第一話 受け継がれた絆 パート8
時間は遡り、某所にて――。
『【愚者】が死んだようだ』
薄暗いマンションの一室にて、電話からは優しい口調の女性の声が響いた。
スピーカーフォンにしているのか、受話器はキッチン横のカウンターにおかれている。
「そのようだね。犯人は解っているのかい?」
リビングのソファで横になりながら、プラチナブロンドの髪をした青年が、気だるげにそう尋ねた。
美しく整った西洋系の顔立ちに、垂れ目の赤い双眸と人懐っこい笑みを浮かべる口元が特徴の美青年だ。
『【正義】だ』
「あっそー……、あそこのアルカナは引き継ぐ度に、問題を起こすなぁ」
青年はそう呟くと、「よっこいしょー」と言いながらソファから体を起こした。
『引継ぎを執り行ったのは【愚者】だ』
「なーんだ、引き継いだ途端、殺られたのか。アルカナ・ホルダーが聞いて呆れるよ」
青年はそう言うと、キッチンまで歩いてゆき、冷蔵庫を開けて、中から瓶ビールを取り出した。
『【愚者】は既にアルカナに見放された。あの小僧は最後まで【愚か者】で居続けられなかっただけだ』
「あぁ、【愚者】の宿命だよなぁ。いつまでもバカで居続けられる人間なんか、いる訳がないのに。――で、【正義】はどうする? アルカナホルダーの権限でも『剥奪』する?」
青年は瓶ビールの王冠を親指で軽々と弾き飛ばすと、泡立つビールをそのままラッパ飲みにした。
二口、三口と喉にビールを流し込んだのち、青年は付け加えるように、
「ちょーど、トウキョーにいる事だしさ♪」
と言い、窓にかかるカーテンを開いた。
月明かりの下、赤く輝く東京タワーを望む夜の絶景が、青年を出迎えた。
『その必要は無い』
と、電話機から淡々とした口調が発せられる。
「およ、何で~?」
『【愚者】が決着をつける』
「……【世界】、何時の間に【愚者】まで引継ぎの準備を?」
『引継ぎの段取りをしたのは、死んだ【愚者】だ。後詰めは、【太陽】と【魔術師】がやってくれる』
「準備のいいこって。んじゃ、俺はテキトーに見物してるよ」
『好きにするといい、【審判】』
「あいさ~♪」
クスリと子供のように無邪気に笑うと、青年はもう一度、ビールを喉へと流し込んだ。
そして、ゆったりとした足取りで、ベランダに出る。
「さーて、楽しいショーになるといいなぁ」
青年の視線の先には、煌々と赤く光る、東京タワーが悠然と佇んでいる。
そして、ニヤリと微笑むと、その視線の先を別の場所に向けた。
ビルで埋め尽くされた、その遥か地平の彼方にある、新宿都庁へと。
「さーて、今度の代は竜雅の小僧よりましになってくれよ、【愚者】」
青年はそう言うと、空になったビール瓶を放り投げ、放物線を描いて落下するビール瓶に、人差し指を向けた。
その途端、
――ボォン!
と音を立てて、青年の指先からバスケットボール大の火球が打ち出された。
火球は瞬時にビール瓶を蒸発させると、跡形もなく霧散した。
「――じゃないと、面白くない♪」
無邪気に力を奮いながら、青年はただ無垢な笑顔を浮かべるのだった。




