第一話 受け継がれた絆 パート3
寺野巡査長は眉間に皺を寄せながら、ブルーシートで覆われた現場を、少し離れた所から見つめていた。
彼は、警視庁魔法捜査一課のエースである。
魔法課とは、名前の通り、魔法を使用した犯罪に対応する部署だ。
そのエースである寺野巡査長は、今、とても不機嫌だった。
職務上、魔法を使用した殺人現場を多数見てきた彼でも、首を捻らざるを得ない現場だからだ。
被害者は、本条 竜雅(98)。日本魔法協会の会長を務める、日本の魔法使いの頂点に君臨する男だ。
その男を殺したのは、武器でも兵器でもなかった。
魔法である。
「一体、どんな魔法使いなんだ?」
脳裏で恐ろしい犯人像を思い浮かべながら、寺野は渋い声でそう呟いた。
寺野が悩み苦しむのも無理は無い。何せ、犯人像がまるで特定できないのだ。
悩み苦しむ寺野の背後から、小走りで中肉中背の男がやって来た。
「先輩、鑑識の結果が出たようですよ!」
後輩である東田巡査だ。
20代であるにも関わらず、東田の顔立ちは実年齢よりも10歳程年を食ったかのような老け顔だ。その為、東田と寺野が並んで立てば、先輩である筈の寺野が後輩に思われる程だ。
「結果は?」
「魔力属性は、四大元素の全てから外れています。単純に魔力放出の衝撃波によって、被害者は展望台の外まで弾き飛ばされたようですね。一応、魔力放出の威力カテゴリー、聞きますか?」
「――言ってみろ」
寺野は間を置かずに、そう即答した。
「推定、準一級から特級魔法クラス」
「ふん、……やはりな」
寺野は想定通りとばかりに、落ち着いた面持ちで、タバコを取り出し口にくわえた。
「あれ、驚かないんですか?」
落ち着いた寺野の対応に反して、東田は意外そうな面持ちで尋ねた。
「日本魔法協会の首魁を殺せるとなると、それなりの魔法使いになるなんて、簡単に想定できる。――犯人は、最低でも準一級魔法免許持ちの魔法使いだな」
意外そうな顔をする後輩にそう言い放ち、寺野はタバコの先を一瞥し、「着火」と器用に呟いた。
その途端、――タバコの先にポッと火が燈った。
【着火】の魔法である。
「それで? 地表100m以上から叩きつけられたのが死因か? そんな安い理由で、特級魔法使いは死ぬ筈が無いだろ? それじゃぁ、俺でも死なんぞ?」
「ええ、死ぬ筈が無いんです。――で、その死因なんですが、展望台のガラスの破片を【操作】系統の魔法を使って、被害者を追撃。ガラス破片は被害者の喉を貫き、害者に魔法を使えない状況に追い込ませた。
後は落下の衝撃で、他界。――これが、鑑識の見解ですよ、先輩」
「ふむ。……恐らく、不意を点かれて、連続攻撃、か……。——という事は、杖は持ってなかったのか、害者は?」
「ええ。たまたまか、それとも意図的なのか。……意図的なら、かなり親しい間柄の人間、という事になりますよね?」
「そうだな。交友関係は、別の班がじきに挙げるだろ。——で、めぼしい物証は何か見つかったか?」
「それが全然、駄目ですね。――害者の他に犯人と思われる人物が、あの展望台にいた事は確かなんですが、お互い、出入りする手段に【転送】系統の魔法を使ったらしくて、都庁のセキュリティーには何も反応しなかったらしいです。調べて解ったんですが、被害者が死んだ死亡当日は、被害者によって西側展望台を貸しきり状態にしていたそうですので、目撃証言もありません」
「成程。展望台を貸し切ってまで会う仲、か……。やはり交友関係が匂うな」
「あぁ、そだ。一応、物証に成りそうな物といえば、害者が握っていた、カードがあるじゃないですか」
東田の言葉に、寺野は脳裏に妙なカードの存在を思い出した。
「あぁ、あの崖に向かって歩いて行く、馬鹿な男の絵が描いてあった、アレか?」
「ええ、それです。一応、本件で唯一の物証なんですが、……そのぉ、何と言うか……」
「何だ? はっきりと言え!」
歯切れの悪い相棒に苛立ちながら、寺野は怒鳴った。
「はい。日本魔法協会の連中が持って行っちゃいました……。『これは、我々の財産だ』とか言って」
寺野が東田の言葉を理解するのに、きっかり30秒が必要だった。
「なあああぁぁぁにいいいぃぃぃっ!?」
と、完全に裏返った声で、寺野は怒鳴り声を上げるのだった。




