第三話 動き出す悪意 パート1
告別式になって、よーやく俺の気分は『葬式らしい気分』になった。
簡単に言えば、最悪の気分で片付く。
ガチで命を狙われていると知って、ウキウキしていられるほど俺は壊れちゃいない。
命を狙われているらしいが、最初の敵は『アーネンエルベ』という名のナチスの残党だ。
俺は関わり合いたくない相手程、関わられる運命にあるようだ。その組織のヨハンという男とは、どちらかが死ぬまでの付き合いになりそうである。
ヨハンが契約している悪魔に殺されたのなら、話はすんごく楽だが、そうもいかないだろう。
ババアの話だと、あの男は悪魔専門の詐欺師で、奴はそれを『アーネンエルベ』の任務の傍らでやってのける程、悪魔を騙すのが好きらしい。
それ程の男が、契約している悪魔に殺される訳がない。――それ以前に、悪魔は人間と違って約束を守るものだ。無論、そこは悪魔なので、契約の文章に載っている範疇のみの約束、という区切りは入るのだが。
つまり、今度会う時までに、俺は何としても【愚者】のアルカナを、最低でもシルフのコントロールを取り戻すところまでやらねばならない訳である。
結論、前途多難で制限時間がいつ切れるか解らない状況にある、というのが俺の立場だ。
ちなみに、今は葬式が終わり東京へ帰る飛行機の中。
隣の席には、姉さんが携帯ゲームをやりながら座っていて、時たま舌打ちしながら操作している。
かなり白熱しているのか、俺が命を狙われていると知っている筈なのに、ゲームに熱中しっぱなしだ。
画面を隣から見てみると、吹雪の中、白い水着みたいな鎧を纏った女性キャラクターが、黄色い竜に向かって、大きな槍を突き刺している所だった。
と、俺の視線に気がついたのか、
「あら、喉でも乾いたの?」
と、ゲームを中断し、鞄からお茶を取り出した。
「乾いてねーよ」
「それじゃ、モン●ンでもやりたかった? PSPの予備なら有るわよ?」
「そーじゃねーよ。何度も聞くけど、何で、俺に付いて着てんだよ」
「そりゃ、監視員だからね、私、――って何度も答えるわ」
冗談かます余裕はどこから来るんだよ、このニート。
「命ねらわれてんだぞ、俺? 巻き込まれるかもしれないのに、何で一緒に来るんだよ」
ちなみに、ババア達とは火葬が終わった次の日には解れていた。
去り際、シャル先輩は、「ま、あの男が『聖杯』が欲しいなら、最初に私を狙う筈だから、気にせず学校にでも戻って勉強でもしてなさい」と、まるで年長者みたいなセリフを――実際、あの人は俺より年上だが――言った。
幾つ年上なのかは不明だが。
「そんな事どうでもいいでしょ? アナタが命を狙われていようと、私はあなたの姉よ」
「……解ったよ、もう何も言わねーよ。好きにしろよ、ったく」
「えぇ、そうするわ。こうなる事は、あなたの世話役になると決めた時点で既に覚悟してるの。それに、あの悪魔契約者はそう易々とあなたに仕掛けたりは来ないわよ」
「何で?」
「貴方の中に取り込まれている聖遺物を抜き出すには、完全に貴方とアルカナが同化する必要があるの。そうしないとこの世界に具現化できないからね。目的がそれなら、あのヨハンという男は絶対に仕掛けてこないわよ」
姉さんはあっけらかんとした面持ちでそう言うと、再びゲーム機の電源を付けて狩猟を再開した。
姉さんは肝が据わっているな。
俺はそう考えながら、外に視線を移した。
外は雲の上を飛んでいるのか、何処までも果てしない青空が続いている。
無償に空が飛びたくなってきたが、あいにくとシルフは蛹状態だ。
あーあ、何だか、眠たくなってきたな。
もういいや。寝ちゃえ。
俺の意識は、徐々に沈んでいった。
◆
「あいつは、今日も休みなの?」
アタシはイライラとした口調で、掌握したクラスメイト全員に問いかけた。
ちなみに、今は朝のHR前の教室である。
教壇前で教師よろしく立ちながら、アタシはイライラと貧乏ゆすりを始めた。
一昨日、昨日、そして今日も忌引き。
三日も休むとは、さぞかし盛大な葬式でも行われているんだろう。
あんな死に損ない、死んだところで誰が悲しむものか。
私が殺したのも、きっと正義だ。私のやる事に間違いなんてない。この力を持つものは絶対に正しいんだから、そうに決まっている。
「――たぶん、明日じゃないかと思われます」
男子生徒がそう言った。
確か、アイツに影で風見鶏と呼ばれている男だ。
「根拠は?」
「一昨日は通夜、昨日は告別式、帰りに一日使うなら、今日。つまり、登校は明日かと」
何処か焦点が定まらない目で、アタシに話しかける風見鶏(第三位)。
完全に【洗脳】が効いているみたいだ。
「となると、奴が帰ってくるのは明日の13日の水曜日になるわね」
けど、どうして私はそんな事もスケジュールを立てなかったのだろう。
能力を掌握したのは昨日の火曜日。
出席しているという理由で、『メイガス』は手中に収めた。
だが、考えてみれば、無節操すぎたか、数が多すぎて、私自身、誰を【洗脳】したのか覚えられないくらいだ。
なら、いっその事、……
「アイツが来る前に、出迎えてやる準備をしましょうか」
アタシはそう呟いた。
「準備?」
「そーよ。ゲストとして丁重にもてなすのがホストの仕事でしょ?」
アタシはそう言うと、喉を鳴らしながら盛大な笑い声を上げた。
目指すは、職員室だ。




