じる。優しくて、それで、だめだ、もう言っちゃえ!
「先生のこと好きになっちゃいました!」
「……」
少し間をおいて「お前、面白いな」と仲原は笑ってミサの頭をポンポンっと軽く叩いた。ミサもまんざらではなさそうだ。仲原は柔らかいミサの髪に触れ、離すのが惜しくなったのか、ミサの髪を撫でたあと「夜、ごはんどう?」と単刀直入に切り出した。
病棟での仲原は、朝の表情とはうって変わって厳しい表情を浮かべている。カルテを開き、自分の担当の患者の情報収集をはじめる。
ミサも仲原にみとれている余裕はない。清拭に、点滴、薬くばりに検温、次々と仕事が襲い掛かってくる。ナースステーションに戻ってこれたのは、お昼の休憩になってからだ。
「渡辺さん、早くお昼休憩いってね」
「血糖測定の人がいるので、それが済んだら行きます」
「って、渡辺さんが早く休んでくれないと、次の人が休めないじゃない。優先順位を考えて仕事しないと! もういい、私、先に行くから、あなたが残ってね」
「はい……」
角野亜里沙だ。さんざんミサに用事を頼んでおいて、優先順位もへったくれもない。ミサは眉間に皺を寄せながら、次の仕事にとりかかった。
ミサが血糖測定を済ませ、ナースステーションに戻ると、大声で怒鳴りあう声がした。
「だから、なんで勝手なことをするんだ君は」
「先生が何もしないから、自分がしただけです」
(えー?)
声の主は病棟主任の高津と、仲原。
ミサは目の前の光景を疑った。
(ちょっと、どうしたっていうの?)




