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中将閣下来襲はマカロン、春の味で(後)


「閣下、一時撤退を!」


クルトの柔らかくて甘い粘膜が私の口を解放した瞬間、私は自身の良心に従って閣下に忠告を投げた。ぎゅっとクルトを抱きしめる。


「手遅れだったのか」

「私を排除するのならば雇われてからの最初の数時間でなさるべきでした。あなた方は判断を誤られたと私は思います。すでにクルトは私に執着している」


言うなり、私はクルトの唇に噛みつく。自分から舌を差し入れるような真似は初めてした。生涯初めて、だ。こん畜生。

クルトが驚きのあまり目を見開いて、けれど一拍もしないうちに目だけで蕩けてみせた。華のような空気が舞う。場違い極まりない。

窓には次々に鉄格子がおりていく。執務室のドアの錠が降りる音と破壊された音は同時だった。怖っえーー! の一言だけで廊下にかけられている無数の罠を薙ぎ倒していってる閣下に眩暈がするものの、突っ込まれた舌とせわしなく動くクルトの指に翻弄される。


「嫌がらない。イレーネ」

「つまりこのくらいでは堕天しないってことだな。どうする? どこまで試す?」

「…………俺の天使を取り上げようとする『大人』を放置して?」

「嫌がらない私は貴重だろう?」


我ながら下種な悪役っぽい笑みを浮かべて、私はブラウスのボタンを外す。スカートは防犯の役目を欠片も果たさないと、つくづく浸みた。私に必要なのは何枚も重ねたガードルとペチコート、柔らかな手触りをがっちり無くす機能性下着だな。うん。


あ、ついでに時代錯誤のコルセットも。


クルトの微かに震える手が私の下着の縁をなぞる。いやらしい雰囲気にどうしてならないのかって、ははっ、クルトが苦悩したツラ晒してるからだよ。初めて触るビスクドールに感心したって表情は最初の時。

温かい、吸い付くって驚いたのは二回目の時。


私が、外見こそ違えども中身はクルトと同じ作りだって知ったのは、あれは何度目の時だったのかな。


クルトがそっと手のひらに力を込める。純粋な脂肪は従順に形を変えて彼の手で握られる。まるで命そのもののように。

……ふぅ、とため息を吐き、クルトが私の上からどいた。助かったようだ。


「どこまで進めば堕天するのか、次からはそれを学びたい」

「次があれば」

「ある」


断言したクルトが執務机に座った。引き出しからキーボードを取り出し、高速で何かをタイピングし始める。耳を澄ますまでもなく屋敷内からは何の音も聞こえない。閣下はどんな侵入者よりも素早くここを辞したようだ。さすがに中将なだけある。

私はぐらつく体を叱咤してかろうじてソファから起き上がった。壁に控えていた人形が一体、補助につく。見ていられないくらいにふらついてるのか。


「イレーネ。天上人が死ななくても堕天できるのなら、俺はそれを狙う」

「クルトが死ねば私は自由だ。だったらやっぱり、お前には死んでもらう」

「メイドじゃなくてもいい。理由なんてつけなくていいくらいに家族になれ、イレーネ」

「死ね」


私に対しての禁忌を遠慮なく連発するクルトにとうとう我慢できなくなって、傍らに立っている人形の懐から武器を抜き、投げつけた。閣下の退去に対してのクルトへの足止め騒動の時に、当たり前だけど太腿のナイフを取り上げられたからこれは仕方ない。

銃は苦手なんだけど、こいつらがこれをメインに装備してるから、それも仕方ない。


人形用に配備してある銃は弾を重くしてあるようだ。弾倉が空になってもクルトには当たらなかった。いや、私がついつい人形相手にむきになったっていうのもある。だってこいつらがクルトをかばうから。


まるで、家族のように。


「夕食はハンバーグ。イレーネ、その時に下着は返そう」

「はぁっっ?!」


半分以上泣きそうにならながら一方的に人形と遊んでいると、クルトから夕飯のリクエストが入る。ついでに聞き捨てならないことを言われた。焦って自分の胸を触ると、確かにふかっとしている。通常よりも。

で、視線をクルトに戻せば……お、おいおいよりにもよって胸ポケットから出すか? 下着。

どこの変態だ。


「足の方の下着は取ってない。俺の良心に従った」

「死ね変態」


むしろ胸押さえがないことに気が付かなかった自分の迂闊さに完敗だ。乾杯か?

私は尻尾を踏まれた猫のように飛び上がり、クルトの執務室から走り逃げた。後ろで滅多にないくすくす笑いが聞こえたが、惜しいとは思わない。

畜生、ちくしょう、畜生。


私は、腹いせに閣下のために用意しておいたマカロン春の味、を、ぜーーんぶ、食べてやった。クルトが丁寧にその様子を閣下にメールしたため非常に悔しがられたそうだが自業自得だ。ふん。




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