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第四話 リビングルームの激闘 パート2

「何よ、これ……」


 渋谷のハチ公前の広場は惨憺たる光景へ様変わりしていた。

 ハチ公の銅像を中心としたベンチは吹き飛び、鉢植えは爆撃があったかのように粉砕されている。

 粉砕された瓦礫は横断歩道を超えて、対岸の緑の電車のオブジェクト周辺まで届いている。

 そして、……


「三年の『メイガス』を、こうも易々と倒すなんて」


 アタシの視線の先には呆けた様子の悠木先輩がいた。

 鼻と口からダラダラと血を流しながら、壊れたように笑っている。

 いや、完全に壊れてしまっている。


「やられましたね。三年なら、一人でも勝てるとおもっていたんですが」


 背後から、風見鶏がやや驚愕した声でそう言った。

 言い訳はいい。


「後の『メイガス』は?」


「やめておいた方がよろしいかと。一位は近代魔法の使い手ですが、どちらかというと医療系統のエキスパートです。マテリアルバーストの威力は俺より強いですが、戦い慣れはしていません。三位に至っては、準二級の占星術師です。星占いで相手を殺せるのは一級くらいじゃないといけませんね」


「三年生って、使えない人間ばかりじゃないの!」


「『相手を攻撃する』、という点だけで見ると、実は1年生以下です。――と言いますか、『相手を攻撃する』事に関しては、我々2年生全体のレベルが歴代を突出していますから」


「あんた、アタシが三年生を動かせ、って指示を出した時、どうしてそれを言わなかったのよ?」


「俺は呪術師です。本条の周りの精霊の強弱くらい見分けられます。今朝まで本条の精霊の力が弱体化しているのが解りました。それこそ、風を起こす事もできないくらいに。原因はおいておき、あれなら三年生の『メイガス』でも十分だと判断しましたので、何も言わなかったのですが、失敗でした。寸前で力を取り戻したみたいです。申し訳ございません」


 恭しく頭を下げて、風見鶏はアタシに詫びた。


「もうっ、何でこうも上手くいかないのよ!」


 私は思わず地団太を踏んだ。

 打つ手、打つ手が、全て空振りになる。

 まるで、幼い時のアイツとやった鬼ごっこだ。アタシが鬼になったら、絶対に捕まられなかった、あの鬼ごっこみたいに、アイツはすぐにこちらの手口を見抜き、逃げ切ってゆく。

 そこだけは、変わらなかったんだ、アイツ……。


「いい加減、気付いたら? アナタとアイツじゃ思考のベクトルが違う事に」


 背後から聞こえたその声に向けて、私は振り向きざまにマテリアルバーストを放った。


「きゃあぁっ!」


 予想通りの人物が、そこで仰向けに倒れていた。

 あの準一級、風間 四季だ。


「あんた、アタシの気分を害したら、痛い目見るって事くらい、学習できないの? もしかしてバカなの?」


「ぐっ」


「そんなんで、よくアタシらの学年で一位だったわよねぇ。――ねぇ、風見鶏、コイツ、一位だったのに、あなたより頭が悪かったのよ。こりゃ、お笑いよねぇ!」


「ええ、傑作ですね、はっはっはっはっは!!」


 風見鶏とアタシが高笑いを上げると、つられて周囲の生徒達が笑い声を上げた。

 打ち抜かれた腹部を手でさすりながら、哀れな準一級は屈辱に満ちた表情を浮かべ、立ち上がろうとする。

 無様すぎて笑えるわ、その表情♪


「そのまま跪きなさい、準一級」


 アタシは口元に大きな笑みを刻んで、準一級のあの女に向けて命令した。

 立ちあがろうとしたその女は、いきなり片膝立ちの姿勢のまま、動かなくなった。


「な、何を……?」


「それっ♪」


 アタシは面白くなって、次は準一級の顔を踏みつけてやった。


「靴紐がほどけちゃったから、結び直すわ。あなたの汚い顔は靴を乗せるのにちょうどいいわ。地面と見分けがつかないくらいに汚いんだからぁっ!」


「ぐっ」


 屈辱と怒りに歪んだ表情で私を睨みつけられても、アタシはちっとも怖がらない。


「悔しそうねぇ、元一位。何なら『変身』してみなさいよ。あんたが信じている、下らないヒーローにさぁっ」


「……バカにしないでっ」


 きっ、と目を吊り上げて、風間が私を睨んだ。

 やはり、準一級クラスの洗脳はうまくいかないみたいだ。

 学校の教師も、最高で二級クラスなのだからすぐに上手くいったが、風間の敵意は消える気配がない。

 まぁ、本気で『命令』したら、簡単に言う事を聞くのだから、このままでいいだろう。

 アタシの魔力は底なし状態だが、無暗に乱発するのは控えるべきだ。


「フフ、まぁ、そうやって反抗心を燃やしてなさい。――で、相馬、警察は?」


 アタシはそう言って準一級の頭から足をどけ、ペンデュラムを垂らす女子生徒に声を掛ける。


「そろそろ、警察が来ます」


 と、相馬はそう答えた。

 そのペンデュラムは、徐々に大きく振り動き始めている。

 成る程、なかなか強そうなのが来そうだ。ドラマでやっているような、警視庁の魔法課クラスの刑事が来るのだろうか? 手駒にしたらどうなるのか楽しみだ。


「そりゃ、好都合♪ 丁度、国家権力が欲しい所だったのよ。――皆ぁー! 今日は日本を手に入れるわよー♪」


 我ながらぶっ飛んだセリフだ。

 けど、現実にしてしまうのだからしょうがない。

 アタシの『洗脳』さえあれば、どんな国家権力だって思うがままだ!

 まずは、東京都を手に入れるとしよう。

 あの人を殺してしまったあの場所を、アタシの城にし、武尊の奴を痛めつけてやろう。もう、アイツを徹底的に叩くには、権力を使うしかないんだ!

 そうだ、アタシは弱くない!

 正義はいつだって強いのだから。

 ――と、パトカーが何台もやってきた。

 最初にやってきたのは、二人組の刑事だ。

 老け顔と中肉中背の魔法が使えそうなデカが二人。

 よし、公務員奴隷、第一号と二号はあんたらだ。

 見てろよ、武尊。アタシが強いって事、証明して、アンタをいじめ倒してやる。

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